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    tikutaku_kati

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    tikutaku_kati

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    転生もの🐍☀️。のれん5用。細かい事は気にしなーい!そういう事。

    いつかきっと。何度でも 前編『今年の花火もキレイだなぁ』

     
     病床に伏した主人は、そう言い窓の外を見て微笑む。不治の病、この国随一の医者はそう言った。
     一瞬で目の前が真っ暗になった気がした。
     どうしてこいつが、どうしてこいつなんだ。
     信じたくない現実が重くのし掛かって、眩暈がしそうだった。そんな俺の隣で、当の本人は困ったように笑うだけ。
     そんなバカな主人にも、無力な自分にも腹が立って、どうしようもなく時間だけが過ぎていった。
     打てる手は全て打った。だが、成果が出なくては何も意味なんてなかった。
     
     『何かして欲しいことはあるか?』
     
     ほんの気まぐれ。延命すらしてやれない俺にコイツは何を願うんだろうか、ふとそう思っただけの。
     目を軽く見開いて驚いたような表情。少し考え込んだ後、またアホヅラを下げてへらりと笑ったアイツ。
     
     『ジャミル、オレーーー』
     
     聞いた瞬間、肩の力が抜けた事に気づいた。柄にもなく緊張していたらしい。
     でも、そうか。そんな簡単な事だけでいいのか。
     
     『簡単だな。叶えてやる』
     
     少し横柄な言い方になってしまったかもしれない。我ながら、最期まで素直にはなれないらしい。
     
     
     
     でも、それでも、アイツは嬉しそうに笑うんだ。まるで宝物を貰ったみたいな顔をして。
     艶を失った髪、カサつく肌。
     もう直ぐ俺の前から居なくなってしまう薄情な主人。だが、赤い瞳だけは、宝石のように輝きを失わない。
     
     
     
     最後にもう一度だけ呟いた。
     
     
     
     
     叶えてやる、絶対に
     
     
     
     
     ーーーその言葉は、お前に届いただろうか。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     キーンコーンカーンコーン
     
    「もうこんな時間か。来週までに復習しておくように」
    「きりーつ、礼。ありがとうございましたー」
     
     日直が言い終わると同時に教室が賑わい出す。
     わいわいと楽しそうに相談し合う声が耳に届いて、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。軽く弾むクラスメイトの声は、誰を明日の祭りに誘うだとか、何時集合だとかいう内容だ。
     毎年7月の下旬にある夏祭り。この辺りでは一番大きい祭りで出店も多く、花火も上がる。地元ではちょっと有名な夏の風物詩、といったところだ。
     
    「花火、か」
    「お!カリムも行くだろ?」
    「へ?」
     
     ぽつりと呟いた言葉に返事があって軽く驚いた。
     窓の外に向けていた視線を戻すと、いつの間にか机の周りに友達が集まっていた。いつも遊んでいる奴らだ。
     
    「なんだよその反応。行かねぇの?あっ!もしかして…彼女とか?」
    「いや、」
     
     一人が茶化すと、わっと周りが一斉に騒ぎ出す。
     
    「委員長に彼女なんて初耳だぞ!嘘言うなっ!」
    「アジームが俺たちを裏切るはずないだろ〜なぁ?」
    「でも俺たちも高校生だし彼女の一人くらい…」
     
     シーン。
     
     やいのやいのと賑やかだった空気が、止まった。肩を落としてしくしくと泣き真似までしているやつもいる。
     チラ、チラッとオレに突き刺さる視線。
     
    「いや、彼女は居ないけど」
     
     どう言ったものかと口籠もってしまった。
     
    「なら俺たちと夏祭り行けるよな?な?」
     
     委員長、カリム、アジーム、と皆んな口々に俺を祭りに誘ってくれる。
     
    「そうだな、うん。みんなで行くか!」
     
     笑いながらそう言うと、同じように笑顔が返ってきた。
     今年は出店が多いらしいとか、浴衣を着て行こうとかそんな事を話し合う。
     来年は大学受験も控えているから、このメンバーで祭りに行けるのも最後かもしれない。
     そう思うと、少し寂しいような気もするけどーーー。
     
