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    ハピエンにならなかったやつ。ボツ。

    虹色の雲と、いつかの約束 舗装がされていないあぜ道は、強い日差しに晒されて土埃が舞うほどに乾いていた。田んぼを通って来た生ぬるい風に顔を撫でられると、土と水と濃い草のにおいがする。

     山間の田舎の小さな町。爺ちゃんと二人で住んでいる家のすぐ近く。神社の隣に建つ古いお屋敷には、男が一人で住んでいる。
     町に住む誰もが彼のことを「一番様」と呼んだ。爺ちゃんの爺ちゃん、そのまた爺ちゃんの頃からそこに住んでいるという男はこの町にとって生きている神様なのだという。そのことについて誰も疑問に思っていないし、変な感情も抱かない。ただ穏やかに敬い、ともに共存する。それが一番様とこの町の関係だ。







     純日本家屋といった具合のその屋敷には、仰々しいほど立派な門がある。何百年もここにそのまま存在しているというこの屋敷は確かに古いと感じるが、だからといって朽ちていることはない。細かな傷が無数にあるその門をくぐり、そのまま玄関ではなく庭へまわる。

     庭に面した縁側には男が一人座っていた。黒い着流しを着たその人物は庭に咲く向日葵と向き合って夏空を見上げている。入道雲の浮かんだ、深い青の空。燦々と降り注ぐ日差しを眩しそうにぼんやりと仰ぐ男に呼び掛けた。

    「兄ちゃん、もうちょっと日陰に来ないと熱中症になんじゃね?」
    「悠仁、来てくれたのか」

     声に気付いたと同時に眩しそうに目を細めて微笑む男。生きた神様というなんとも不思議な存在に出会ったのは俺が小学校に上がったばかりの頃だ。






     物心がつく前に父親は亡くなり、そして何の仕事をしているのか知らなかった母親は、いわゆる仕事の虫というやつだったらしい。育児を二の次にして仕事に明け暮れる母親に対して、社会はネグレクトという判断をした。その頃の記憶を俺は全く覚えていないのだが、児童相談所と母親、そして田舎に住んでいた唯一の肉親である爺ちゃんとの間で長い話し合いがあったらしい。双方の利害、そして何より俺の生活環境を重視した結果、俺は爺ちゃんの家に引き取られることになった。

     小学校入学と同時にこちらに引っ越して来た俺にとって、ここは見るもの全てが不思議でキラキラと輝く別世界であった。透き通った水が流れる小川、虫や動物が身近に息づく自然豊かなこの町を俺は気に入ってよく散歩に出ていたのを覚えている。

     アイツと出会ったのも今日みたいな暑い夏の日だった。
     世間はお盆休みに突入した日だが、小学生の俺には夏休みの中のただの一日だった。いつもと違うのは同級生の友達は親戚がくるからと遊べないことぐらいだ。だからといって家では爺ちゃんがお盆の迎え火やら準備があるからどっか行ってろと追い出される始末。
     一人退屈を持て余して不貞腐れていた俺は、ふと見上げた空に奇妙なものを見つけた。淡い色の絵の具を好き勝手に使って描いたような、何色もの色が混ざった雲。それを見た瞬間に、衝動のままに立ち上がって、それまで食べていたアイスの棒を持って駆け出していた。

     段々と薄まっていく虹色の雲だけを見上げながら、田んぼのあぜ道を通って、道を曲がって、坂道をのぼって。いつの間にか迷い込んでしまっていたこの古いお屋敷の縁側に、コイツがいた。

     じっと空を見つめるその横顔はひどく儚くて、そのまま夏の風に攫われて消えてしまいそうで。いてもたってもいられずに、俺は男の前に飛び出して問うた。

    『ひとりで、なにしてんの?』

     突然現れた幼子の不躾な質問に、漆黒の薄い目を大きく見開いて。穴が開くほどに見つめられたあと、男は穏やかに笑って、大きな手で俺の頭を撫でてくれた。

    『……そうだな。お前を待っていた、と言ったらどうする?』

     あの頃から、コイツの見目は全く変わっていない。頭上で二つに結われている烏の濡れ羽色の髪の毛。不健康そうな青白い肌、夜空のような漆黒の瞳。普段はぼんやりとしていて、整った容姿も相まって精巧な人形のような男だった。

     年齢、職業、本当の名前をこの町の誰も知らない。俺も何度か尋ねてみたが、「一番様なんて呼ばないでくれ。お兄ちゃんと呼んでくれないか」と言われたぐらいだ。けれど彼を目の前にすると、何故だか側に居られることがただ嬉しくて、そんな些細なことはどうでもいいやと思うのだ。きっと俺だけでなく、この町に住む人はみんな、そうなのだろう。コイツは誰が来ても愛想を良くするわけでもないし、不思議と俺以外の人間とは長話をするわけでもなかった。だがこの町の人たちはこの一番様を慕っているようだった。







     プランターに植えられて蔓を伸ばす、鮮やかな青色の花と目が合った。朝に水を撒いて貰ったのだろう、瑞々しい花びらの奥にはまだ水滴が残っていた。

    「コイツら今年も元気に咲いているなぁー。いま何代目だっけ」
    「朝顔は小学一年生、向日葵は小学二年生の時の悠仁の自由研究の題材だっただろう。だから十代目だな」
    「……兄ちゃん。もしかして俺の自由研究の内容、ぜんぶ覚えてんの?」
    「悠仁のことは全部覚えている。それに、全部に手助けしたのだからな」

     クワガタの生態、小川で釣れる魚、夏の星座、シャボン玉の原理、……指折り数えて、兄ちゃんは一つ一つ思い出しているようだった。

    「早朝に虫網担いだ悠仁に叩き起こされたこともあったな。小川に落ちた悠仁を助けるためにずぶ濡れになったり、この屋敷で天体観測して寝落ちしたところを布団に運んだり……」
    「あー……。まぁ、その……。なんか、……ごめんな?」
    「?、何故謝るんだ? 俺にとって何もかもが大切な思い出だ」

     普段から学校が終わるとここへ来る毎日だが、夏休みはそれが一日中になる。ほぼ毎日コイツの家に通って、宿題を見てもらったり本を読んだり、かるたや将棋で遊んだり、朝から晩まで色々な話をして過ごす。それがもう十年以上続く、俺の夏休みの日課だった。
     コイツが笑って嬉しそうにするからいいものの、本来ならば俺の保護者であるじいちゃんに保育代を請求してもいいくらいだろう。

     チリン、と縁側にかけられている風鈴が鳴る。
     爺ちゃんに持たされていた冷えた水羊羹を差し出すと、兄ちゃんは礼を言ってそれを受け取り、膝の前を手で押さえて立ち上がった。上等そうな黒い着物の生地が擦れて微かな音を立てる。
     縁側からの光が届かない、薄暗いお屋敷の奥に入っていった彼の背中を目で追うと、室内からは何故だか懐かしく優しい香りがした。

     その後、戻ってきた彼に当然の権利かのように見せてみろと言われた通信簿を手渡せば、男はそれを両手で開いてしげしげと眺める。

    「相変わらず化学と数学が惜しいな」
    「どうも苦手なんだよなぁ。でもほら見て、古文と日本史は最高評価。すっかり文系」
    「なに、悠仁ならば本気を出せばすぐに伸びるだろう。……良い成績だ。頑張ったな」
    「そんなすぐに成績が伸びるほど頭いいわけじゃねぇけど、……あんがと」

     頭を撫でられて、嬉しくなってへへへと笑うと男も低く笑った。

    「欠席日数は零。今年も皆勤賞を取れるといいな」

     通信簿の一番下に記入されている出席日数の項目を、コイツはなぜか毎回欠かさずチェックしてコメントする。
     数年前に生まれて初めてインフルエンザにかかり学校を休んだことがあったが、その話をした時の兄ちゃんは珍しくうろたえて、もうとっくに治ったと言ってもしばらく心配そうに眉をひそめていた。

    「取れるんじゃね。風邪すら滅多にひかねぇもん」
    「……ああ。川に落ちた時も山で派手に転んだ時も、布団を蹴っ飛ばして腹丸出しで寝ていた時も、悠仁は元気でぴんぴんしていたものな。身体が丈夫なのは良いことだ」

     頭を撫でていた手を離して、兄ちゃんはとても嬉しそうに微笑んだ。親が子を見守るかのような、その温かい視線が居心地悪くて目を逸らした。

    「なぁ、俺ももう高校生だしさ。来年の夏休みはここの町から出て一緒に旅行でもしてみねぇ?」
    「この次の夏からは、悠仁は受験を考え始めるだろう」
    「じゃあ受験が終わったらでいーや。大学の志望校に受かったら一緒に行こうぜ」

