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    shimotukeno

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    ※母が曾祖父から聞いたという寝物語をもとに書いたお話を童話として再構成した(ものをさらに日本語訳した)というていの五部のお話  7 列車編(後編)

    ##ジョジョと結晶の王国

    ジョジョと結晶の国 7 目覚める心 プロシュガードは、なんとかジッパーに手の先をひっかけました。ですが、プロシュガードの細い体にはブルーノがしがみついています。それに、ブルーノがジッパーを閉じてしまえば、身体が完全に投げ出されてしまうのは火を見るより明らかです。プロシュガードは声を張り上げました。
    「ピスキス! 列車を止めろ!」
     その声は風と走行音にかき消されます。ですが、必死の思いがピスキスの目を覚まさせました。
     ピスキスが目を覚ますと、ブルーノの姿もプロシュガードの姿もなく、荷物車に大きな穴が空いています。そしてその端っこにプロシュガードの前足が引っかかっていることに気がつきました。
    「あ、兄貴! まさか、ブルーノと列車の外に! 今、助けるよ!」
     ピスキスは手を伸ばしましたが、その前にジッパーが閉じてしまいます。
     ピスキスは一瞬運転席の方を見ましたが、今からでは間に合わないし、第一、列車の止め方なんて知りません。でも、何もしなかったら、それこそプロシュガードを助けることは無理でしょう。
     ピスキスは必死の思いでフィッシャー・マンの糸を伸ばしました。糸はピスキスの思いに応えるようにすさまじい速さで伸びて、ついにプロシュガードの前足を捉えました。これでもう、針が外れることはありません。
    「よし、よくやったぞ、ピスキス!」
     荷物車よりずっと後ろの客車の外壁で、プロシュガードがピスキスを褒めました。こうなると今度はブルーノの身が危険です。プロシュガードの身体にしがみつきますが、プロシュガードの方もブルーノを落とそうと爪を出して蹴ってきます。車体に移ろうにも、プロシュガードの妨害が激しいのです。
     このままでは、らちがあきません。
    「ジッパー・マン!」
     ブルーノはパンチを繰り出しました。しかし、先ほどよりずっとのろくなっています。ブルーノの老化は今も進行中なのです。
     プロシュガードはするりとかわしてしまいます。そこで、ブルーノは両手を離しました。今度は両手で同時にパンチを繰り出そうというのです。
    「無駄だぜ、ブルーノ! 同時にパンチをしようが、お前の動きはもうジジイなんだよ!」
     プロシュガードはザ・サンクフル・デッドに拳をガードさせます。しかし、このガードこそブルーノの狙いでした。ガードしようとすると、相手の拳が向かってくる場所に手を持ってくることになります。つまり、ブルーノからすれば、自分が拳を突き出す場所にプロシュガードとザ・サンクフル・デッドが自分から拳を合わせてきてくれるわけです。今、プロシュガードとザ・サンクフル・デッドの『手』にはピスキスの釣り針がかかっています。釣り針からは、糸が伸びています。ブルーノがパンチを繰り出した場所に、プロシュガードはピスキスの糸が伸びる手を持ってきてくれました。
     ブルーノの本当の狙いは、『糸』を攻撃することでした。
     ブルーノは、パンチをガードに弾かれたと見せかけて、ジッパー・マンでピスキスの糸を攻撃していたのです。
    「何!?」
     プロシュガードもブルーノの真の狙いに気がつきました。
    「ミシェレからの情報だ!」バレッツのNO.6は言いました。「糸を攻撃すると、『釣られている者』に攻撃のエネルギーが返っていくんだぜ!」
    「うわあああ!」
