魈の誕生日「おかえり、魈」
「ただいま戻りました……」
降魔が一通り終わり、朝方望舒旅館に戻った。いつもはしんと静まり返った旅館に、朝靄の中濡れた霓裳花の花弁がふわりと開くような、そんな時分だ。
眠気を一切感じさせない表情をした鍾離は露台に立っていた。朝早くに鍾離がここを訪れることもあるが、それよりなにやら下が騒がしい。こんな時間に起きている凡人の方が珍しく思う。
「今日は何やら騒がしいですね。催し事でもあるのでしょうか?」
「ああ。今日は大事な行事があってな。俺もその準備の為にここへ来たんだ」
「さようでしたか……では、我は邪魔にならぬよう他の場所で待機いたします」
鍾離だけが何かの準備をしているのならば喜んで手伝いを申し出るが、鍾離が凡人と何かをしようとしているのならば話は変わってくる。魈は凡人への業障の影響を考えなければいけないからだ。すぐ様その場を離れようとする魈を引き止めないところを見るに、やはり自分はその場に必要ではなさそうである。
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