    「祭り、楽しみだなっ!」
     
     最後かもしれない。なら寂しさよりも楽しかった、また集まろう、そう言えるように。
     いつもより声を張ってそう言うと、皆んなもそうだそうだともっと笑ってくれる。
     それが凄く嬉しい。
     
    「でもすまん!花火は一人で見たいんだ」
     
     申し訳なくて頭が下がってしまう。
     
    「いいっていいって!毎年そうなんだから」
    「へへっ、ありがとな」
    「でも何で一人で見るんだよ」
     
     純粋に不思議に思ったんだろう。そうに聞かれて、喉が詰まった気がした。
     
     
     ーーー何で一人
     
     
     胸がチクリと痛んだ。
     ゴンっ、と鈍い音がして見上げると、聞いてきたやつが頭を抱えて蹲っていた。
     
    「デリカシー」
     
     殴ったやつが憮然と腕組みしている。
     
    「ごめんって。カリムもそんな顔すんなよ」
     
     心配そうに伸びてきた手は俺の頭をよしよし、と撫でて離れた。
     心配かけてごめんな!大丈夫だ。気にしてないぜ!そう言おうと思ったのに。
     
    「あぁ…。うん」
     
     それしか出てこない口に自分でも驚いた。
     不安そうな顔をするやつに曖昧に笑いかけて話を戻した。
     ぼーっとしているうちに待ち合わせ時間が決まって、簡単な予定がスマホに一斉送信される。
     
    「じゃあまた明日」
     
     誰かが言った別れの言葉に頷いて手を振る。
     教室を出て夕陽に染まる帰り道を一人で歩く。
     
    「何で一人、かぁ」
     
     知らない人と待ち合わせしているから、なんて言ったら皆んなどんな顔をするだろうか。まあ、その待ち人も来たことがないから毎年一人なんだが。
     何となく頭の中にいつも居るあの人。昔から知っているけど知らない人。多分男の人だとは思う。それ以外知らない、でも会いたい人。
     
    「誰なんだろうな。でも、」
     
     
     
     会いたいんだ。
     今年こそはきっと。
     
     学生鞄をギュッと握り込んだ。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     黒地の浴衣に紅い帯を巻いて、下駄をカラコロ鳴らして祭囃子の中を歩く。太鼓の音は空気を揺らして直接身体に響くみたいだ。
     友達とグループになって射的をしたり、水風船を釣ったり、くじ引きでいらない景品を押し付けあったり…。バカみたいにはしゃぎ回った。
     一人一人の顔を目に焼き付ける。今のこの時を忘れないように。
     
     
     キーーーン、境内にスピーカーが反響する。
     
     
     『ご来場の皆様、花火はあと十分程でーーー』
     
     
     この決まったセリフを何度も聞いた。繰り返し、毎年、何度も。
     
    「もう花火の時間だ。…オレ、行かなきゃ。みんな、ごめん」
     
     このメンバーで集まれる最後かもしれない夏祭りをオレの都合で抜ける。しかも理由は、来るかもわからない、むしろ存在していない可能性が高い人物との待ち合わせの為だってのが笑えない。
     物心ついた頃からの頭について消えない約束。
     その時、項垂れた背中を、トンッと押された。
     下駄がカランと音を立て、一歩足が出る。
     
    「いいんですよ。行ってきてください、寮長」
    「っ!おうっ!!ありがとなっ!」
     
     そうだ早く行っちまえ、と笑顔で見送ってくれる皆んなに手を振りながら早足でかける。
     境内の横をすり抜けて獣道をしばらく歩くと、小さい公園に出た。公園といっても小さい砂場とベンチしかない、休憩場所のような公園だ。
     