     プロシュガードの身体に、糸から攻撃のエネルギーが返ってきます。前足のあちこちにジッパーの切れ目が入り、釣り針が抜け出ました。ブルーノはすかさず、抜けた釣り針を自分の手に刺しました。一方で、プロシュガードの身体は疾走する客車から投げ出され、恐ろしい勢いで地面に叩きつけられました。
     ブルーノはひらりと客車の天井に上がると、ほっと一息つきます。プロシュガードの老化の能力が切れて、四肢に活力がよみがえってきました。これで亀の中で眠っているオランチアやジョジョも元に戻り、みんなで力を合わせてピスキスと戦うことができるでしょう。あとはジッパーで釣り針を外すだけでした。
     ですが、ピスキスも異変に気がつきました。
     フィッシャー・マンは釣り竿の形をした精霊です。釣り竿を持つのは、ピスキス自身の力でした。そのため、釣っている体重が少し軽くなったことにはすぐに気がつきました。
    「体重が軽くなった! でも、おかしいぞ! 兄貴はもっとずっと軽いはずなのに!」
     ピスキスは青ざめます。糸から伝わる感触も変わっています。ピスキスの糸は振動や体内の感覚を感じ取ることができました。ピスキスは震える手で糸に触れます。糸から感じ取れるのは残酷な真実だけでした。
     周りを見渡します。隣の客車では、乗客がよろよろと歩き回って、同じく起き上がった車掌に病気を訴え出ていました。みんな、元の若い姿に戻っています。
     ザ・サンクフル・デッドの能力が切れていることが意味するのは、決まり切っていました。
    「そんな、兄貴がやられるなんてうそだ! うわああああん!」
     ピスキスのくりくりとした目から涙が溢れ出ました。ピスキスは心から『プロシュガード兄貴』を頼りにしていました。その心の支えを亡くしてしまったのです。心がくじけて、フィッシャー・マンを手放しそうになった、まさにその時でした。
     隣の客車で、バタバタと客が倒れ始めました。みんな、またしわしわの老人に戻っているのです!
     ピスキスはハッとして、窓から顔を出すと、後方車両の台車部分に、血に染まった金色の何かが引っかかっているのが見えました。プロシュガードでした。地面に叩きつけられながらも、なんとか列車にしがみついているプロシュガードが、またザ・サンクフル・デッドの老化の力を発動させたのです。
     しかし、プロシュガードはぼろきれ同然で、息を引き取るのは時間の問題です。それでも、ザ・サンクフル・デッドの力を継続させています。その姿に、ピスキスの目からまた涙が溢れ出ます。悲しみもあります。けれど、それ以上に感銘の気持ちがありました。「どんなに深手を負っても諦めない」というプロシュガードの言葉は、まさしくその通りだったからです。
     ピスキスの心に、『覚悟』が目覚めました。
     
     一方、ブルーノもプロシュガードがまた能力を発動させたことに気がつきました。
    「ブルーノ、とにかく早くその釣り針を取り出すんだ!」
     NO.6が叫びました。ブルーノもジッパーで腕を開き、釣り針を取り出します。すると、取り出された釣り針は、まるで魚が飛び込むように、また腕に飛び込んできてしまうのです。まるで、釣り針に目でもついているかのように、正確に腕に入り込んできます。
     ブルーノは何度もジッパー・マンによる摘出を試みましたが、無駄でした。何度やっても、釣り針は入り込んできます。そして、心臓に向かって進んできます。見かねたNO.6がまた叫びました。
    「下のヤマネコにとどめを刺すんだ! そうすれば、今度こそ完全にみんな復活するよ!」
     しかし、それも難しいことでした。ピスキスは糸でブルーノの身体を振り回そうとしてくるので、高速で走る列車の上では、身体を安定させるので精一杯なのです。
     一体、あの子猿のどこにそんな力があるのか不思議なくらいです。
     すると、列車が橋にさしかかったところで、ブルーノの身体が横に引っ張られます。柱で、ブルーノの身体をぶった切ろうというのです。ブルーノはジッパー・マンの手を伸ばし、どうにか出っ張りにしがみつきましたが、ブルーノの行動は、ピスキスには糸を通じてまるわかりでした。