     ほら、約束。と小指を差し出せば、彼は細く息を吐いて、読みかけだったらしいハードカバーの古い本を手に取って開いた。

    「約束なんて簡単にするもんじゃない。誓約は呪いの一種だ。言霊の縛りは悠仁が思っているよりも強い。簡単にするものじゃない」

     活字を目で追いながら、静かに諭すように言う。
     ……昔からいつもそうだ。この男は俺と未来の約束をしない。

     陶器の皿に載せられた水羊羹を、銀のスプーンでつつく。

    「志望校と言っていたが、何処か行きたい大学でもあるのか?」
    「んー、そういうわけでもないんだけどさ」

     涼やかで甘い水羊羹を口に運ぶ。
     男の前に皿はない。彼が何かを飲み食いしている姿を、俺は見たことがなかった。

    「悠仁なら、頑張り次第で都会の上の大学を狙えるだろう」

     本から顔を上げて、先ほど通信簿と一緒に見せた全国模試の結果の用紙を手に兄ちゃんは誇らしげに俺を見た。眩しそうに目を細める顔にムッとする。

     どうしてそんな顔するんだよ。
     だって、俺は。

    「都会の大学には行く気ねぇよ。お前とも、離れちゃうし……」

     甘ったるい口の中で、口ごもる。

     この男をいわゆる恋愛の意味として好きになったのは、一体いつからだっただろう。幼い頃は呼び名の通り本当の兄のように慕っていた。質問すれば丁寧に教えてくれる落ち着いた低い声、頭を撫でてくれる大きな手、穏やかに笑う笑顔が好きで。そうなることが自然であるかのように、恋に落ちていた。

     春夏秋冬、どの季節も。
     自宅の窓から、学校の教室の窓から空を見上げては、考えるのはこの男のことばかりだった。
     縁側に座って空を見上げる、アイツの姿を思い出しては胸が締め付けられて、どうしようもなく会いたくなった。
    その想いは年々強くなっていた。



     男は何も言わなかった。
     ざあ と熱い風が吹いて、庭の背の高い向日葵が揺れる。

    「……兄ちゃんってさ、いつも黒い着物を着てるよな」

     沈黙に耐えかねて、笑顔を浮かべて彼の着物の袖に触れた。
     重く染め上げられた漆黒の着物は喪服のよう。線香の香りのするこのお屋敷で、彼はまるでずっと喪に服しているようだった。

    「もっと他の色も似合うんじゃねぇの。そう例えば、」

     翻る白い袂。
     濃紫の襟巻き。
     ゴツいブーツ。
     それから、真っ赤な――。

    「…………」


     つきん と頭痛がして、唐突な眩暈に揺れた肩を男が抱きとめた。冷たい手のひらが両目を覆う。

    「思い出してはいけない」

     指の隙間から見えた兄ちゃんは、硬い表情で眉根を寄せていた。悲しそうな、切なそうな顔を見て疑問が頭をよぎる。
     思い出す、なにを?

    「俺は、……なにを忘れてんの」
    「なにも。お前は普通の高校生で、」
    「違う、待ってく、れ……。俺、ずっと前からお前のこと、」

     知っていた。探していた。愛していた。

     そのどれかを言おうとして、けれど目元から降りて来た男の手に口を塞がれて。そのどれをも、伝えることは許されなかった。
     長い睫毛が持ち上がり、黒曜石のような瞳の中に俺が映る。

    「もう帰ったほうがいい。悠仁の居場所はここじゃない」

     兄ちゃんは柔らかく微笑んで、一度俺の頰を撫でて手を離した。少し乱れた着流しの裾を直して、縁側に腰掛けて入道雲の浮かぶ空を仰ぐ。

    「お前と会えるだけで。俺はもう、じゅうぶんなんだ」

     静かな低い声で男はそう言った。まるで言い聞かせるように。
     けれどその膝の上で、彼が自身の手を強く強く、震えるほどに握りしめているのが見えて。
     それがなぜだか胸が締め付けられるほど悲しかった。
     
    「俺は……、」

     充分なんかじゃない。そう呟いて広い背中へと手を伸ばす。けれど男は振り向いて、俺の手から逃れるように立ち上がった。

    「明日の夜、隣の神社で盆の祭りがあるだろう」

     眩しい日差しが逆光となって、男の表情は見えなかった。けれどその声はとても優しくて、彼が微笑んでいるのが分かる。

    「悠仁。……デートを、しようか」

     ちりりん と風鈴が鳴った。






    「なぁ、やっぱ変じゃね? これ、大丈夫なん?」

     爺ちゃんが若い頃着ていたという浴衣を着せて貰って、そわそわと落ちつきなく鏡を覗く俺に爺ちゃんはさも嫌そうな顔で言った。

    「一番様が着流しで来るってのに、お前がそのまま行くわけにゃいかねぇだろうが! 大丈夫かどうかは一番様が決めるからお前はそのまま行きゃァいい」

     ほら、シャンとしろ。シャンと。
     その言葉とともに背中を痛いくらいに叩かれて気合いが入る。あの男から「デート」なんて言葉が飛び出すなんて思っても見なかったから、気弱になっていたみたいだ。男、虎杖悠仁。行くしかない。
     両手で軽くパンッと頬を叩いて気合いを入れてから用意されていた風呂敷包みを持って家を出て、薄暗い道を下駄でカラコロと音を立てながら歩く。いつもより大分狭い歩幅が歩き難くて、けれど自然と口元が緩んで微笑んでしまうくらい俺の心は躍っていた。

