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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    学校終わりに秘密の場所に行く二人。
    800文字チャレンジ79日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    それじゃバイバイ(二人だけのさよなら) 学校でさようならをするのが好きだった。その瞬間のために学校に行っているような気すらしていた。その瞬間が来てやっと、俺は自由になったから。子どもたち、同級生たちは帰りにどこで遊んで行くか笑いながら思案しているが、俺は秘密の道をどうやって帰るか、珍しくホロじゃない植物が生えている道をみんなにバレずにどうやって訪ねるか、家に帰ってダイムとどうやって遊ぶか、そんなことばかり考えていた。俺は潜在犯の息子で、何かあったらいじめられていたけれど、楽しい放課後にかまって来る奴なんていなかった。それくらいその時間はみんなにとって大切だったんだろう。俺にだって大切だったさ、授業の復習をしたら、ようやく一人の時間が出来るから。
     
     その時間の意味が変わったのは、さよならを言うのが辛くなったのは、狡噛と出会った時からだった。狡噛は優秀な生徒で、色相も綺麗で、なのに潜在犯の息子と知って俺に構って来た奴だった。彼も少し変わっていて、友達になるのに時間はかからなかったし、恋人になるのにも時間がかからなかった。俺たちは放課後は遊び回った。学校でさようならをするのが、この頃になると俺はもっと好きになっていた。今日は狡噛とどこに行こう。前に行った廃棄区画か? それとももう泳げやしない海の風を浴びに湾岸地域に? 狡噛はいつも驚きをくれた。俺が喜ぶものをいつもくれた。今日だって、俺が知らないホロじゃない植物の生えた秘密の植物園に連れて行ってくれた。廃棄されたそこは、俺たち以外には誰もおらず、とても静かで、唇を合わせるのにはぴったりの場所だった。
    「なんだかお前にいいようにされてる気がするな」
     手を繋いで、植物園のデッキに座りながら言うと、狡噛は笑ってこう言った。
    「俺はいつもお前のことを考えてるさ。ここを見つけるのにどれだけ苦労したと思う? 古地図までアーカイブで探したんだぜ」
     その努力を思うと俺は少し笑ってしまって、俺たちはまたキスをした。植物園は夕暮れ時で、そろそろさよならを言わなくちゃいけなかった。狡噛は神奈川から通学しているから、夜が遅いとおばさんが心配するのだ。
    「それじゃあまた明日」
     俺たちは手を振る代わりにキスをする。それじゃあバイバイと、子どもたちが学校でするようにキスをする。甘い甘い、二人きりでしか味わえないキスをする。打ち捨てられた植物園の中で。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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