     今度は、身体が上に投げ出されます。そのわけはすぐにわかりました。
    「ブルーノ、次はトンネルだ! 天井にぶつかっちまうよォーッ!」
     今度はトンネルの天井に叩きつけようというのです。しかも、トンネル内で四方八方振り回されたら、もうおしまいです。
    「ジッパー・マン!」
     ブルーノは列車の天井にジッパーをつけると、間一髪、車内に滑り込みました。
    「ようし、車内に入ったからには、直接あの子猿と決着をつけようぜ!」
     NO.6は明るく言いましたが、ブルーノは首を振ります。ピスキスに振り回されている間にも、釣り針はブルーノの腕の中を進み続け――すでに、胴体に突入していたのです! 釣り針が心臓を突き刺すまで、ほとんど時間がありません。
    「この釣り糸、恐ろしい能力だ。いや、それ以上に、これを操るあの子猿だ。たいしたことないと思っていたが、とんだ勘違いだった。あのヤマネコを突き落としたことで、ヤツの中に眠る強い覚悟を呼び覚ましてしまったようだな」
     ブルーノは感心した様子で言いましたが、そんな場合でないことは、本人が一番良くわかっています。
    「だから、コイツを倒すには、コイツ以上の覚悟を見せつけるしかないってことさ!」
     ブルーノは横にあった個室に飛び込むと、ジッパー・マンに糸を攻撃させました。糸を攻撃するとそのエネルギーは釣られている者に返っていきます。ブルーノの身体は、跳ね返ってきたジッパー・マン自身の攻撃のエネルギーによってジッパーでバラバラにされてしまいました。しかし、身体深く入り込んでいた釣り針は取り出すことができたのです。
    「ブ、ブルーノ! なんてことを! 針は取り出せたけど、そのままじゃあ、呼吸も、血の巡りも止まって死んじまうよう!」
    「『覚悟』というのは、こういうことだぜ、NO.6」
     ブルーノは星々のささやきのような小さな声でいいました。
    「NO.6、静かにするんだ。あいつが俺を完全に見失って去るまで、静かにするんだ」
     釣り針は、ブルーノを探して蛇のようにうねります。ブルーノが呼吸もできなくなり、血の巡りも止まったことで、ピスキスはブルーノの位置を感じられなくなっているのです。
     糸はどんどんのび、毛糸玉を転がしたようにあちこちに這い回っています。恐ろしい光景でしたが、同時にピスキスがブルーノを完全に見失ったことを意味しています。ブルーノは、ピスキスがこの個室を諦めるまでひたすらじっとしていることを選びました。みずから身体をバラバラにして何もせず、石のようにじっとし続けることが、ブルーノの『覚悟』だったのです。
     釣り針は列車の振動の中から小さな振動を嗅ぎ取ろうとしています。乗客の懐中時計や、手首の脈を感じては攻撃をしていますが、ブルーノのものとは違うとすぐにわかってしまいます。
     その時、這い回っていた糸が、まだかすかに動いているブルーノの心臓近くに触れました。
    「ま、まずい! 心臓が見つかっちまう!」
     すると、ブルーノはジッパーで心臓を真っ二つにわけてしまいました。しかし、ブルーノの身体は既に限界に近づいています。この状況で、静かにすることしかできないNO.6は、歯がゆそうに両手を握りしめました。一秒一秒が、酷く長く感じられました。
     すると、糸がものすごい勢いで巻き戻されてゆきます。ついにピスキスが諦めたのです。ブルーノの『覚悟』の勝利でした!
    「やったあ! 切り抜けたぞ! ブルーノ、身体を元に戻してアイツを倒しに行くんだ!」
    「ああ、もちろんだ」
     ブルーノが力を振り絞り、真っ二つになった心臓に手を伸ばします。NO.6も、片方のパーツを押します。少しでもブルーノの力になりたくて、彼も必死でした。しかし、ああ、なんということでしょう――ブルーノの指が届きかけたその時、列車が大きくカーブし、心臓が個室のドアの方に転がって行ってしまったのです!
