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    ここのか

    @d9_bond

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    ここのか

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    ここのかの了遊は『どちらかが相手の一部を食べないと(飲み下すこと)出られない部屋』に入ってしまいました。
    30分以内に実行してください。
    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/525269

    ※人を食べるとか物騒な話がちらっとでるので注意

    診断メーカーのやつ(了遊)※了遊(付き合ってない)
    ※いつもの本編後
    ※最初シリアスぶった空気だけど、話としてはいつもの緩いやつです

    ※出てくるウサギの話は原典ではなく日本版の話てことで

     
    ==========

     

     遊作は気が付くと見知らぬ部屋に閉じ込められていた。
     正方形に近い長方形の部屋で、短辺の壁の中央には鍵のかかったドアがあり、反対の壁には文字の書かれた大きな木製のボードが下げられている。

    『どちらかが相手の一部を食べないと出られない部屋』

     小さく付け加えられている『※飲み下すこと』という注釈がいやらしい。
     ボードを見て最初に遊作が思ったのは、Aiが最近遊んでいたTRPGとやらでこんな感じの話があったなということだった。もっとも遊作はAiが遊んでいるのを隣で眺めていただけで参加していないので詳細までは記憶にない。趣味の悪さから連想しただけのことだ。
     Ai曰く、その趣味の悪さこそに人間性がでて楽しい遊戯とのことだった。そしてゲーム内でAiは持ち前の悪知恵で他のプレイヤーやゲームマスターを言いくるめたり出し抜いたりとやりたい放題をやって言葉通り非常に楽しんでいた。実際放り込まれると楽しむどころではないのだが。
     現実逃避はさておき、このボードの内容もさることながら、示された相手というのも問題だった。
    (食べないと、と言われても)
     遊作はボードに向けていた目を隣に立つ『相手』──鴻上了見へ向けた。


     了見は見覚えのあるジャケット姿で、遊作と目が合うと何とも言えない顔をした。自分も同じような顔をしていただろう。遊作の最後の記憶は翌朝の準備を終えてベッドに入ったところまでで、どうしてこの状況に至ったのか、なぜ自分が制服姿なのかさっぱり分からない。了見も同様で、そもそもデンシティから相当距離にいたらしい。
    「これは夢か」
    「どうだろうな」
     同意するかと思ったのだが、了見は何やら考え込んでいた。確かに夢と断じるには空気感が妙にリアルかもしれない。
     次いで、前もこんな光景を見た事がある気がしたがうまく思い出せなかった。気のせいかもしれないが印象は忘れずにおこうと決めて、ひとまず了見に向き直る。
     人を食べる、など考えたことはない。大抵の人間はそうだろう。
    (そもそも食べられるものなのか)
     遊作は自分の手を見た。肉が薄くて食いではなさそうだ。
     食肉としては、肉食動物より草食動物の方がおいしいと聞いたことがある。となると雑食である人間はそんなにおいしくもないのでは、と想像する。ザクロの味が似ているなんて話も聞いたことがあるが、普通に果物として販売されていることを考えるとあれはただの言い伝えか思い込みだろう。
     なんにしろ遊作にとって了見は大切な存在だ。一部だろうが彼を損ねるようなことはしたくはない。
     さりとて状況は差し迫ってはいないがそれなりに深刻ではあった。簡単に調べただけだが出入口はひとつだけ、外部との連絡手段も見当たらない。室内にはいろいろなものが揃っていたが欲しいものは何もない。
     部屋の一角にキッチンが設えてある(これが最も趣味の悪いところだ)。テーブルとイスもあったし、それとは別に作業台としか言いようがない無骨で頑丈そうな台も工具もあった。やたら刃の長い包丁やハンマー、マスターキーと呼べそうな重たげな斧も用意されている。物は試しと遊作は一番端にあった斧を手に取った。見た目通り重量があるので、心得がない人間でも適当に振り回しただけでそれなりに威力はありそうだ。
     ということで斧を手にした遊作は、部屋の主の意図はともかく扉を壊せるか試そうと振り上げた。
    「まて、遊作──!」
     了見が慌てて声をあげたときには思い切り振り下ろしていたし、結果として無駄だった。
     斧は与えた衝撃をきれいに跳ね返し、遊作の手をすっぽ抜けて大きな音を立てて部屋の床に転がった。ドアにも床にも傷一つついていない。代わりに持ち方が悪かったのか遊作の手のひらに擦り傷ができた。
     衝撃にしびれた手をひらひら振る遊作に、了見がただでさえ低めの声を更に低くして言った。
    「無茶はするな。……それと、行動に出るつもりなら先に言え」
    「すまない」
     確かに、手からすっぽ抜けた斧が了見に当たりでもしたら擦り傷どころじゃなかった。そう思って反省を述べると了見は不愉快そうに眉間にしわを寄せた。なにか間違っていたらしい。
     不愉快そうではあったものの、了見は部屋のどこからか救急箱を見つけて手当てしてくれた。
     掌の擦り傷は案外大きく血は滲んでいたが、放っておいてもじきに止まるだろう程度の浅いものだ。だが了見は手当などいらないという遊作を無視してその手を取り、キッチンの水で傷口を流し消毒しガーゼを当てて包帯を巻いた。大げさだと感じたが口にすると更に機嫌を損ねそうな気がしたので途中からはされるがままでいた。こんな状況ではあるが正直、彼に丁寧に扱ってもらうのはとても心地よかったというのもある。
     その手際は見事なものだった。包帯は薄くぴったりと巻かれて軽く動かした感じでは少しも緩まなかった。遅れて、触れた指先の自分より少しひくい温度を思い出して少しだけ胸がざわめく。
    「ありがとう」
    「いや」
     救急箱を閉じて、了見は小さくため息をついた。


