Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kusha0x0

    @kusha0x0

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    kusha0x0

    ☆quiet follow

    気がつくと大学生合コンネタを書いている癖はどうにかしたいと常々思っている

    とある合コン会場での話 大学生なんてみんなこういうのが好きだろう、と思われているのなら不愉快だ。脹相は何度目かのため息を噛み殺し、淡々と目の前の酒を煽った。

     交流会、なんて御大層な名目の、いわゆる大規模合コン。近隣の三つの大学からそれぞれ、それなりの人数の男女が大ホールに詰めかけている。どこにでもこの手の企画が好きな奴らはいるもので、どう見てもただの飲み会で合コンでしかないというのに、大学に掛け合って多少の支援金を貰っているらしい。イベントホールを借り切ることができた時点で、そこそこの額だろう。
     一応、このイベントに出るには会費が必要だ。しかしそれは、脹相のような欠員補充要には当てはまらない。男女の人数をだいたい同じ数にしないといけないらしいそのイベントに、実行委員から土下座の勢いで頼まれたので、こうしてタダ飯を食べ、タダ酒を飲んでいる。なんでも、参加を予定していたグループが集団で風邪にかかってダウンしたらしい。ハッキリ言ってどうでも良いが。

     人でごった返すホールでは、様々な人間ドラマが渦巻く。一人の男を取り合う女たち、その逆。集団に囃し立てられて連絡先を交換する初々しいカップル。中には失礼な声掛けをして女性を怒らせた間抜けな男もいるようだ。何れにせよ、このホール内にいる男女は、どいつもこいつも恋人探しに躍起になっているように見えた。そういうイベントなのだ、脹相には関係ないが。

     チラチラと突き刺さる視線を感じつつも、脹相はグラスを傾けることでその一切を無視している。彼の顔立ちは少々怖いと言われることも多いが、それでも凛々しく整っている方だ。無口で無表情なので声をかけづらく、視線は刺さるものの、黙々と食事をしている間は誰も話しかけてこようとはしなかった。
     しかし、そろそろ腹も膨れてきたことだし、いよいよ抜け出す算段を立てねばなるまい。何もせずにいたら肉食系女子の餌食になるだけだろう。しかし、壁にするような友人もこの場にはいないし、さてどうしたものか。

     考えていると、すぐ側からちょっとした叫び声が上がった。

    「少しくらいいいじゃない!」

     思いの外大きく響いたその声に、はっとしたように叫んだ本人は口を覆った。周辺がざわつく。叫んだのは、金髪ロングの女だ。人によってはツボだろう、キツめのメイクの美人である。しかし、その女が叫んだ相手のほうが脹相の目を引いた。

     相手の男は飛び抜けて美形というわけではない。アッシュピンクの短髪に、吊り目がちの三白眼。だが冷たい感じはしない。「落ち着けって」と相手の女に声をかけている表情からも分かるが、目元を緩ませると幼く見える可愛い感じの男だった。

    「ん? あれってユージじゃないの?、」
    「イタドリなにやってんだ? 相手の女って◇◇大学の、ほら」

     ざわめく周囲から、どうやら有名人らしいことは伺い知れた。特別華やかな容姿でもないのに有名人だということは、よほど素行が良いか悪いかのどちらかだろう。
     思わずじっと見つめた先では、長いブロンドの女と桜色の青年が言い争い……もとい、しつこく誘いをかける女をなんとか振り切ろうと青年が断っているようである。

     勘弁してって、ここに来たのは俺が友達引き連れて来ると男の人数が増えるから来いって言われただけなんだって、も〜酒癖悪ぃのやめろよな、八つ当たりは男でも女でもカッコ悪いって、イイ女なんだからこういうのやめろよなぁ。青年にあしらわれるほどに、女はヒートアップしていくようだった。あの手の女はちやほやされることに慣れているので、躱されるのが我慢ならないのだろう。いや、しかし――。

    「おい」

     言い訳をするなら、脹相はだいぶ酔っ払っていた。顔色は変わらないから周囲の人間には分からないだろう。だが日本酒には強いが、カクテルにはあまり強くなかった。

     生来、あまり人と関わりを持ちたくない質なのだ。だから酔っていなければ、おそらくこんな騒ぎに首を突っ込むことはしなかった。それでも、そのときは酔っていたし、やけにこの桜色の青年が気にかかった。脹相にとってはそれがすべてだ。