    「そ、そんなあ!」NO.6は悲痛な声を上げました。「もう少しだったのに!」
    「運がないな」ブルーノは嘆息しました。「あいつの粘り勝ちか……」
     NO.6は心臓のパーツを押します。でも、バレッツは弾丸操作が専門ですから、重いものは運べないのです。わかっていても、何もせず見ているわけにはいきませんでした。
    「目を閉じちゃだめだよ、ブルーノ!」
     NO.6は声を張り上げてブルーノを励まします。ですが、ブルーノはとっくに限界を超えていました。ブルーノのまぶたがゆっくりと下りてゆき、青い目は、月が翳ってゆくように、少しずつ光を失っていきました。
    「ブルーノ!」
     NO.6の呼びかけをかき消すように、列車が突然キーッと甲高い悲鳴をあげ、大きく揺れました。そして、その反動で、転がっていったブルーノの身体が、ころころと転がり戻ってきたのです! ブルーノの身体は、どんどんと元と同じように繋がっていきます。
    「何が何だかわからないけど、やったぞ!」
     NO.6は跳びはねて喜びました。
     というのも、こういうわけなのです。
     完全にブルーノを見失ったピスキスは、ブルーノが何らかの方法で隠れて、プロシュガードに完全にとどめを刺そうとしているのだと考えました。
     ピスキスにとってそれは耐えがたいことでした。もしプロシュガードが完全に死んでしまったら、老化が解除されて亀の中で気を失っているブルーノの仲間が復活してしまいます。けれどそれ以上に、プロシュガードを殺されたくなかったのです。たとえもうすぐ死んでしまうとしても、最後に傍にいるのが自分でありたかったのです。その行為に、大きな意味はないとわかっていたとしても。
    「俺のプロシュガード兄貴は、誰にも殺させないぞ!」
     ピスキスはそう叫ぶと、運転士を気絶させて、ブレーキと思われるレバーを手当たり次第に動かしたのです。
    「プロシュガード兄貴ーッ!」
     列車が止まると、ピスキスは車外に飛び出てプロシュガードのもとに走りました。そして、ジッパーで車外に出てきたブルーノと鉢合わせになりました。
     これが最後の一騎打ちです。両者とも、それを肌で感じていました。
     プロシュガードが二人のにらみ合いを静かに見つめています。精霊の身体はぼろぼろと崩れかけていて、二人の決着を見届けるという覚悟だけが彼の命をかろうじてつなぎ止めていました。
     状況はブルーノの方が有利かと思われました。老化の力は大分弱まってきていますし、ブルーノのジッパー・マンは素早く、パワーもあります。伸びてくる針と糸の動きを見切るのは難しいことではありません。
     すると、ピスキスのフィッシャー・マンが何かに弾かれたようにビーンと振れました。よく見ると、血のついた針がブラブラと揺れています。
    「なぜさっきお前を見失ったかはわからない。だが、兄貴への償いはさせてやるぞ。それで俺たちはまた先に進む! しかし、さすがは兄貴を突き落としただけはある。今の攻撃を、よく見切ったな」
     ブルーノのふくらはぎから血が噴き出ました。今の一瞬で、針と糸がブルーノの脚を傷つけたのです! 恐るべき正確性とスピードでした。
     加えて、ピスキスの顔つきと言ったら、前にブルーノが見た時とはまるで別人です。あのかわいいくりくりおめめの子猿はもうどこにもいません。群れのボス猿になったかのように、鋭く、凄味を感じさせる目をしていました。
    「やれ、やるんだ、ピスキス。おれは、お前を、見守っているぞ」
     プロシュガードは息も絶え絶えに言います。そして、最後の力を振り絞り、老化の力を強めます。
     勝負はいよいよわからなくなってきました。別人のように成長したピスキスに、プロシュガードの援護が加わったのです。
    「兄貴のこの命が終わる前に、兄貴の目の前で、決着をつけてやるッ! 償いの時だ、ブルーノ!」
     ピスキスが釣り竿を振るのと同時に、ブルーノは走り出します。躱すことなく、ピスキスに向かってまっすぐに。そして腕を交差させると、腕に釣り針が突き刺さりました。まず腕に釣り針を通させて、心臓や首に刺さるまでの時間稼ぎをしようというのです。
     ですが、今のピスキスはひと味ちがいます。
    「そう来ると思ってたぜ!」
     釣り針は交差した両腕を突き抜けると、胸に入り心臓に絡みつきました。ブルーノの口から、ぷっと血が溢れ出ます。
    「今まで腕から入ってたのは『外すかも』と思って自信が無かったからだ! 今の俺は違う! 『必ずやる』と決めたら一直線なんだ! 心臓に食いついたぜ!」
     ピスキスはブルーノの心臓をつり上げようと、釣り竿を引っ張ります。ブルーノもとっさに両手で糸を強く掴んで引っ張り、釣り竿から糸を引き出しました。そして弛んだ糸を投げ網をするかのようにピスキスの方へ投げ、輪っかをつくりました。輪がピスキスの首を通ると、すかさずありったけの力で締め上げ、ピスキスの首はいやな音を立てて反時計回りに一回転しました。