     兄ちゃんと祭に行くのは初めてのことだった。
     幼い頃に何度か一緒に行こうとねだった事があり、けれどその度に色々な理由をつけて断わられていたから、彼は祭や人が多く集まる場所に行くのが好きではないのだと思っていた。

    「兄ちゃん、来たぜ」
    「ああ、悠仁。浴衣か、……似合うな」

     屋敷に着いていつものように庭に回れば、やはり彼は黒い着流しを着て縁側に腰掛けていた。褒められたのが嬉しくて、へへっと笑うと、兄ちゃんは不思議そうに首を傾げた。

    「その荷物はなんだ?」
    「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました」

     縁側に風呂敷包みを置いてほどいて、中に入れていたものを彼に差し出した。

    「俺が着てるのもそうなんだけど、爺ちゃんの若い頃着てた浴衣がまだあってさ。兄ちゃんに似合いそうだなって思ってたら爺ちゃんが持ってけって。……これ。お前に、すごく似合いそうじゃねぇ?」

     ひざ下だけに控えめな流水文が入った、木綿の白地の男性用浴衣。そして目に留まった、濃紫の襟巻きと袖なしの羽織りを出す。爺ちゃんには「馬鹿野郎、これは夏のモンじゃねぇ!」なんて怒鳴られたけど、なんとなくこれがしっくりきたのだ。これじゃなきゃいけない気さえする。

     受け取ろうと伸ばされた男の手がびくりと震えた。彼の表情を見て、俺は思わず首を横に振った。

    「あー……、嫌ならいいんだけど。なんか、ごめん。勝手に」
    「いや、」

     引っ込めた俺の手から浴衣を持ち上げて、兄ちゃんは目を細めて笑った。

    「ありがとう。すぐに着替えてこよう」
    「無理しなくてもいいんだけど、」
    「他ならぬ悠仁の頼みだ。お前の願い事は何でも叶えてやりたい」

     そう言って兄ちゃんは下駄を脱いで屋敷の中へ入って行く。すぐに戻って来た彼の姿を見て俺は数秒、息をするのを忘れた。

    「……めちゃくちゃ似合う」
    「……そうか」

     いつも黒の着流しだから白い浴衣はどうなんだ、と爺ちゃんに言われていたがやはり想像通りだ。彼の黒髪に白い袂が映える。細い腰に締められた帯と、袖なしの羽織は黒に近い濃紫で、そこに巻いた同色の襟巻きが彼の人間らしからぬ見た目を際立たせていた。俺の溜息混じりの感想は言葉に出してみてより一層その気持ちが強くなる。似合う、似合っている。なぜだか胸が熱くなった。

    「……ホントに、似合う。なんか……、全部黒よりもしっくりくる」
    「……そうか。では、行こう」

     一度目を伏せて、けれどすぐに顔を上げて兄ちゃんは俺の手を引いた。

     小さな田舎町の小さな神社の小さな夏祭り。けれど階段を上って辿り着いた境内は賑やかで、近所の子どもたちがはしゃいで走り回る声、屋台の客引きの声、本殿の方からは祭囃子が鳴り響く。

    「盛況だな。……悠仁、さっきからどうしたんだ?」
    「え、いや? ……別に」

     なんでもない、訳ははない。
     先ほどから繋がれているコイツの手の感触に、胸が鳴り続けて壊れてしまいそうだった。動揺を悟られないように、彼のその手を強く引く。

    「おっ、出店いっぱいあんじゃん! 何から食べるかなぁ。それとも遊ぶか?」
    「俺はどれでも良い。悠仁の好きなものから回ろう」

     くつくつと低い声で笑う彼は、提灯の明かりの下で紅く染まっていた。

     焼きそば、チョコバナナ、りんご飴。輪投げに型抜き、そして射的。
     カランコロンと下駄を鳴らして、露店や人ごみから離れた神楽殿の石造りの階段に腰掛けた。

    「ふ、ふふ、ふはっ」
    「……笑いすぎだろう」
    「いや、だって。まさか兄ちゃんがあそこまで下手だったとは思わなかったんだって」
    「だから悠仁がやれば良いと言っただろう。銃など扱ったことがない」