    「そのへんにしておけ」

     突然声をかけてきた脹相に、女も桜色の男も驚いたように目を丸くした。どちらとも面識は無いので、おそらく、人相の悪い男が急に仲裁に入ったことに多少警戒したのだろう。絡まれるとでも思ったのか。しかし、脹相が伝えたいことはそんな物騒なことではないのだ。

    「おい、後ろのアレは知り合いなんじゃないのか」

     とりあえず女に向けてそう言って、背後を指さしてやれば、振り返った女は「あ」と絶句した。先程から気になっていたのだが、女をじっと焦がれるように見つめ続ける別の男が、群衆に紛れていたのだ。

    「さっきからずっと見ているが」

     教えてやると、女の顔色が変わった。ぐっと唇を噛んで、小さく息を吐き出す。

    「……ごめん、悠仁。八つ当たりだった」
    「だろうなあ。ほら、早く仲直りしてこいよ」

     結構お似合いなんだから、逃すんじゃねぇよ! とカラリと笑う桜色の男にもう一度謝罪を述べて、女はカツカツとヒールを鳴らして群衆の中へ飛び込む。熱心にこちらを見ていた男の腕をひっつかむと、何やら言い争いをしながらぐいぐいと引っ張っていった。その後姿を見送ってから、改めて桜色の青年の方へ向き直ると、

    「悪りぃ、助かった」

     とその薄い唇から、さっぱりとした声が脹相に向けて放られる。耳に心地よい声だった。

    「うるさかったから止めただけだ。他意はない」
    「ごめんな。アイツ、しょっちゅう彼氏と喧嘩して他人に絡むんだよなぁ……。あれさえなきゃイイヤツなんだけど」

     深々と息を吐く、その姿さえなんだか目を惹く。脹相はぼんやりとしたままで、青年の顔をじっと見つめた。視線に、青年が戸惑うような視線をさまよわせる。

    「あー、えっと。お前どこの大学?」

     気まずさに耐えかねたのか、それともまた絡まれないためなのか。会話をしてくれるつもりらしい青年にまばたきを一つ返して、脹相は素直に大学名と学部と名前を名乗った。青年の方も同じように名乗ってくれたおかげで、彼の名前が虎杖悠仁であることがわかる。ゆうじ。良い名前だ、なんて似合うのだろう。

    「加茂。へぇ、あの名家と同じ苗字なんだ。覚えやすいな」
    「……苗字はあまり好きじゃないんだ」
    「んじゃ、なんて呼んだら良い?」
    「脹相、と」
    「脹相。へえ、いいな。カッコいい名前じゃん」

     ちょうそう、と丸い声で転がした悠仁に、脹相の方こそ「いいな」と思った。こんな風に呼び捨てで呼ばれるなど、かなり親しくなったヤツ以外はお断りなのだが、まあ、この青年になら良い。ニコリと笑う顔は可愛いし、声も好みだ、何よりさっぱりとしていて活発な物言いが好ましい。ガサツではなく、どちらかというと気を配れる人間だというところも良い。

     少し注意して周囲を探れば、自分たちはずいぶんと注目されている。悠仁はずいぶんと友人が多いらしく、その話し相手の自分に対する「お前は誰だ」と言うような視線には、少々居心地が悪い――と脹相は考えているが、実際それはあのイケメン誰? といった類いのものだ。
     いかにも善人といったような可愛い系の悠仁と、治安が悪そうだが格好いい系の脹相が並んでいるから、周囲の目をひいていた。だが何しろ脹相は酔っ払っているので、そんな発想はまったくなかったし、まとわりつく視線は鬱陶しかった。だから。

     ――だから、そう、他意はなかったのだ。

    「お前は、この企画の実行委員ではないのか?」

     一応確認すれば、悠仁はきょとんと目をまたたかせて首を振ったので。

    「抜けないか。……どうも居心地が悪い」
    「……俺と?」
    「ああ」

     適当に時間を潰したら、どうせ一人で抜けるつもりだったのだが。この青年の声をもう少し聞いていたかったから、それなら一緒に抜けるしかない。
     酔っぱらいにはこの上もなく名案に思えたその言葉に、悠仁は苦笑とともに呆れたような声を出した。