     そんなやりとりを間に挟みつつ二人で思いついた一通りの抵抗を試したが、ドアは全く開かず脱出方法も見えない。
     時間の経過を知らせるものが何もないのでどのくらいの時間がたったかは分からない。空調は見当たらないが室温は適温から変わらず、のどが渇いたり空腹を感じたりもなかったので大した時間ではなかったのかもしれない。
     ともかく、ふたりはどちらかともなくテーブルをはさんでイスに掛けた。互いに向き合うしかなくなったわけだ。


     了見は難しい顔で考え込んでいる。
     遊作はそんな了見を見て、包帯の巻かれた手を見た。
    (指示通りにすれば脱出できると仮定して。──条件がもう少し違えばな)
     手を握って、開く。動かすと少し引きつれるような痛みはあるが大したことはない。どうせ血だって止まっているに決まっている。そんな程度の傷を後生大事に手当てする人間が、こちらをどうこうしようなどと考えるのは難しいだろう。
     だが同時に、遊作に自身を傷つけさせるのも良しとはしまい──となるとどうするか。
     目を伏せて考え込んだままの了見を見るともなしに見る。端のはねた白銀の髪は案外やわらかそうにも思えた。触り心地が良さそうだ。
     そこでなぜか、小さな頃に聞いた話を思い出した。昔々、腹をすかせた旅人のために森の動物たちが集まって、食べ物を分け与えた助けたという話だ。その中で、何もあげられるものがなかったウサギは焚火に飛び込んで自らの肉を与えた。森の仲間はウサギをなぜとめなかったのだろう、と思ったことを覚えている。今なら話の趣旨がそうではないとは分かるが。
     彼はウサギではないしただの自己犠牲を良しとはしない。が──最善と判断すれば平然と自身を犠牲にしかねない。少なくともそういう事をしかねないと遊作は考えている。
    「──了見」
     呼べば、了見は物憂げに遊作を見た。
    「俺が、おまえを食べると言ったら許してくれるか?」
     薄氷色の瞳が瞬く。
    「それは」
    「どちらかがやらないとならないことだろう」
    「従ったところで、ドアが開くかは分からない」
    「できることは試すべきだ。夢ならそのうち覚めるが、おまえはそうは思っていないだろう?」
    「確証があるわけではない」
    「夢なら夢で、覚めたら終わる。どちらにしろ問題ない」
     遊作はイスから立った。了見も立とうとイスを引いて立ち上がりかけたが、そのままで、と制する。
    「ここは俺に任せてくれないか」
     そうして半端に右手を天板に載せたままの了見のそばに立った。普段は視線が近い位置にあるものだから、彼を見下ろすというのは新鮮だ。
    「何か考えでもあるのか」
    「そんなところだ」
     曖昧に言うと了見は眉を寄せた。
    「また先刻のような真似をする気ではないな?」
    「おまえにひどいことはしない」
     あれはドアを破ろうとしての狼藉だと言おうとしたのだが、その前に了見の手が遊作の包帯を巻いた手の手首を掴んだ。
    「藤木遊作──私は、『お前』の、話をしている」
     一言ずつ区切るように、静かに、低く言う。
     こちらを見上げる射貫くような眼差しに遊作は小さく息を詰めた。
    「……その心配もいらない」
     真っ直ぐ見返しながら言い切る。
     了見はなおも猜疑的な目を向けてきたが、遊作がじっと真っ直ぐ見返していると折れた。手を離す。
    「それで、私はどうしたらいい」
    「少し目を閉じてくれるか」
    「それから?」
    「それだけでいい」
    「……分かった」
     了見は構える様子もなく目を閉じた。もう少し何をするのかと問われるかと思っていたので予想外だ。