     射的の残念賞で貰ったサイコロキャラメルを手のひらの上で転がす。全弾見事に的から外して、苦い顔をしていた彼を思い出してまた笑いがこみ上げて来た。

    「っふふ。あ、」

     ふいに巾着の中でスマホが震えて、取り出して画面に表示されたその名を見る。確認したのち、また液晶を暗くしてから中へと戻した。

    「必要な連絡じゃないのか?」
    「……ん、いい」

     首を傾げてこちらを見る兄ちゃんを見て、少し迷った後に口を開いた。

    「同じクラスの女子。委員会が同じで最近よく話すようになって……夏休みに入る前に、告白された」

     なんとなくコイツの顔を見たくなくて、意味もなく上を見上げる。等間隔であかりが灯る提灯がゆらゆらと夜空を照らしていた。

    「まぁ、でも断るやつなんよ。だから、いい」
    「どんな子なんだ?」

     問いかける声は穏やかで、顔を戻して見た男の表情も穏やかなものだった。

    「……優しい子、だと思う。背が結構高くてさ。物言いがサッパリしてて女の子なのにカッコいい、とは思う。俺より勉強は苦手なんだけどさ、ダンスは得意で。……でも、それ以外はよく知らない」
    「……そうか。悠仁を選ぶとは良い趣味をしている」

     心のどこかで、この男が心配したり嫌がったり怒ったりしてくれることを期待していた。
     けれど嬉しそうに微笑む兄ちゃんの横顔を見て、思い上がって自惚れていた自分への羞恥心と、絶望感に襲われる。

    「兄ちゃんは。恋をしたこと、……ある?」

     浴衣の袖を握り締めて、声が震えないように、明るい声を出して問いかける。
     しばらく黙ったあとに彼は「ある」と答えた。

     昼間とは違う涼しい風が、神社の奥の暗い森から吹いた。

    「恋人だったわけじゃない。俺の一方的な想いを告げることもなかった。俺はたくさんいる仲間の一人で……立場も存在も何もかもが違った」

     いつも何を聞いてもはぐらかして教えてくれなかった、コイツの過去の話。思わず背筋を伸ばして、聞き漏らすまいと耳をすませた。

    「お人好しな子だった。人の為に生きて、自分のことを顧みないような、そんな不器用な生き方をしていたな。幸せになる道をみえているはずなのにそれを断って修羅の道へ進むような子だった。……だからなのだろうな。普通の人間の半分にも全く届かないような若いうちに亡くなった。……他の仲間は惜しみながらも決別を受け入れ、あの子を黄泉路へと送り出したと言うのに」

    夜の闇に滲む屋台の明かりを見ながら、けれどきっとそれよりずっと遠い場所を思い描きながら、彼は語る。

    「俺はできなかった」

     強い風が吹いて、ごろごろと夜空が唸った。

    「送り出すどころか……あろう事か愚かにも、また会いたいなどと願ってしまった。気がつけばこの町のあの屋敷にいて、いったいどれほどの年月を過ごして来たか、自分でももう分からない」

     頬に水滴を感じて上を向けば、途端に雨粒が容赦なく身体の上に降り注いだ。男に手を引かれて移動した神楽殿の屋根の下で、彼は俺の濡れた頬と髪を白い浴衣の袖で拭った。突然の雨に慌てふためく人々の声も、祭囃子も、強い雨音に掻き消されて聞こえなくなった。

    「……実は、俺は人ではない」

     暗闇の中で、ずぶ濡れの男がこちらを見ていた。濡れて頬に張り付いた髪から、ぽたりと水滴が落ちる。この男の濡れそぼった姿など初めて見るはずなのに。
     ――俺にはやけにこの姿を懐かしく感じていた。

    「……知ってたよ」

     離れていこうとする彼の浴衣の袖を掴む。

    「でもそんなの大したことじゃないじゃんか。俺はお前と一緒に、」
    「だめだ」

     顔を上げれば、黒曜の瞳は金属のような冷たい光を宿していた。
     遠くで雷が落ちる音がする。思わず震えた俺の肩を、コイツは遠ざけるように押した。

    「俺は過去の亡霊だ。消える方法すら分からない。今を生きる悠仁にとっては、……きっと害にしかならない」

     なんで、そんなこと。
     思っても言葉が詰まったように出てこない。唇をかみ締めて首を横に振れば、彼は困ったように微笑んで俺の頬を撫でた。

    「俺のことはもう、忘れてくれていい」
    「やだ!」

     幼子に言い聞かすように、諭すように見下ろしてくる眼差しが不愉快で、彼の手を振り払った。

     忘れられるはずが、ない。
     好きなのに。
     こんなにもコイツのことが好きなのに。

     荒れ狂う心の中を言葉に出来ずに、どうしようもなくて、降りしきる豪雨の中へと駆け出した。背後から名前を呼ぶ声がして、けれどその声も雨音に消されて。

     気がつけば全身ずぶ濡れになって、家の前に立っていた。心配そうに、でも爺ちゃんは何も言わずにただ風呂に入れと声を掛けてきた。それでも結局爺ちゃんの言うことを聞かずに、濡れた身体を雑にタオルで拭いて着替えて、そのまま布団に潜り込んだ。
     枕元に転がった、握りつぶして雨に濡れてぼろぼろに変形してしまったサイコロキャラメルが悲しくて、堪えていた涙が溢れた。





