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    短い話を放り込んでおくところ。
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    POIPOI 192

    1/29ワンライ
    お題【頬骨/十年後/卵白】

    割と真面目に仕事をする2人のお話です。ちょっと薄暗い感じでキスしてます。

    #夏五
    GeGo
    #夏五版ワンライ
    summerFiveEditionOneRai

    地下室の花束 小学校にもまだ上がらない頃、もし十年経ったら、自分はとんでもない大人(いや、子どもか?)になるって思っていた。それくらい俺に意見する人はいなくて、親でさえ俺を持て余していたからだ。
     父は俺が六眼や無下限呪法を持つ子だと分かった時、母を褒め称えるとともに、俺を恐れて違う女に手を出したのだという。母はそれを悲しんで俺に慰めを求めたが、やはり俺の目が恐ろしくなって、お抱えの呪術師たちに我が子を任せて子育てをしなかった。とはいえ、これは五条が呪術界の御三家というものだから仕方がなかったのかもしれない。生まれた時から尊大な名を背負うと定められた古い名家だ、昔の風習が残っていても誰が責められただろう。そんな家に生まれた男と、そんな男が選んだ女だ。最低の人間が出来たってしょうがない。
     でも、それから十年経っても、俺はグレることもなく普通に呪術師のための学校に通っていた。別に誰かを助けたかったのじゃない。別に普通の高校に行ってもよかった。でも、それでも俺は呪術高専にいて、こうやって世の人々を助けているのだった。多分、自分と同じか、それ以上に辛い人と出会いたくて。
    「腹痛い。今朝の目玉焼き生だったのかな。白身がやばかった気がする」
    「目玉焼きで腹下す人なんて聞いたことないよ、悟」
     俺たちはそんな雑談をしながら、とあるビルの薄暗い地下室に入った。俺たちをここに案内したビルの持ち主はあからさまに怖がっていて、いつの間にかいなくなっていた。まだ昼間だというのに、そんなにやばいんだろうか? そう思うけれど、確かにそこらじゅうに残穢はあって、それはいささか強かった。彼ら何も見えない人々が恐れてしまうくらい、この地下室の幽霊という名の呪霊は強かったのだ。
     高専にあった依頼はこうだ。ビルの地下室でホームレスの男が排水管で首を吊った。それからここ数日ずっと、死亡推定時刻と思われる時間にアラームが鳴るのだという。水漏れしていますって、警告がビルの管理部で鳴るのだという。水などあふれていないというのに。
     だが、確かに地下室の排水管には、ゆらゆらと揺れる男の死体が見えていた。何もしない無害な呪霊だ。苦しい、辛い、もう生きていたくない、また我が子に会いたい——。
     また我が子に会いたいか。だったらどうしてこの男は死んだのだろうか? 俺の親は絶対に死に際にそんなことを思ったりしないだろう。ホームレスになるなんてろくな大人じゃなかっただろうが、それでもうちの親よりはずいぶんマシだ。
    「悟、どうしたの? もう祓っちゃったのに、何か見えるの?」
     傑が言う。俺はそうか、祓っちゃったのかって思って、それでも耳に残る男の我が子に会いたいって声が頭の中を繰り返しぐるぐるしていた。駄目だ、同情してはならない。すぐに忘れなくては。この男がどんなふうに子どもを愛していたって、結局無責任に死を選んだのだから。
    「……父が死んだのは、ここですか?」
     誰も入れないでくれって言ったのに、喪服を着た三十代前半くらいの女の人が地下室のドアを開けた。その女の人によると、死んだホームレスは支援団体と繋がっていたらしく、そこから彼女の家に連絡がいったのだという。自分の子どもの家の連絡先を知ってもなお連絡せず命を絶ったのはどうしてか分からない。俺はこういう問題には聡くないから。でも、彼女が来るんなら、そんなに早く祓わなくても良かったのかもしれない。そう思ったけれど、あの強さの呪いが漏れ出していたのでは、普通の人間ならあてられていたかもしれない。だからこれでよかったのだ。
     女の人は花束を排水管の下に備えて、手を合わせて帰っていった。俺たちのことは尋ねなかった。というよりも、俺たちと関わり合いを持ちたくないようだった。もしかしたら父親とも、これきりで縁を切るつもりなのかもしれない。それでも、女の人が持ってきたのはきれいな花束だったけれど。
    「俺が死んでも花はいらないよ」
     そう言うと傑は笑って、「だったら甘い匂いの花にしようかな」と目を細めた。頬骨に黒く艶やかな髪がかかって、それは薄暗い地下室の中でも美しく見えた。傑が死んだら、俺はどんな花束をおくるだろう。どんなふうに弔うのだろう。俺は足りない頭で頑張って考えたけれど、結局分からなかった。ただ俺たちはもう何の残穢もない地下室で手を繋ぎ、まるで交わるみたいにしばらくの間、別れるにしては華やかな花束を見つめていた。
     子どもに会いたかったのなら会えばよかったのに。そう出来ない理由があったって、ただそう思われていたってだけで子どもは救われるのに。
     俺がそう思うのは、俺が父や母に愛されたいと心の底で願っているからだろう。あのホームレスがどんな父親だったか知らないが、会いたかった我が子は花束を持ってきてくれたのだ。少し踏み出せば、絶望から逃れられたのに。
    「行くよ、悟」
     傑に促されて、俺たちは地下室を出る。俺たちはその時に、軽いキスをした。誰にもバレなくらい、ひそやかなキスをした。それは甘いキスだった。多分アイスキャンディーか何かの。もしかしたら、購買で買ったガリガリ君の味かもしれない。俺にもくれれば良かったのにな。
     俺たちを呼んだ人々は、完全に扉が開いて俺たちが無事に現れると、みんなあからさまに安心したって顔をしていた。どうやら、俺たちがこもっていたのは、ビルにアラームが鳴る時間帯だったらしい。ホームレスが死んだ時間帯。俺はそんな彼らを見て、硝子に頼まれた、煙草をカートンで買うのを忘れないでいなきゃいけないなって、そんなどうでもいいことを考えていた。
     呪霊となった父親は傑が飲み込んでしまった。だから、あのホームレスが我が子に会うことは二度とない。別れというものはそんなものなんだろう。俺と傑にいつか別れが来たって、ただ二度と会えなくなる、ただそれだけなのだろう。一体別れがいつかなのか、それだけが分からないだけで。
     ビルから出ると、外は珍しく雨だった。あのホームレスが流した涙雨かと思ったが、そんなのは俺が勝手に想像したことでしかない。雨が降っても、雨が止んでも、あの娘は二度とあのビルを訪れない。そしてあのホームレスの呪霊は、傑に使役されるのだ。二人は二度と会わない。道は交わらない。ただ、それだけの話だ。どこにでも転がっている、それだけの少し悲しいばかりの話。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING2/5ワンライ
    お題【玉手箱/アイロン/忖度】

