お題ガチャのやつ(了遊)※了遊(付き合ってない)
※ほのぼの
※いつもの本編後
※また出られてない
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了見は藤木遊作と共に見知らぬ部屋に閉じ込められていた。
どうしてこうなったのかの記憶はない。ハッと気がつくと見覚えのない無機質な部屋に二人でぼんやり立っていた。
訳も分からないが、状況もよくわからない。
いや、どういう趣旨の場所かだけは分かった。壁に下がった大きなプレートとそこに記されたこれまた大きな文字のプレートがこの部屋に来た時点で主張していた。
『相手をかっこいいと思わないと出られない部屋』
プレートの文字を改めて読み上げて、了見はため息をついた。遊作を振り返る。見知らぬ場所になんの脈絡もなく閉じ込められたとなると過去のトラウマが心配なところだが、幸い問題なさそうだ。
「……どこで誰が判定すると言うのだこれは」
「さあな。この状況自体が異常なんだ、考えたところで答えは出なさそうだが」
遊作は室内唯一の出入り口のドアの前に立った。レバーハンドルの持ち手を下げて引くが、ガチャリと硬い音を立てただけで開かない。
「やはりな」
不服そうに言って、遊作は了見に向き直った。
「おまえが俺をかっこいいと思わないと、ここから出られそうにない」
「相手の指定はない。お前が──」
「俺はいつも了見のことをかっこいいと思っている」
「……何?」
聞き間違いかと聞き返す。
遊作はつかつか歩いて了見の前に立った。比べれば了見のほうが高いとはいえ二人の身長はほぼ同じなので、前に立たれると自然と目線が合う。
大きな翡翠の目は真っ直ぐに、なんのてらいもなく了見を見つめる。訝りながらも見つめ返す。
「了見、おまえはかっこいい」
藤木遊作は真剣だった。
了見を真正面から映す目とその声音で分かった──が、分かったところでなんと返せばいいものか。先程までの、不可解な状況に対する思考は吹き飛んだ。というか思考自体が吹き飛んだ。
遊作は、了見が信じていないと見て取って付け加える。
「何ならおまえの姿を見る度かっこいいと思っている」
「……」
「俺はあまり人の容姿の良し悪しがピンとこないが、おまえはきれいだと感じる。そこへおまえの隙のなさというか、立ったり歩いたりの動作が加わると凛とした印象が入ってかっこいいと思うんだ。元々姿勢がきれいだからろうな」
「…………」
「声もかっこいいと思う。おまえによく似合っているし聞いていて気持ちのいい声なんだが、お前のその話し方が加わることで力強さというのか、芯の通ったような感じがしてかっこいいなと思う」
「………………」
「容姿だけじゃない、お前の物事に対する姿勢もかっこいいと思っている。お前が自身の使命とするところに対する姿勢や目的を果たすための行動力、どんなに困難と見えても必ず成し遂げようとする精神力、そういった強さがとても好きだ」
「……………………そうか」
ようやく思考が追いついてきたが、今は別な意味で言葉が浮かばない。
「藤木遊作、お前の言い分は理解した」
辛うじてそれだけ絞り出し、遊作のスピーチを止める。理解は出来ていないがこれ以上の褒め殺しを食らえば何かの箍が外れそうだった。
話を遮られて遊作は不服そうに眉を寄せたが、了見の顔をじっと見て少し戸惑う様子を見せた。
「……おまえ、照れてるのか?」
「そのようなことはない」
「なら話を続けても」
「それは不要だ」
「やはり照れているんじゃないか」
「違う」
「耳が少し赤い」
指摘されて了見は唸った。遊作は小さく笑ったが──ふと、真顔になる。
「しまった」
「なんだ?」
「その……今ので思い切り了見が可愛いと思ってしまった。ますます開かなくなってしまった。と、思う」
すまないと謝る遊作に了見は首を振った。
「案ずるな。お互い様だ」
「そうなのか……ん?」
うなずきかけて、遊作は眉を寄せた。
「どういうことだ? お互い様だと?」
口が滑った。これではお前を可愛く思っているといったも同然だ。
「どうもこうも──なんとかして互いの『かっこいいところ』を思い出さないと、我々はこのままということだ」
そんな言葉で取り繕って、了見は何か使えるものがないか改めて部屋の探索をしようと提案し、ひとまず話題をそらすことにした。