     ――これらが一瞬のうちに起こったのです。
    「ウギッ、おれの負けか……おれは、死ぬのか……」口からゴボゴボと血を溢れさせながら、ピスキスは言いました。
    「でも、ただでは死なねえ。俺たちのこの命を、無駄にしてなるもんか。仲間のために、俺たちの誇りと名誉ために!」
     そう言うと、ピスキスは懐から何かを取り出しました。亀です。あの部屋のある亀でした。そして、ピスキスは亀の中に手を入れると、トリシアを引っ張り出しました。
    「こ、ここは!? 何が起こったの!?」
     トリシアは驚いて辺りを見回します。止まった列車の外で、死にかけた子猿とブルーノが対峙していました。穏やかではない状況に、トリシアは腰を抜かして後ずさりします。
    「トリシアだけ連れて行け。だが、部下はだめだ」
     そう言うと、ピスキスはとがった岩の上に立ちました。亀ごとブルーノの仲間を岩に叩きつけて殺そうというのです。
    「やめろ! その亀を叩きつけようとするものなら、俺のジッパー・マンがお前の身体をバラバラにする! 勝負はすでについたんだ。そんなこと、お前達の誇りも名誉もあったもんじゃあないぞ!」
     すると、ピスキスが怒りのこもった目でブルーノをにらみ付けました。
    「うるさい! 知った風なことを言うな! お前らに、俺たちの何がわかるんだ――!」
     ピスキスはぴょんと後ろに飛び退きました。ジッパー・マンの拳が届く範囲外で、岩場に亀を叩きつけるつもりです。
    「ジッパー・マン!」
     ブルーノはジッパー・マンの左腕を突き出しながら、もう片方の拳で突き出した腕を叩き、肘から先を切り離して拳を遠くに飛ばしました。切り離した腕と腕は、ジッパーそのものが糸の役割をして繋いでいます。
     ブルーノは遠くに伸ばした腕でピスキスを亀ごとむんずと掴むと、自分の方に引き戻し、すかさず何発も拳を叩き込みます。
    「さようならだ!」
     全身にジッパーを入れられたピスキスの身体は、パズルのようにバラバラになって地面に落ちていきました。時を同じくして、ブルーノの肌に元のはりが戻りました。プロシュガードもついに力尽きたのです。
     ブルーノは亀の中をのぞき込みました。中では、何事もなかったかのようにみんなが起き出していました。
    「敵は倒したが、この列車に乗り続けるわけにはいかないな」
     ブルーノはため息をつきます。この列車でプロシュガードとピスキスを倒したことで、ブルーノたちの行き先は大まかに知られてしまうことでしょう。それに、ブルーノたちが特殊な亀を利用しているように、彼らも特殊な道具を使っている可能性があります。それほど彼らの連携はすさまじいものがありました。とにかく、一刻も早くここから離れなくてはいけませんでした。
    「トリシア、恐ろしい思いをさせてすまなかったな。亀の中に戻ってくれ。立ち上がれるか?」
     ブルーノはトリシアに手を差し出しました。しかし、トリシアはブルーノの手をとるかわりに、彼にききました。
    「私、いったいどうしてしまったの? 私は何者なの? どうして奇妙なものが見えるようになってしまったの? あの釣り竿は、あのジッパーはなんだったの? それにこの地面は一体何なの!?」
     トリシアは先ほどまで手をついていた場所を指さしました。そこには、柔らかい粘土で取ったような手形がくっきりと残っていました。辺りは固い地面です。たかだがトリシアの体重でそんな手形がつくのはおかしなことでした。
    「なぜ私は会ったこともない父親のために、――いえ、母すら心当たりのない王様のために、追われなくちゃいけないの!」
     ブルーノはオランチアの話を思い出しました。イタチのホルマティウスが、『トリシアは精霊を使える』と言っていた話についてです。けれど、ブルーノは半分疑っていました。そもそも、反逆者がなんでそんなことを知っているのか、そこからして怪しいものです。
     けれど、ホルマティウスの話は現実味を帯びてきました。トリシアにははっきりと精霊が見えていますし、精霊の力も目覚め始めています。その力についてはブルーノとしても気になることです。ブルーノの一番の目標は今の王様を蹴落とし、あの恐ろしい薬や、役人の不正と言った世の乱れをただすことなのです。ですが、今の秘密主義の王様について何かを『探ろう』とすること自体が禁忌でした。もしそのような動きを王様に悟られれば、たかだかナープラの長官になったばかりのブルーノなど、あっという間に消されてしまうでしょう。
    「俺たちの任務は君を守って送り届けることだけだ。そういったことに答えることは許されていない」
     ブルーノがトリシアに言えるのは、ただそれだけでした。
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