    「ふはっ、ンなことして俺と抜けたら明日大騒ぎじゃね?」

     クスクスと笑う青年のその言葉に、今度は脹相が目を瞬かせる。どういう意味なのかわからない。

    「このイベントの趣旨わかってねぇの?」
    「合コンだろう」
    「そーそー。んで、お前はその合コン会場から、男の俺をお持ち帰りしようって言っているんだけど、どう思う?」
    「……ああ」

     なるほど言われてみれば、という感じだ。
     そこらじゅうでカップルが成立したり、アピール合戦が繰り広げられているホールの中で、男同士こうして話をしている悠仁と自分はずいぶん浮いている。だから悪目立ちしているのか、と酔っ払いは理解したような気持になった。まさか半分は周囲から観賞用として愛でられているとは夢にも思っていない。

    「お前は無理やり参加させられたって感じだけどさ、決まった相手がいないんなら、ほかの女子と話でもしてきたら?」
    「お前は?」
    「俺は客寄せパンダってやつ。俺、友達多いからそれを連れてくるだけね。その代わりタダ飯なんだ」

     そういう約束なんだよ、と悠仁はカラカラ笑ってみせた。おそらく彼はこういった席はそこまで苦手では無いのだろう。だが興味が無いことはすぐに察せられた。頼まれたから来ただけなのだろう。

     ……それなら問題ないんじゃないか?
     考えれば考えるほど、脹相はそう思った。何の問題があるのか? 確かに悠仁を連れて会場を出たら、大げさに噂されてしばらくはからかいの的になるだろうけれど、それが嫌かと問われると割と嫌ではない。というか、お持ち帰りという表現は、持ち帰られる方が同意しなければ成り立たない気がする。
     繰り返すが脹相は酔っ払っていた。それは一切顔に出ていなかったが、確かに酔っていたのだ。

    「……嫌か?」
    「へ」
    「俺に持ち帰られるのは嫌か?」

     自分が何を言っているのか、酔っぱらいに正確な判断はできない。けれどもどうしても彼ともっと話をしたかったし、同じくらいここに居たくなかったのだから仕方がないだろう。とても真面目に、真顔でそう問いかけた脹相に、悠仁は今度こそ目を丸くした。

    「いや、あのな? えっ、お前もしかして酔ってんの?」
    「酔ってない」
    「酔っぱらいは皆そう言うんだよなぁ。あのな、脹相。お持ち帰りが許されるのは、その後お付き合いする二人だけなんだって」
    「おつきあい……」

     酔っ払いは目を瞬かせて、言われた単語を脳内で反芻した。お付き合い。悠仁と、自分が。――ふむ、悪くない。

    「するか」
    「は」
    「お付き合い」

     瞬時にはじき出された結論に、脹相の納得は早い。確かに自分は酔っているが、好みのタイプは酔っていようがいまいが同じだろう。今まで弟以外の他人に興味など抱いたことがなかったが、どうやらこんな元気系が好きらしい。声が明るく、笑顔が可愛いとなお良い。性別はどうでもよかった。

    「悠仁。俺と抜け出さないか」

     重ねて問いかけた脹相に、悠仁は戸惑いの視線を向けた。繰り返すが脹相は、酔っている。顔には一切出ていない。

    「いや、あの、えーと……。他意は」

     無いよな、冗談だよな?
     おそらくそんなふうに聞きたかったはずだ。けれども脹相は今酔っていて、普段よりも少々己に素直だったので。

    「さっきまでは、無かったな」

    真っ直ぐに悠仁の琥珀色の瞳を見返して、ただただ正直に告げる。



    「今は、ある」


     そしてその十分後、イベントホールからは二人の男が姿を消した。


     後に、悠仁はその「お持ち帰り事件」について、まさか酔ってたなんて全くわからなかった、と感想を告げたのだが。しかし酔いがさめても酔っていたとしても脹相の好みは全く変わらなかった。
     なので何の問題もなく、今日も恋人として二人は仲良くやっている。



    【終わりっ】
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺☺💕💕💕💕💕💕😍❤👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator