遠慮のない姫と大魔道士-裁判回避の為のとある戦後処理 二代目大魔道士ポップとパプニカ王国王女レオナは不定期に会談を行う。あるいは報連相の類であるし、あるいは単なる茶飲み話でもある。
回数を重ねるごとに以下の形式が徐々に確立してく。
・私室では行わない。屋内においては扉を常に開放、あるいは開けた中庭のテラス席
・屋外では大魔道士が緩めの真空呪文で自分たちの周囲を覆う。防音・弓などによる狙撃防止用。
・大魔道士が呪文を発動していることで、姫へ更なる攻撃呪文は発動できないと、家臣たちに安心も与えている。普通は2つ同時の呪文の発動はできないので。
・周囲を覆う緩めの真空呪文を姫へ向けたとしても大魔道士も巻き込まれるぐらいの距離とみなされている。普通はそんな収束した魔法は発動できないので。
・姫は帯剣、大魔道士は杖を含めた武器の持ち込み不可。
此方もあまり意味がないが、やはり形式が大事な時もあるのでそうしている。
これはまだ勇者捜索中のころのある日。
「ポップ君 お願いがあるんだけど」
「内容次第かな」
「ヒュンケルをね。アバン先生の養子にしたいと思うの」
「あー、いいんじゃね。カールの王配が後見につくなら、元不死騎団ってことを表立ってガタガタ言うやつも減るだろ。臣籍でカール王国の継承権なしで、だろ?養子っつーより先生に後見になってもらおうってことか」
「そう。身元保証がある状態のほうがヒュンケルも何かと楽だと思うし。でもうちで厚遇するのは……」
「親兄弟が殺された恨みに囲まれるのはしんどいだろ、お互いに。って養子の件、それ、おれへ頼むことじゃねえじゃん」
「アバン先生には内々に打診して、問題は無いというお返事をいただいているんだけど。正式に打診するにしてもなんにしても先にヒュンケルの承諾を得ないといけないでしょう?」
「でも姫さんからヒュンケルに言えばそれはもう命令に近くなる、と」
「どうしても嫌なら断ってくれていいのだけど、できれば了承してほしいというニュアンスを伝えたくて。だからポップ君から」
「へいへい。かわいい妹弟子の頼みだからきいてやるよ」
「すごく綺麗でかわいい妹弟子の頼みだからよろしくね」
「ま、それはおいといて」
「おいちゃうの?」
「おく。あんときのヒュンケルへの判決、戦時の緊急事態ってことでみんなある程度は目をつぶっていたって部分もあるだろうしなぁ。姫さんとこも落ち着いてきたし、元不死騎団の長への処分はやはり甘いって声があがってきたら姫さんもしんどいもんな」
「そうなってきてからだと遅いのよね」
「本人はどんな厳しい処分でも受け入れるって言いかねないし?」
「でも他国のそれなりの身分なら、そういう声も公的には抑えられるから」
「じゃあヒュンケルに『おめぇはどんな罰もうけいれるつもりだろうけど、それを命じることになる姫さんの気持ちもわかってやれ』って言っていい?」
「……」
「姫さんとしては自分の気持ちや都合を押し付けたくないってことなんだろうけど。姫さんもヒュンケルを大事な仲間だと思っていることは伝えなきゃ伝わらねぇよ」
「……い、いいわよ」
「よろしい」
「あとね、それならね、私だけじゃなくて『マァムの気持ちも考えやがれ』って言っていいわよ」
「おれ、何も聞かなかったことにして帰っていいかな」
「ごめんごめんごめん!でも決着ついたんじゃないの?」
「……」
「どうなのどうなの?」
「こういう真面目な流れでそういうノリを出すんじゃねぇよ」
「で、実際はどうなの?」
「レ オ ナ 姫 様」
「魔法力が凄く高まっているわねポップ君!ちなみにうちでは王族弑逆は三親等まで連座だからね!!」
「そっかぁ、じゃあ統治機構ごとぶっ飛ばさねぇとなぁ」
「「あははははは♪」」
「ところでポップ君……」
「おぅ、このノリはヒュンケルの前では禁止だからな……」
「連座する親族はおりませんが、って言いながら極刑を求めそうだからね」
「わかってんならいい」
「大丈夫よ、あたしだって相手を見てふざけているんだからね」
「姫さんにふざけていただいて恐悦至極でございます」
「わかればよろしい」
では本日の報連相はこれまで