AM:05:00_MISSING風に混じって息を吐く。時刻は早朝5時。自分の息を視界に捉えて、ああ、冬が来たんだなと悟る。
何気なく機関直ぐ側に設置されていた自販機に寄る。側面には落書き。ショーケースのラインナップにブルーラムはない。
ーーーー塔和シティにあった、子供たちに占拠されていた、子供と大人の憎悪入り乱れたあの街にあった自販機と違って、外装に施された落書きは、大人のソレだった。
例えば、あからさまに性的な、あるいは暴力的な意味を含んだイラストであったり、未来機関への因縁であったり。はたまた元"超高校級の絶望"への崇拝を表明するものであったり。横書きでもFワードやSワードが飛び交うなんて、最早日常の一部どころか、当たり前になっていた。
チリリと僅かに胸が痛む。
塔和シティ。
そこは、ボクが。ボク達が。君の一部とボクが。カムクライズルと狛枝凪斗が確実に絶望していた場所だ。
記憶はあっても…いや、あるからこそ脳は、思い出すことを拒む。
事実を認識できたところで、覚悟して咀嚼したところで、100%受け入れられる訳じゃない。
「あ、」
とんとんと、軽く雪を蹴る足音が近づく。
「ここの自販機ないんだな。ブルーラム」
「みたいだよ。君が探してるなんて意外だね」
退廃的な気分にさせる逆エナジードリンクのことを、君はあまり良く思っていない。
ボクがこうして人の目を掻い潜って買いに来るのは、日向クン避けが第一の理由かも。
日向クンは、多分ボクがこの時間、部屋から抜けることを知ってる。気づいていながら見て見ぬふりしてたのに
。
「何の用」
「協力だよ。ブルーラム探しの。」
「君が明日は槍でもふるんじゃない」
「そうかもな」
あっさり言い切って、足元の空き缶をゴミ箱までシュートする。ボクがブルーラムの空き缶を居間でまとめると、散々それやめろと忠告してきたのは君じゃないか。今更何を言ってるんだろう。
ボクは呆れて、大きなため息をついた。
大体こんな寒空の中、それも大雪の日にわざわざ。来なくていいよ。あっち行って。ただでさえ人手不足なんだから、元予備学科だろうと病欠になられたら迷惑なんだけど。
ため息の後、息を吸って、たくさん悪態をついた。お願いだからボクから離れてほしい。そうすることで君の一日一日が伸びるなら、なおのこと。
天気予報なんて、この世界にそうそうないけど。明日は雪崩が起こる気がするんだ。経験則ってやつだよ。
だから、一刻も早く、ボクの側から離れて。
「大丈夫だよ。凪斗」
頬を両手でがしっと抑えられて、戸惑う。どうしちゃったのさ。
きっと君は、未来を知ってる。いつか来るいつかにおいて、君の時間が先に終わってしまうことも。
「骨も、残らないかもよ」
「そんなの、”友達”担った頃には覚悟決まってる」
ああ、腹が立つ、腹が立つ。
「君の...無謀と無策と平凡を絵に描いた様な、自分を顧みないところが嫌いだよ」
「それでもさ。ひとりよりふたり、だろ」
もし、今日のボクが不運な目に遭えば二人揃って明日は助かるのかな。それともどちらかの時が先に止まってしまうのかな。
そんな面倒になるくらいなら、図太くて諦めが悪い君といつまでも、この世界から逃避行していたい。
AM:06:30 塔和シティ→希望ヶ峰学園跡地