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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈ドロライより「龍と鳥」
    転生ものパロディです。人の姿ではないので注意です。

    #鍾魈
    Zhongxiao

    龍と鳥 何度目かの生を受けた。パリパリと殻を割り空気に触れた。息を吐くと、ぴぃと鳴いた。今回は鳥か。と、まだ何も見えない目を凝らす。共に生まれた兄弟達はしきりにぴぃぴぃと鳴いて、餌を欲しがっていた。我も母から餌を与えられ、少しずつは大きくなっていったが、いささか他の兄弟より小さかったと思う。
     ある日眠っていたところ、巣から蹴落とされた。弱肉強食の世界ではよくあることだ。皆生きることに必死なのである。我だって早く巣立って鍾離様を探しに行きたい思いはあった。しかしまだ我は飛べなかった。巣に帰れなくなった者に待っているのは『死』のみである。
     見上げた巣には、相変わらずピィピィ鳴く兄弟の姿があった。彼等が悪い訳ではない。ならば、己の力で生きて行かなければならないと地を歩いた。
     餌になる物は地面にもたくさんある。それらを食らって少しずつ成長した。しかし、飛び方などとうに知っているはずなのに、母に飛び方を教わらなかった為か、どうしてかいつまで経っても飛ぶことができなかった。
     ここがどこかもわからない。川に写る自分の姿を見れば、ヤマガラであることはわかった。大層目立つ毛色をしている。そのせいか、蛇によく追いかけられることが多かった。猫にも追いかけられる。無様に走ることしか出来ず、逃げることや隠れることに必死だった。ヤマガラは成鳥したとして小さい。毎日身近に訪れる死の恐怖に、今世は長く生きられない事を悟った。
     空を飛べなければ鍾離様に会いに行けない。
     鍾離様の気配は、この世界の何処かに居ることは感じていた。鍾離様は何に転生されたのだろうか。それすらさっぱりわからなかった。例え鍾離様が元岩神とて、この森で逃げ隠れしているヤマガラの我を探すことは容易ではないだろう。
    「ぴぃ……」
     鍾離様、モラクス様、帝君。名を呼ぶことも出来ない。それでも必死に毎日を生き続けた。

     その日は、よく晴れた空だった。雲一つなく眩しい太陽の光が木々の間に降り注いでいる。綺麗だな。と空を見上げると、空を縫うように一筋の黒いものが泳いで行った。
    「ピ……!?」
     一目見てわかった。あれは鍾離様だ! 龍のお姿をされている! 流石鍾離様だ! なんと美しいお姿なのであろう。胸の高まりが抑えられなかった。
    「ぴぃ────! ぴぃ! ピィ────!」
     鍾離様! 我はここにいます! 魈はここにいます! あなたの魈はここにいます!
     一生懸命に鳴いた。小さな羽を広げて声の限り叫んだ。他の生き物に狙われるのも承知で鳴いた。しかし森に響き渡るような声量も出なかった。鍾離様のいる遥か上空に届くはずもなかった。もしも飛べたなら、せめて姿を見せられるくらい上空へ飛べたなら、鍾離に見つけてもらえるかもしれないのに。
    「ぴ……ぴぃ……」
     見つけられた喜びと同時に、会うことも叶わない絶望感も相まって涙が出そうになった。しかしヤマガラは涙など出ないだろう。鍾離様はあっという間に見えなくなって、行ってしまった。大声を出した事で蛇に見つかってまた走って逃げた。逃げて転んで逃げて、薄汚くなりながらも何とか生き延びた。虚しさが残った。
     鍾離様。龍の姿ならば、また何千年と長く生きられるのでしょう。我は来世であなたに会えることを期待して、今世を終わらせようと思います。
     そう決断するのに時間はかからなかった。どうせ長くない命だ。飛べない鳥が死ぬのは簡単だ。崖から転がり落ちるだけでいい。亡骸を鍾離様が見なくて済むように、骨も砕けて何も残らなくなればいい。
     逃げ隠れる事にも疲れてしまった。森を抜けた高台まで進み、この高さなら大丈夫だと覚悟を決める。死の瞬間は何度体験しても慣れないものだ。あなたに会えないのならば、長く生きていても仕方がない。自らの命を絶ってしまうと、次の転生まで長い間地獄を彷徨ってしまうことになるのだろう。しかし、鍾離様に会えない現実も、地獄と何ら変わりがない。
     ぴょん、と短い跳躍をして、宙に身を投げる。呆気ない生の終わりを感じて、瞼を閉じて最後の息を吐いた。
    「ぴ!?」
     視界が影に覆われた。少しの衝撃の後に、何か柔らかいものの上にいる感触がした。温かい。しかし、少し湿っている。
    『魈、探したぞ』
    『……しょうり、さま?』
     脳の中に直接声が響いた。よく聞きなれた、変わらない鍾離様の声だ。瞼を開けると視界は暗いままだった。おそらく鍾離様の口内にいるのだ。
    『見つけた途端目の前で身を投げるとは思ってなかった。さすがの俺も焦ったぞ』
    『すみません……我は鍾離様にお会いするのを……諦めてしまったのです……』
    『あんなに必死に呼んでくれたではないか』
    『聞こえて、おられたのですか……』
    『ああ。勿論だ。お前の声はどこにいてもよく聞こえる』
     嗚呼。やはり、鍾離様はどこまでも鍾離様なのだ。探してくれていた。そして、見つけてくれたのだ。
     涙など出ないと思ったが、瞳から一雫、何かが伝い落ちた。

     我が元々暮らしていた所よりも随分遠くまで鍾離様は飛んだ。地へと舞い降りて、ようやく口の中から出られた。
    『ベトベトになってしまったな』
    『構いません』
     鍾離様の長い舌で毛並みを整えられる。我など一呑みできてしまう大きさではあるが、勿論恐怖は感じない。這う舌は優しかった。
    『飛べないのか?』
    『どうやらそのようです』
    『そうか。苦労したな』
    『いえ……』
     全ての生は、鍾離様と出会う為にあるのですから。今までのことは良いのです。と説明してみたものの、恥ずかしくなって土に埋まりたくなった。
    『顔の近くに来てくれ。こんな姿だろう? 誰も近寄って来ないんだ』
    『はい』
     鍾離様はずっと独りだと言っていた。ずっと我を探して飛び回っていたと教えてもらい、歯がゆい気持ちになる。ぴょこぴょこ歩いて、ぴとっと鍾離様の頬に身を寄せた。決して温かいとは言い難い体温ではあるが、心の底から温かくて堪らなくなった。鍾離様のしっぽが丸まって、我の身体に触れる。
    『眠ろうか。疲れただろう。お前が飛べなくても俺が飛べる。安心して眠るといい』
    『はい。ありがとうございます。少し休みます』
     外敵も気にすることなく眠るなど、この生を受けて初めてだった。我は鍾離様に身を預け、心の底から安堵して、眠りに落ちた。
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