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    短い話を放り込んでおくところ。
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    POIPOI 192

    2/5ワンライ
    お題【玉手箱/アイロン/忖度】

    夏油が高専を去った後、夏油が持っていた写真を見る五条のお話です。ちょっと暗めです。

    #夏五
    GeGo
    #夏五版ワンライ
    summerFiveEditionOneRai

    瞳の先 傑がいなくなってすぐ、彼の部屋は高専の上層部によって手が入った。傑が使っていた呪具から、傑が使っていた教科書まで、彼が呪いを残せるもの全てが持ち出され、やがて呪術師の手によって祓われ焼かれた。それは突然のことだったので、俺は少し待ってくれ、俺にもその箱たちの中身を見せてくれとせがんだ。けれど彼らは友人だった、いや五条家の人間だった俺の気持ちを認めず、結局この手には何も残らなかった。傑がいた教室はいつの間にか席は二つになり、彼が三年間を過ごした寮の部屋は封印された。俺は最後に会った時、何も出来なかった自分が不甲斐なく思えた。けれど彼が生きているだろうことには、少しばかり安堵した。あんな大量殺人を犯した友人が生きていることを、だ。高専に潜り込んでいる五条家の間諜に調べさせたところによると、上は彼を殺そうとはせず、様子見をするようだった。もしかしたら、傑が何か企んだのかもしれない。呪詛師となった彼が仲間を得たら、高専といえどおいそれと手出しは出来ないだろうから。
     そんなある日、部屋で制服にアイロンをかけていると、ノックもなしに扉が静かに開いた。そこにはボストンバッグを持った硝子が立っていた。彼女は直ぐに何も言わず、「煙草、いい?」と尋ねた。窓を開けてくれるんなら、と言うと硝子は煙草を仕舞い、ボストンバッグの中から、小さな行李を取り出した。柳で編まれた、古いアンティークのものだ。それには呪術がかけられており、中身を見るのには少し苦労しそうだった。だが、硝子はすぐにその行李を開き、俺に向かって中身を取り出した。
    「これはあんたに渡したほうがいいと思ったから」
     硝子はそう言って、折り畳まれた封筒を俺に渡した。そこには日付が傑の筆跡で書かれており、俺はそれが漂わせている懐かしさに、アイロンを台に置き、その電源を切った。そうして封筒を受け取って、俺はその中身を取り出し目を見開いた。そこに映るのはほとんどが俺と硝子、そして傑だった。任務に行った時に自撮りしたものや、高専の運動場で撮ったものなどがある。それは数えきれないくらいの枚数があり、そういえば傑は写真を撮るのも上手かったなと、そんなことを思い出した。そうしてフィルムが現像されて帰ってくる度、自分が死んだ時には、この写真の束から遺影を選んでくれと、冗談のように言っていたことも思い出した。俺は硝子に断りを入れて、自分のベッドに座る。すると硝子は煙草を取り出して、オイルライターで火をつけた。
    「感謝しろよ、上が部屋に入る前に持ち出したんだから」
     煙が部屋に満ちる。硝子の言う部屋とは、傑のもののことだろう。硝子の持ち前の勘の良さに感謝しながら——いや、俺はどう思っていたのだろう、自分でも分からない——俺は写真を見つめる。そうして、一枚だけ傑の写真を選んだ。何かを見て笑っている傑だ。
    「やっぱり、それを選ぶと思った」
     硝子が煙草の煙を吹きながら言う。どうしてだ? 俺はそう思ったが、尋ねずにいた。けれど今日の硝子はどこか饒舌で、解説を求めない俺にこう言った。
    「それは私が撮った写真。夏油があんたを見てるところでシャッターを切ったんだよ、北に任務に行った時に。あいつがこんな顔をするのはお前を見てる時だけだったから珍しくってさ」
     俺はその硝子の言葉に何も言えなかった。ただそうか、と思った。傑はこんな優しい顔で俺を見ていてくれたのかと、もう思い出の中にしかいない親友のことを思い出した。
    「それからもう一つ教えてあげる。おんなじ任務の時に撮った、あんたの写真が一枚消えてたんだ。あんたがあいつを見てた時の写真がね」
     一体誰が盗んだんだろうね、いや、持って行ったのかな。そう硝子が言った。俺はそれに何も言えず、もしもそれが本当なら、これ以上嬉しいことはないと思った。傑、俺の親友、もう一生お前以外の親友は出来ないだろう。そんなお前が俺の写真を持って行ったことを、俺は心の支えにするよ。悔しいのは、お前を見ていた俺がどんな顔をしていたのか分からないことだけれど。
    「写真なんか撮って、呪いに使われたらどうするんだって、夜蛾先生が怒ってたっけ。でも、こうやって残るんなら、きっとそれでよかったんだろうね」
     硝子が言う。俺はもうそれに返せなくて、ただひたすら写真を見つめた。傑は笑っていた。幸せそうに、これからの人生が輝かしいものであるように、そして優しく、視線の先にいる俺を守ろうとするように。
    「本当だね……」
     俺は写真を見つめる。硝子が部屋を出てゆく。目玉が痛くなって、やがて何も考えられなくなった。それは、彼女が部屋の扉を閉めた時のことだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    瞳の先 傑がいなくなってすぐ、彼の部屋は高専の上層部によって手が入った。傑が使っていた呪具から、傑が使っていた教科書まで、彼が呪いを残せるもの全てが持ち出され、やがて呪術師の手によって祓われ焼かれた。それは突然のことだったので、俺は少し待ってくれ、俺にもその箱たちの中身を見せてくれとせがんだ。けれど彼らは友人だった、いや五条家の人間だった俺の気持ちを認めず、結局この手には何も残らなかった。傑がいた教室はいつの間にか席は二つになり、彼が三年間を過ごした寮の部屋は封印された。俺は最後に会った時、何も出来なかった自分が不甲斐なく思えた。けれど彼が生きているだろうことには、少しばかり安堵した。あんな大量殺人を犯した友人が生きていることを、だ。高専に潜り込んでいる五条家の間諜に調べさせたところによると、上は彼を殺そうとはせず、様子見をするようだった。もしかしたら、傑が何か企んだのかもしれない。呪詛師となった彼が仲間を得たら、高専といえどおいそれと手出しは出来ないだろうから。
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