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    hatonyan_nyan

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    5.5までバレあり 新人くんとブランシュちゃんの話

    暁月に臨むカルテノーでの戦いから数日後。クルルからの連絡を待つ僅かな、そして恐らくは終末前の最後の平穏な時間。暁の面々の過ごし方はそれぞれだ。ツテを頼って調査をしたり、タタルの指示で物資の調達をしたり。今日はどうしようか。少し足を伸ばして、モードゥナ以外の場所で鍛錬でもしようか……そう考えていた時だった。自室の窓がコツコツと外から鳴らされたのは。
    「おでかけしましょ、グ・ラハ」
    窓から滑り込んできた英雄は、俺よりも余程猫みたいな笑みを浮かべてそう言った。

    ***

    彼女と行動を共にすることは嬉しい。が、道のりが予想以上に険しかった。雪深いクルザスの道なき道を歩き続けてどれだけ経ったのだろう。
    「なあ、そろそろ教えてくれよ。俺たち、どこに向かってるんだ?」
    会わせたい人がいるとしか聞かされていない。どうにもあてもなく歩いているように感じられて、ゴールを求めて先を歩く彼女に問う。
    「ん、ついたわ」
    「へ?」
    突然の到着に思わず素頓狂な声が出た。
    木々を抜けた先は少し開けていて、そこにぽつぽつと家が経っている。いや、家と言っていいのか迷うぐらいの、掘っ立て小屋に毛の生えたようなものだ。
    「ここって」
    「あたしの育った村よ」
    「はぁ!?だってここ……どう見ても、」
    人の気配が無い。生活の名残みたいなものはあるが、建物のぼろさもあいまって廃墟にしか見えない。
    「テロフォロイのこととか、なんか色々ぶっそうでしょう?アイメリクとフランセルにたのんで、蒼天街にひなんさせてもらってるの」
    二人よりも村の人たちを説得するほうが大変だったけど。騒ぎが収まるまででいいからって、なんとか移ってもらったの。
    説明しつつ、ブランシュが村の奥へと足を進める。後をついて歩きながら、そっと胸をなで下ろした。魔物か何かに襲われて壊滅したとかだったら正直なんて声をかけていいか分からなかったから。

    ***

    「ただいま、ネージュ」
    村の端の端。粗末な墓標が立ち並ぶそこは墓地だった。その中の一つに、迷うことなくブランシュが駆け寄る。
    「しょうかいするわ。グ・ラハ・ティア。あたしのだいじななかまよ」
    ……そんなに拗ねないでよ。一番大事なのは、いつだってあなただけだもの。
    語りかける声は聞いたことがないほど甘い。わざわざ問わずとも土の下に眠っている相手が彼女の唯一無二なのだろうと察しがつく。ついてしまう。世界が彼らだけで完結しているような、そんな錯覚さえ覚える。それほどの、甘さだった。
    「ねえグ・ラハ。おねがいがあるの」
    懇願する背中は酷く頼りない。その手に、その双肩にどれだけのものが圧し掛かっているのだろう。圧し掛かっていくのだろう。
    「もし、これからのたたかいであたしがしんじゃって、それでもし、死体がのこってたなら。……ここにうめてほしいの」
    「ッ、それは」
    「あのね、あなた……水晶公から、第八霊災でのことをきいてから、ずっとおもってた」
    どんなに頑張っても、諦めたくなくてもその時はあたしにも来るんだって。そうしてその時が来たときに……あたしはネージュのことを誰にも言っていないから、あたしはここに帰って来ようがないんだって。
    「あたしが……さいごにかえってきたいのは、ここなの」
    風が吹いていたなら攫っていきそうな、か細い声。けれどその声には、彼女としての全てが乗っているように思えた。
    「……分かった。俺が責任を持って、あんたをここに連れてくる」
    俺の答えを聞いた彼女が振り返る。そこにはあの甘さも、頼りなさもない。墓標の下の彼以外の人がよく知る、ブランシュ・フルールその人だった。

    「ここのこと、ほんとにグ・ラハしかしらないから」
    言外に、だからお前も生きろと。悪戯めいた笑みを浮かべながらの脅迫に苦笑するしかない。体よく共犯者にされちまったな。
    でもそうだな、生き残ろう、終末を。一つでも多くを救えるように。一つでも多くを守れるように。そして、二度と俺がこの雪を踏まずにすむように。
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    hatonyan_nyan

    SPOILER暁月メインクエ後のブランシュちゃん。アルフィノくん視点
    彼が最期に狩ったもの戦いの中にあって、頬が自然と緩むのを感じる。ああ、こんなのはいつぶりだろう。
    いつからだろう。どこからだろう。国が、世界が、星が、終末が。そんな戦いばっかりで。無意味だったなんてことは絶対にないし、自ら望んだ旅ではあったけど、それでも苦しい道のりであったことは間違いない。けれどその終着には。こんな楽しい戦いが待っていた。
    あなたは楽しいだろうか。あたしとの再戦、ただそれだけを望んで、こんな天の果てまで飛んできたこの人は。いえ、きっと楽しいはず。だってあたしがこんなに楽しいんだから。そうね、今なら確信を持って言える。
    ───このひとは、あたしのともだちだ。


    *****


    あの人がラグナロクに転移してきた瞬間のことは、今でも忘れられない。最初、その場にいたほとんどの者が、それを彼女だと認識できなかった。したくなかった、のほうがより正確かもしれない。私たちとは見え方が違うヤ・シュトラが恐る恐る名前を呼んで、そこから皆ようやく金縛りが解けたかのように駆け寄った。いつも綺麗な真白い髪は血に塗れて見る影もなく、見えるところも見えないところも傷を数えたらキリがない。けれどその惨状の中で一番恐ろしかったのは、彼女が満足そうに口許に笑みを湛えていたことだった。
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