    「うん。やっぱここが一番見えやすいな」
     
     人も居ないし木も低い。上を向くと空がよく見えた。
     中学生になった頃からのお気に入りの待ち合わせスポットだ。
     夜風がさらりと髪を撫でていく。
     
    「今年は来るかな〜。でも会っても分かんないかも?そもそも何で待ってるんだっけ…約束って待ち合わせじゃない、よな?いっ、!」
     
     ずきり、と頭が痛くなる。昔からそうだ。約束の事やあの人について考えると痛みが出てしょうがない。まるで思い出したくないみたいに。
     慣れない下駄で足も痛い。花火が始まるまで、とベンチに座りひと心地つく。
     
    「ほんとオレ、訳わかんない事してるよな。全部妄想かもしれないのに。来年から待つのやめよう、かな」
     
     受験勉強もしなきゃいけない、一人でぶらつくより夏期講習にでも行った方がいい。そうだ、その方がいいに決まってる。
     
     
     
     ーーーは絶対来てくれる。
     
     
     
    「っ!」
     
     まただ。頭の中で声がした。
     
    「なんなんだよ。もう…」
     
     この声が諦めそうな時、いつも励ましてくるのだ。
     絶対来るから待っていろ、と。
     そして毎年一人で花火を見て、一人で帰る。こんなに寂しいこともないのにそれでも、待っている。
     
    「分かってる、だから今年も待ってるだろ?」
     
     頭の中の住人との会話も虚しく、現実ではただの独り言になる。誰かにこの事を話したら病院にでも連れていかれそうだ。
     
     
     
     ヒューーゥ、バンッ!
     
     
     
     火薬の匂いと一緒に空に大きな花が咲く。
     慌てて見えやすい位置に移動して空を見上げる。
     
    「今年も綺麗だな!さすが夏の風物詩ってやつだ」
     
     赤、黄、水色、紅、紫、青、緑。色とりどり、大小様々な花火が打ち上がっては消えていく。
     
    「おお!今のは凄く大きかった!」
     
     弾けては消えていく。
     
    「小さいのもかわいいな!大きいのと一緒に上がると親子みたいだ」
     
     綺麗で、儚くて。
     
    「ほらっ!また上がったっ!なぁ!…なぁ…なんだっ、け」
     
     寂しい。
     
     気付いたら涙が止まらなくなっていた。
     どうしてオレは今一人なんだろう。なんで思い出せないんだろう。きっと大事な人だったんだ。大事な約束だったんだ。なのに、なんで…っ!!
     
    「ふっ…っ!んっ、どう、してぇっ、ヒクッ!…オレっ、んんっ…!ふッ、、…っ!」
     
     少し泣いて終わるつもりだった。いつもならすぐ止まるのに、大粒の涙は次々と溢れ出る。
     
     スピーカーの音がキーンと鳴る。
     
     
     
     『次で最後の一発となります。皆様ーーー。』
     
     
     
     最後の花火、ちゃんと見よう。そう思って目元を裾でぐいっと拭いて顔を上げると、人影が見えた。
     
    「え?」
     
     思わず声が出てしまった。
     泣いている間に来たのだろうか。思いっきり泣いてしまっていた。恥ずかしくて顔が熱くなった。
     
    「泣き終わったのか?」
    「っ!、うん」
     
     話しかけられるとは思わなくてびっくりした。
     
    「ここの方が良く見えるぞ」
     
     そう言って人影は自分の隣を指差す。
     
    「隣、いいのか?」
    「ふっ、いいに決まってるだろ」
     
     柔らかくて、どこか懐かしい声が笑った。
     泣き腫らした瞼を擦って、一歩、二歩と歩き隣に並んだ。
     
     
     
     ヒューーゥ、ドォンッ!
     