     ――不思議な、夢を見た。


     見知らぬ学校の校舎の中の一つの教室。そこで俺は無心に何かの書類を片付けていた。手を動かしながらも、これが終われば報告書、その後はあの件について準備して……と、頭の中は忙しなく別の仕事について考えていた。聞きなれた足音が聞こえて、けれど俺は書類を書く手を止めなかった。

    「悠仁、少し休んだらどうだ。……なにもそこまで急いでやることでもないだろう」
    「ははっ、サンキュー。追加の提出書類でも持ってきてくれた? なら、そこに置いといてくれ」

     顔も上げずに指差したのは隣の机の紙の山。彼が溜息をついたのが聞こえて、次の瞬間、書類だけを見て白黒だった俺の視界は鮮やかな色の洪水に染め上げられた。
     赤、黄、ピンク、橙。上から降ってきたそれらは百日草の花だった。
     思わず顔を上げれば、いつもと変わらない男の顔がある。皆にはぼんやりとしたいつもの顔に見えるのだろう。だが俺は知っている。瞳はいつもに比べて柔らかな色をしていた。

    「やっとこっちを見たな」
    「……すげ、びっくりした。なにこれ、どうしたの?」
    「校舎の隅に生えていた」
    「いや、そりゃ植えてあったんじゃね? あーあ、花壇に咲いてたやつなんじゃん」

     ごめんな、俺の部屋で飾るから許してな。と花に向かって微笑めば、彼は眉を下げて困ったような顔をした。

    「すまない、悠仁が喜ぶとおもったんだが」
    「喜んだよ。でも花壇のは取ってきちゃダメだ。誰かが世話しているやつなのかもしんねぇし」
    「そういうものなのか」
    「そういうものなんです」

     立派に説明をしているが、こうやって自分に花を摘んできてくれるこの男の優しさが嬉しかった。それに思わず顔が綻んでしまう。

    「まだこの紙の山は終わらないな」
    「まぁ仕方ないだろ。……どデカいことを引き起こした渦中にいたんだし。宿儺の指のことも含めてさ、俺が残しておけるものは残しておかないと」

     俺が取り掛かっているのは、俺が宿儺の指を取り込んでからこの件が解決するまでの報告書である。もう二度とこんなことが起きないよう、そしてこの件で亡くなった全ての呪術師や非呪術師の人たちのためにも俺はこの書類の山を仕上げなければならない。
     やることはまだ残っている。来る終わりの日まで、1秒たりとも無駄には出来なかった。

    「――……そうか」
    「そんで、この花を届けにきてくれただけ? 他に用事あったか?」
    「ああ、そういえばもう一つ、悠仁に見せたいものがあるんだ。こっちに来てくれるか?」
    「んー? 仕方ねぇな、ちょっとだけだぞ」

     書きかけの書類をまとめて立ち上がると、強い立ち眩みと頭の痛みに襲われた。指を全て取り込んでからはこんなことが多い。ぐっと身体に力を入れてそれに堪えて、白く翻る袂を追う。屋上に出ると、男は空を指差した。
     そこには、水彩絵の具を散りばめたような色彩をした雲が浮かんでいた。

    「うわ、すげぇ……。きれー」
    「瑞雲というらしい。……大気中の水滴が太陽の光を屈折させて現れる、大気光学現象だ、と家入が言っていた」
    「へー。初めて見たわ……」

     俺が屋上の床に座れば、彼もその隣に腰掛けた。

    「何となく空を見ていたら見つけてな。あれが出るのは吉兆なんだという。悠仁に見せたいと思ったんだ」
    「ふはっ、ありがとな。嬉しい」

     微笑めば、彼は嬉しそうに笑顔を返した。けれどすぐに難しい顔になって、泣き顔を堪えるように眉をぎゅっと寄せた。

    「悠仁、お前は生きるべきだ」
    「なーに言ってんの。今更だって」
    「だめだ。お前がいなくなるなど、……死刑など、俺は、」

     言葉に詰まったように何も言わなくなった男の頭に手を伸ばす。二つ結びの奇妙な髪型。だが、俺にとってもう見慣れてしまった安心するシルエットだ。
     髪型を崩さないようにそっと撫でる。俺より年上の見た目だとかは気にしない。男がこういうことを不快だととらえないということを俺は分かっているからだ。

    「ん、ありがとな。でももうとっくに覚悟してるんよ。――普通の幸せは、いつか普通に生まれてきた時にゆっくりすることにする」
    「……気の長い話だろう。輪廻の流れに乗ったとして、またすぐに人として生まれて来れるわけじゃない」
    「虫とか鳥に生まれるのも、なかなか面白そうだからいいだろ?」

