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    短い話を放り込んでおくところ。
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    POIPOI 192

    父親の命日にナーバスになる宜野座さん。
    800文字チャレンジ72日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    翳りゆく部屋(思い出すのはあなた) 日の光をカーテンで閉め切って、ベッドに寝転ぶ。今日は休日だったから、迷惑をかける人もいない。捜査に使用するデータも渡してあるし、悩むことはなかった。だが、こんなにも何もする気がおきないのは、少し異常だった。いつもなら仕事をせずともスパーリングくらいするのに、起きて朝食を取るのに、それすらする気にならないのだ。でも本当は分かっている、父の命日が近づいてきて、狡噛が俺を捨てた日が近づいてきて、だから俺は憂鬱なのだと。
     父の人生を思い返すと、奪われてばかりのものだった。仕事を奪われ、妻を奪われ、子も奪われた。執行官になったのは意地だろう。刑事としての意地。何もかも奪われてもなお真実を突き止めようとした意地。
     狡噛の人生はどうだろうか? 俺は長い付き合いだというのに、彼についてあまり知らなかった。家族構成については母親がいることしか知らない。それは藪を突くのが怖かったからだが、聞いておいた方がよかったかもしれない。
     狡噛が日本に帰ってきた時、出迎えたのは俺ではなかった。俺は操られるように行動課に入って、そこで彼と再会したのだ。狡噛がいるとは知らされていなかったから動揺した。色相について考える機会は減っていたが、久しぶりに動揺してチェックしたのを覚えている。俺はあの時喜んだのだろうか? それともまた裏切られるかもしれないと、警戒心を持ったのだろうか? 今ではあまり思い出せない。
     ごろりとベッドの上で寝転ぶ。すると、インターフォンが鳴った。デバイスで応答すると、そこには今日は日勤のはずの狡噛がいた。「ギノ」それだけ言って、彼は酒を監視カメラに見せつける。俺は思わず笑ってしまい、キーを解除した。
     その日は狡噛と酒を酌み交わして、父の話をした。狡噛の父の話も。彼が俺を置いて行った理由も。それをねだったのは、こんなふうに毎年寝込んでいられないからだったが、話をしてみれば思ったよりずっと辛く、俺はそれを酒で誤魔化した。
     俺は父についても、狡噛についてもまだ乗り越えられていない。けれどあと少ししたら変わるかもしれない。そう思ったのは、彼の厚い胸に頭を横たえて、どんよりとした空気の中でまぶたを閉じてしばらく経ってからのことだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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