     
     
     紅くて一際大きい花火が弾けて夜空を覆い隠した。
     
     
     
    「綺麗だったな」
    「ああ、とってもきれいだった」
     
     花火が終わった後も、らしくもなく緊張して隣が見れない。ドクン、ドクンと心臓がうるさいくらいに主張している。
     
    「おい」
    「あっ!ああ、なんだ?」
     
     この人だろうか。でもどう言ったらいいんだろうか。
     向こうも呼んだっきり一向に話出さない。
     沈黙が重くのしかかってきた。
     
    「「あ」」
     
     被った。また二人揃って推し黙る。
     遠くで鳴いている蝉の声が一番大きく聞こえてくる。
     気まずさに耐えられなくなってきた。
     ふと相手の服装が目に入った。浴衣だ。しかも黒地の浴衣。
     なんだか嬉しくなってしまった。
     
    「なあ、お前はどうしてここに来たんだ?神社からは随分離れてるし普段は誰も来ないのに」
     
     自然と明るくなったオレの声と正反対に、男の眉間には皺が寄った。思わずしげしげと顔を見ると、中々の男前だ。
     それになんだか胸がムズムズする。やっぱりこの人だという確信が胸に募っていく。
     
    「どうして、か。分からないのか?本当に」
    「ええと、うーん。…オレたち、初めましてだよな?」
     
     はぁー、と大袈裟にため息をつかれた。美人の表情が曇る。どうやら不正解だったらしい。
     まあ、質問に答えていないから当然だけれど。
     
    「初めまして、だな。確かに今は。で、分かったか?何で俺がここに来たのか」
    「…んん、変なこと言っていいか?」
    「ああ」
     
     深呼吸をして、しっかり視線を合わせる。目の前のそいつは、オレの答えを待っていた。
     愛おしいものでも見るような優しい目をしながら。
     
    「オレに会いに来た、とか…?」
    「正解だ。お前をずっと探していた。カリム」
     
     ふわりとスパイスの香りが近づいてきて、抱きしめられた。やっぱりこの人だという安心感と嬉しさで胸がいっぱいになった。心臓が痛いくらいに脈打っている。
     でも、あれ?
     
    「なんでオレの名前知ってるんだ?」
     
     その瞬間、バッと身体が離れていった。
     
    「はぁあ??カリムお前覚えてないのか!?」
    「そっ、そんなに怒るなよジャミル〜……。ん?ジャミル??」
    「なんだ、覚えてるじゃないか。驚かせるんじゃない。お前が言い出した約束じゃないか」
     
     スっと出た言葉に般若のようになりかけていた顔が一気にすんっと、涼しげな顔に戻った。どうやら目の前の人はジャミル、という名前らしい。
     今度は怒らせないように話さないと。でも覚えてる、なんて嘘はつけないし…。
     
    「いや、あのな、怒らないでくれよ?覚えてはいないんだ。たははっ…いやっ!考えようとすると頭が痛くなってな、全く分からない訳じゃなくて!えっと」
    「分かった、分かったから。少し落ち着け。カリム、そういえば今何歳だ?」
    「17だぞ。ジャミルは?」
    「俺も17歳だ。ふむ、なら時間はたっぷりありそうだな」
    「ん?どういう事だ」
    「いや、何でもない」
     
     一瞬ジャミルがニヤッと笑った気がしたが、すぐに優しい顔に戻った。
     
    「なあなあジャミル、教えてくれよ〜」
    「内緒だ内緒。そういえばここからカリムの家は近いのか?」
    「ああ!あの青い屋根の家だぜ」
     
     
     暗い夜道も明るく見えた。
     また、会えたのだから。
     
     
     
     
     
     
     
     たわいもない話を沢山しよう。
     一緒に旅もしたい。
     もっとジャミルの飯が食べたい。
     また、一緒に花火を見よう。窓からじゃなくて、一番見晴らしの良いところで。
     その時は隣に居てくれよ。ジャミル。
     
     
     
    「当たり前だ。ばか」
     
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