     空を見上げて、不思議な色合いの雲を見つめる。風に流されて形を変える雲は、段々とその鮮やかな色を薄めていって。

    「……あ。消え、ちゃったな……」

     青と白だけになった空を見ながらそう呟けば、存外寂しげな声が出た。それを聞いた男は慌てたように、俺の両肩をガシリと掴んできた。

    「今度また、俺が絶対に見つける。そうしたら悠仁に一番に知らせよう。約束だ」
    「約束なんて簡単にして良いのかよ。……ほら。俺……、もうすぐ、」
    「俺がしたいからするんだ。こんな約束でも、悠仁が少しでも生きていたいと思わせられるのなら、俺は」

     おもむろに俯く男の手の小指を絡め取って、指きりげんまんと歌えば、彼はポカンと目を丸くしたのちに淡く笑った。

    「悠仁に良いことがあるといいんだが」
    「もうあった。お前にも、良いことが起こるといいんだけどな」
    「……俺も、もうあった」

     小さく呟かれたその言葉に、俺は気づかないふりをして、眩しい青空を仰ぎ見た。
     夏の熱い風が、隣同士に並んだ二人の髪を揺らした。





     名前を呼ばれて意識が覚醒する。重い瞼を持ち上げると、枕元に膝をついた爺ちゃんが珍しく心配そうにこちらを見ていた。窓の外はまだ薄暗くて、今が早朝だというのが分かった。

    「起こしてすまんな。……悠仁。一番様が、昨晩ご挨拶にいらした。急だが今朝この町を出るそうだ」

     言葉を理解した途端、ザァッと血の気が引く。飛び起きた俺を、爺ちゃんは何もかもを見透かすような目で見つめてきた。

    「お前には伝えないようにと言われたんだが……。こういう事は、綺麗に砕けた方がいい。ほら、潔く砕けてこい」
    「……砕けること前提に言うなよな」
    「じゃあ、がんばってこい。シャンとしろ」

     檄を飛ばすと、爺ちゃんは薄く微笑んで部屋から出て行った。
     布団から立ち上がって、クローゼットに掛けていた一番手前のTシャツとパーカーを着て、洗面所で顔を洗って歯を磨いて、寝癖をなおす時間も惜しくて、そのままサンダルを引っ掛けて家を飛び出した。

     薄暗い田んぼの間のあぜ道、今まで何度通ったかも分からない道を駆ける。曲がり角を曲がって、坂道をのぼって、辿り着いた屋敷の門をくぐって、

    「兄ちゃん……ッ!」

     転がり込むように縁側に膝をつくと、重ねた本を紙紐で縛っていた男が目を丸くしてこちらを見た。

    「悠仁、……どうして」
    「どうしてはこっちの台詞だ! この町を出るって、どうしてっ……!」

     もともと物が少なかったのに、それらが全て片付けられている屋敷の中を見て。俺はサンダルを脱ぎ捨てて部屋に上がり、いつもの黒い着流し姿の兄ちゃんに抱きついた。押し倒す勢いだったのに、細い体躯はびくともしなかった。

    「いや、いやだ、だめだ。兄ちゃん、どこにも、行くなよ……ッ!」

     一度溢れ出したら堰を切ったように涙が止まらない。嗚咽交じりにそう言って、縋るように広い胸元に顔を押し付ければ、頭上でぐっと息を詰める気配がした。しばらく俺の泣き声だけが部屋に響いて、けれどふいに長い腕が背にまわり、強く抱きしめられた。

    「一目会えれば、それで良いと思っていた」

     耳元で囁かれた低い声は震えていた。触れ合った男の身体はひやりと冷たかった。

    「なのに悠仁は毎日俺の元へ来てくれて、色々なことを喋って笑って、また明日と言って去って行って……。関わるべきではないと分かっていたのに、あと一年だけ、もう一度だけと繰り返して、気づけば十年以上経ってしまった」

     暗かった室内に光が滲む。縁側から入ってきた朝日が、抱き合う俺たちの影を畳の上に映した。

    「年を追うごとに成長していくお前が、可愛くていとおしくて仕方なかった。春も、夏も、秋も、冬も。この縁側に座って、考えるのは悠仁のことばかりだった。ただひたすらに、お前を待っていたんだ」

     背に回されていた男の手が俺の頬に触れる。泣き腫らした目元に口付けられて、また涙が溢れた。顔をずらして鼻先が触れ合って、至近距離で夜空のような黒い瞳に射抜かれて、ああキスをされると思った。

