慰めと祝いの花火終戦一年後、記念祭にて。
パプニカ王国の城の中庭は一般開放されており、出店も並んでいる。芸人による芸や、役者による芝居も催されている。多くの民が一年の平和を祝い、楽しんでいる。
ポップはその様子を、城のバルコニーから眺めている。
「もう少しでキミの出番よ」
「花火だろ。ちゃんとやるよ」
「でしょうね」
「大魔王ですら驚嘆したこのポップ様の魔法と器用さを駆使して、とっときの綺麗なのをみせてやらぁ」
「……ねぇ、怒ってる?」
「何が」
「ダイ君がいないのに、こんなお祭りなんて」
「怒ってねぇよ。騒ぎの中に入れる気分じゃねぇけど。みんなが楽しんでいるのを見るのは悪くねぇ。あいつが守ったのは、こういう景色だ」
「ならいいけど」
「去年は悪かったよ」
「どのこと?どれ?」
「おれが姫さんに謝ることがいっぱいある前提かよ。ダイがいなくなった後の砦での慰労会。ロロイの谷で戦った各国のみんなのための」
「あの時ね。ポップ君、すっごく複雑そうな顔をしていたもの。『ダイがいないのに!』って叫ぶんじゃないかとひやひやしたわ」
「ダイがいなくなった直後でおれも頭がいっぱいだった。悪かったよ」
「ダイ君が生きている確証も無かったしね、生きているって信じてはいたけど」
「……」
「叫ばなかったから許してあげる。叫ぶ前に適当に抜け出したのも褒めてあげるわ」
「そりゃどうも」
「あの後、クロコダインやチウ君たちが盛り上げてくれていたから安心して」
「今にして思えば、あそこで姫さんが『慰労会をして帰国してもらいましょう』って言い出さないと、みんなずっとダイを探し続けそうだったもんな」
「そうなのよ」
「で、ずるずる探して探し続けて見つからなくて。暗い気持ちのままで国に帰ることになった。せっかくみんな頑張って戦って勝ったのに。そんなことにならなくてよかったぜ」
「どうしたの、えらく物分かりが良いじゃない」
「この一年、ダイを探すために旅をしただろ。で、たまに会うんだ。魔法円を守って戦ってくれた人たちに」
「そう」
「みんな、ダイの行方を心配してくれている、でも必要以上には気落ちしちゃいねぇ。あの戦いを誇らしそうにしているし、おれにとてもよくしてくれる」
「それはいいことね。でもあの戦いに参加したからって驕っている人が増えていたらそれは教えてちょうだい」
「へいへい」
「笑い事じゃないのよ」
「わかってる。でも今のところ大丈夫だぜ。その人たちに会うと実感するんだ。あの戦いで命を張って世界を守ったのはおれたちだけじゃないって。誰も言わねぇけど、おれのしるしが光らなくてうじうじしている間に怪我した人もいたに違いねぇ」
「そうでしょうね」
「頑張ったやつらやその身内は報われるべきだ」
「そのとおりよ」
「ダイだって報われるべきだし、ダイが帰ってきたときに『これがおれが守った地上なんだ』って誇らしげに言えるようじゃないとダメだ。だから、こうやって、みんなが楽しそうにしてるのを見るのは、悪くねぇよ」
「言いきかせているような言い方ね」
「まぁな。ダイがいねぇ、なのにどうしてみんな楽しんでるんだ。って気持ちはどうしたって頭の隅っこにあらぁ。でも、それはあの戦いで命を落とした人たちの身内がみんなどっかで思ってんだ」
「そうね」
「姫さんだって、ダイだけじゃなくて姫さんの親父さんも行方不明のままだろ。パプニカは激戦だったし、姫さんの周りのもっといろんな人が大変なことになっただろ?」
「今日はどうしたってそういうことを思い出すわ。楽しめば楽しむほど」
「おっと、姫さんは気落ちすんなよ。おれが落ち込んでもおれだけで済むけど、姫さんが落ち込むとパプニカが沈むからな」
「ちょっとぐらい良いでしょ」
「ちょっとだけな。ま、ダイやいなくなったやつらのためにも記念祭をやった姫さんは間違ってないって話だからさ。おれは花火をあげることを引き受けたんだ」
「助かるわ」
「ま、見てなって。どこかにいるダイや、なんならあの世のやつらにも見えるようなでっかくて綺麗なヤツをあげてやるぜ」
「ありがとう、楽しみにしているわ」