Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Hachiinoki

    @Hachiinoki

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    Hachiinoki

    ☆quiet follow

    2021年10月伊受けWebオンリーのネップリ

    #七伊
    sevenI

    伊地知潔高の秘密秘密、秘密、それは秘密。

    「あら、伊地知さん。おはよう」
    「おはようございます」
    「これからお仕事?」
    「ええ」
    「葬儀屋さんも大変ねぇ。いつ仕事が入るかわからないものね」
    「そうですね。でも、もう慣れましたよ」
    では、いってきますと言って、伊地知潔高は隣人に別れを告げた。葬儀会社で働いているサラリーマンの伊地知さん、お隣の奥さんはそう思っている。呪術高専の補助監督の仕事をしていることは、お隣さんには秘密だ。

    高専に着くと、自分のデスクでいつものようにお仕事開始。今日はまずは、窓から呪霊発生の報告があったトンネルを、一時的に閉鎖するために、国土交通省に提出する申請書類を作成する。内壁の修復工事をするという名目で、一般車両を通行止めにするためだ。呪霊が発生して、それを呪術師が祓うため、とは言えない。それは世間には秘密だ。

    休み時間に学生が訪ねてきた。先日一緒に任務に出た補助監督を探しているという。
    「こないだ任務が終わったあと、具合が悪そうだったから大丈夫かな?と思って…」
    「そうですか。彼なら、今は遠方に長期出張中ですよ」
    と伝えると、ホッとした顔をして帰って行った。
    でも本当は、断末魔の呪霊の最後の悪あがきから、任務が終わったと思って油断していた学生を庇って、重傷を負ったのだ。それを学生に悟らせまいと、高専に戻ってくるまで耐えて、私の前で力尽きた。
    前途ある若者に、負い目を作ってあげたくないから黙っていて欲しいと、それが彼の最後の望みだった。
    だからこのことは、学生さんには秘密だ。

    感傷に浸っていると、五条さんに見つかった。
    「伊地知ぃ、今、暇?」
    「いいえ、まだ役所に提出する書類を作成している最中です」
    「な〜んだ、つまんないの」
    と言って、どこかに行ってしまった。あぁ、よかった。余計な仕事を押し付けられなくて。本当は書類はもう完成しているけれど、それは五条さんには秘密だ。
    バレたらまじビンタ喰らうだろうけど。

    …と思っていたら案の定バレた。
    まじビンタは喰らわなかったけど、山ほどの数のファイルを積み上げられ
    「明日までにやっといてね〜。できてなかったら今度こそまじビンタ!」
    と言われた。新田さんが憐れみの目で、
    「手伝いましょうか?」
    と言ってくれたが、
    「大丈夫です、先に帰ってください。こんなのおちゃのこさいさいですから!」
    と平気なフリをした。
    本当は、心の中では泣きそうになっていることは、後輩の新田さんには秘密だ。

    みんな先に帰って、ひとり残された補助監督室。
    目がしょぼしょぼしてきたので、引き出しから目薬を取り出すついでに、奥のほうから香水瓶を取り出した。シュッとひと吹き吹きかけると、爽やかな中にもどこか甘い香りが、私の鼻腔をくすぐった。
    これは七海さんがいつもつけているコロンと同じものだ。雑談をよそおって聞き出して、ひとりでこっそり同じものを買いに行ったことは、七海さんには秘密だ。
    ひとりで残業している時に、このコロンをひと吹きして七海さんと同じ香りに包まれていると、ひとりではなく、まるでそばに七海さんがいて、見守ってくれているような気になることは、七海さんには秘密だ。

    「伊地知くん?まだ残業してるんですか?」
    声に驚いて振り返ると、そこに立っていたのは七海さんだった。
    「お疲れ様です」
    と何事もなかったかのように挨拶したが、どうして自分と同じコロンの香りがするんだろう?と不審に思われやしないかと、ヒヤヒヤしていることは、七海さんには秘密だ。
    「丁度良かった、一緒に食べませんか?」
    タマゴサンドとカスクートを差し出してきた七海さんに、
    「ありがとうございます!ではコーヒー、淹れますね」
    と返事をして給湯室へ向かった。
    戸棚から取り出したのは、よくあるメーカーのインスタントコーヒーではなく、有名コーヒーショップのドリップコーヒーだ。いつも飲んでいるものとは別に、七海さんと一緒に飲むためだけに特別なコーヒーを用意していることは、七海さんには秘密だ。
    「伊地知くん、いつも遅くまで残業してますが、無理をしてはいけませんよ。休みを取ることも大事です」
    と七海さんは言うけど、休みの日に家にいてもすることないし、ひとりだし、ここに来れば、今日みたいに何かの拍子で七海さんに会えることもあるから、正直、休みを取るのは気が進まないと思っていることは、七海さんには秘密だ。

    「伊地知くんの淹れてくれるコーヒーがあんまり美味しいので、任務が終わって家に帰らずに、ここに戻って来てしまいました」
    と、私の淹れたコーヒーを飲みながら七海さんがおっしゃるので、
    「それはそれは、お褒めいただき光栄です。そんなにおっしゃってくださるなら、いつでも七海さんのためにコーヒーを淹れてさしあげますよ。そうだ!じゃあ、専属契約でも結びましょうか?」
    と冗談めかして言ったが、実は半ば本気だったことは、七海さんには秘密だ。
    私の言葉に、七海さんは数度まばたきをしてから、ふっと目を細めた。飲みかけのコーヒーを机に置くと、私の顔をのぞき込むように近づいてきて、
    「伊地知くんさえよければ、そう、お願いしたいものです」
    と言って、私の膝に手を置いた。七海さんの手が乗っている自分の膝が、燃えるように熱くて、ドキドキと私の心臓が、うるさいぐらいに高鳴っていることは、七海さんには秘密だ。
    そのまま七海さんの顔が近づいてきて、唇と唇が触れ合った。
    「これが、契約の証です」
    そう言って七海さんの顔がすっと離れていく。
    離れないで欲しいと願ったことは、七海さんには秘密……だったはずだ。

    「伊地知くん?」
    離れていく七海さんを引き止めたくて、とっさに手が出てしまい、七海さんのスーツの裾をぎゅっと引っ張っていた。私のその手を、七海さんの大きな手が優しく包んだ。
    「あの…、七海さん。私、実は…、ずっと前から貴方のことを…」


    伊地知潔高の秘密を打ち明ける時が、やって来た瞬間だった。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works