    「――……」

     けれど男の唇は降りて来なくて。彼の目は俺ではなく、俺越しの、空を見ていた。

    「――……瑞、雲」

     静かにぽつりと呟かれた言葉に、背後を振り返って空を仰ぐ。

     夜が明けたばかりの霞んだ青空の高い位置、薄く浮かぶ雲は鮮やかな色彩を持っていた。赤、黄、ピンク、青、緑、橙、紫。不規則に色の混ざり合うそれは、いつか見たものと同じ。この世のものとは思えないほど幻想的で美しくて。何も言わない兄ちゃんに振り向いて、俺は目を見開いた。

    「な……ッ!?」
    「……」

     彼は両手を広げて自分の身体を見ていた。手と足の先から、金色の光の粒となって消えていく様を。思わず手を伸ばして、けれど俺の手は男の手をすり抜けた。男は暫くぼんやりと自分の体を観察していたが、そのうち淡く笑った。

    「……そうか、ようやく分かった。誓約は呪物をも縛り付けたのか」
    「やめろ!! やだ、やだっ、行っちゃだめだ!」

     触れられないのに必死に縋りつこうとする俺を見て、男は穏やかに微笑んだ。

    「悠仁、ありがとう。お前と過ごした年月は、とても楽しかった」

     俺の大好きだった、優しい声と眼差し。
     これが最後なのだと、彼は行ってしまうのだと、もう戻らないのだと、確信して理解した。

     ならば。
     最後ならば。
     俺がコイツに伝えたいことは。

     涙を手で拭って、星屑のように散っていく美しい人を見据えた。

    「夢を、見た……! お前が祭りの時みたいな着物に袖なしの羽織りを着て、マフラーみたいな襟巻を巻いていた。足元はふわっとしたズボンにブーツを履いていて、変な格好だったんだ。俺は死刑を控えていて、それを急ぐように仕事ばかりして……。兄ちゃん、俺は……あの人はさ、普通の幸せな人生は諦めていたけれど、普通じゃない苦しい恋はしていたよ」

     夢の中で、痛いほどに分かってしまったのだ。自分と同じものを抱えるあの青年の気持ちが。

    「お前のことが、好きだったんだよ」

     涙声で告げれば、兄ちゃんは表情をなくした顔で呆然と俺を見た。何か言おうと口を開いて、目元と口元が歪んで、黒曜の目から透明な雫が溢れて頬に流れた。

    「……っ……」

     嗚咽を噛み殺して、けれど止まらない彼の涙が光の粒とともに宙に舞う。その瞬間にも、彼の姿は形を失っていく。
     泣き顔のままで微笑んで、男は俺に向けて両手を広げた。

    「おいで、悠仁」

     その時、コイツにちゃんと笑顔を向けることができたかは分からない。広い胸に飛び込んで、確かな暖かさを感じた瞬間、彼は幻のように消え去った。

     抜け殻となった黒い着流しを抱いて、その白檀の優しい香りに包まれたまま、子どものように声をあげて泣いた。

    「っ……く、ふ、…………っ、ちょう、そ……」

     彼の名前を知らない筈なのに、何故だか俺はそれを知っていた。

    「脹相…………ッ」

     本人に向かって一度も呼ぶことのなかったその名前は、誰に届くこともないまま朝焼けの空に消えていった。







     家に戻ると、中庭から細い煙が立っていた。おぼつかない足取りで導かれるようにその煙の元に歩くと、爺ちゃんが焚き火をするように小枝を火にくべていた。俺の姿に気づいて、酷く腫れているであろう泣き顔を見て、爺ちゃんは俺の頭をかき混ぜるようにしてわしゃわしゃと撫でた。

    「送り火をしてる。お前もここにいろ」

     ぱちぱちと木が燃える音を聞いて、火のすぐ横にしゃがみ込んで、揺らめく炎をぼんやりと見つめた。

     男はいなくなった。
     何処かへ探しに行こうとは思えないのは、他でもない自分が、彼がもうこの世界のどこにもいないことを理解しているからだ。
     目を伏せれば、もう枯れたと思っていた涙が滲んできた。

     アイツの顔も声も、思い出すだけで胸が軋んで痛くて堪らない。

     けれど自由研究の内容を忘れていたように、彼のこともいつか、忘れてしまう日が来るのだろうか。こんな鮮烈な記憶も、時の流れの中で風化していくのだろうか。

     炎に燻されて、サンダルを履いた素足が熱い。線香を立てて先祖へと手を合わせる爺ちゃんの横で、夕焼けに染まった空に灰色の煙が昇っていくのをただ見ていた。この気持ちが、少しでも昇華されていくことを祈って。

    「……見ててくれよな」

     掠れた声を口の中で転がす。

     精一杯生きてみせる。お前が望んでくれたように。だから。

     全てが終わった後に、もしもまた出会うことが出来たなら。よく頑張ったと笑って、その大きな手で頭を撫でてほしい。



     ――その夏、俺の初恋は光の粒と炎に溶けて、静かに消えた。







    【終わりッ】
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