    夏油が高専を去った後、夏油が持っていた写真を見る五条のお話です。ちょっと暗めです。
    瞳の先 傑がいなくなってすぐ、彼の部屋は高専の上層部によって手が入った。傑が使っていた呪具から、傑が使っていた教科書まで、彼が呪いを残せるもの全てが持ち出され、やがて呪術師の手によって祓われ焼かれた。それは突然のことだったので、俺は少し待ってくれ、俺にもその箱たちの中身を見せてくれとせがんだ。けれど彼らは友人だった、いや五条家の人間だった俺の気持ちを認めず、結局この手には何も残らなかった。傑がいた教室はいつの間にか席は二つになり、彼が三年間を過ごした寮の部屋は封印された。俺は最後に会った時、何も出来なかった自分が不甲斐なく思えた。けれど彼が生きているだろうことには、少しばかり安堵した。あんな大量殺人を犯した友人が生きていることを、だ。高専に潜り込んでいる五条家の間諜に調べさせたところによると、上は彼を殺そうとはせず、様子見をするようだった。もしかしたら、傑が何か企んだのかもしれない。呪詛師となった彼が仲間を得たら、高専といえどおいそれと手出しは出来ないだろうから。
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     バイクに乗りセーフハウスを出ると、妙に凪いだ気分だった。風は頬を撫でてゆくし、それは冷たいのだけれど、槙島との決着が迫っていることに、俺は終わりを感じていた。この事件が終わったら、きっと俺は処分されてしまうだろう。自分の色相が濁っていることも分かっている。人を殺そうと決めてしまったら、もう元には戻れないことくらい、一般市民でも知っている。でも、俺は槙島を、自分の双子のようなあの男を殺さねばならなかった。
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    TRAINING雨が降った日の狡宜。宜野座さんが傘を壊してしまって……?
    800文字チャレンジ24日目。
    雨のち晴れ(相合い傘) 出島は雨が多い。朝晴れていても、昼過ぎにはもう雨が降っていることも多い。そんなだったから、俺は仕事用の鞄に折り畳み傘を入れる癖がついた。元々何かに備えるのが好きだったからか、それとも同僚が、いや恋人がそう言う備えをしないタイプだったからか、俺は雨傘を余分に仕事場に用意していた。あいつに言わせれば、少しくらいの雨なら走ったら終わりなのだという。でも、それでもスーツが雨でよれてしまったら修復させるのが大変だし、かつてとは違ってスーツに金をかけなくなった今でも、別の意味で(主に鍛えた体型のせいで)オーダーメイドに頼らずにいられない俺からすると、やはり雨傘は必要なのだった。
     けれど突然の雨はあるし、雨傘が悪くなっていることもある。今回はその両方が重なって、昼から突然雨が降り出し、手持ちの折り畳み傘はいつの間にかボロボロになってしまっていて、職場の雨傘も穴が空いてしまっていた。花城はピンクに薔薇模様の派手な傘を提案してくれたが、流石にそれをさすのは恥ずかしくて、俺はかつて友人が言った通りに官舎まで走ることにした。こういう日に限ってあの男がいないのがムカつくのだが、あれはもう帰ってしまったのだろうか? だとしたら要領がいい。俺は少しあの男にムカつきながら、雨の中走ることにした。
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