     本当に目をつぶっているか、ひらひらと了見の前で手を振ってみるが微動だにしない。遊作はそのままその手を伸ばして、了見の頭に触れた。
     指先を、手のひらを滑らせるようにしてそっと撫でる。
     思った通り触り心地が良い髪で、間近で見る珍しいしろがねの色も綺麗だった。癖のある髪先が手の平でやわらかくはねるのが気持ちよくて、何度か繰り返す。
    (ウサギというより長い毛の猫とか犬みたいだ)
     そんなことを考える。といっても遊作はそんな長毛種の犬猫を触る機会はなかったので想像だ。
    「何の真似だ……」
    「いいからもう少しじっとしてろ」
     了見はまたも眉を寄せていたが、今は不愉快というより不可解そうであった。子供のように頭を撫でられるなどと思っていなかっただろうから当然と言えば当然だ。
     とはいえ嫌がってはいないと判断して遊作は続行した。普通だったら絶対できない事をやっているという状況もさることながら、人を撫でる行為自体も思いのほか快い。今度は指先で髪を梳くようにしながら撫でてみる。
    「──ウサギの事を、考えていたんだが」
     と、口にしたのはただ撫でているだけだとすぐにやめさせられそうだったからだ。
    「ウサギ……?」
     訝しげに言いながら、了見が目を開く。
     その困惑の眼差しを見返しながら遊作はそっと頭を撫で続ける。
    「俺の中でウサギというと真っ先に浮かぶのは白いウサギだった。だが実際見たり触ったりしたウサギは茶色とかそういうのだった気がする」
    「そうか」
    「白のイメージはどこから来たんだろう」
    「知らないが……」
    「だろうな。俺も分からないんだ」
    「……」
     了見は目を閉じた。
     いくらかの間のあとで、口を開く。
    「……妥当なところならば、絵本か何かではないか? ウサギはキャラクターとして形が分かりやすく、白は目を引く」
    「絵本、か」
    「あとはそうだな、デュエルモンスターズのウサギは白系が多いかもしれない」
    「ああ……それの気がしてきた」
     納得がいった所で遊作はようやく満足して手を下ろした。了見は眉を寄せたままいくらか目を開ける。
    「──結局、これは何の話だ」
    「特に意味はない。雑談のつもりだった」
    「雑談?」
     下ろした手に一本、銀糸が絡みついてる。遊作はもう片方の手でつまんで取ると、そのままくるりと指先に巻き付けて口に入れた。
     僅かに目を見開く了見をよそに遊作は、いくらか顔をしかめながら口中の物を飲み込む。食べ物でないものを口にするのは嫌なものだが、物がものなので労せずして嚥下する。
     何か言おいうとして了見が口を開いたとき、カチリ、と小さな金属音がした。
    「……」
     了見は口を開けたまま音の──唯一の出入り口であるドアを見て、遊作を振り返った。
    「開いたようだな」
     笑ってみせるが、了見はまだどこか呆然としたような面持ちでいる。
    「一部……」
     呟く。
    「体の一部、だろ。生えているんだ」
    「……」
    「手足だろうが髪だろうが、食べるつもりなら体から離れるだろ。だから行けるだろうなと思った」
    「そういう理屈か」
     了見は、大きく、深く長い息を吐いた。
    「俺が耳でもかじると思ったか」
    「そういうわけではないが」
     首を振って、もう一度大きく嘆息してからやっと聞こえるくらいの声で呟く。そういうことをしなくてすんで良かった、と。
     遊作は小さく鼻を鳴らした。
    「おまえは色々と真面目に考えすぎなんだ、了見」
    「──お前は簡単に行動に出すぎる」
    「行動しないと事態が動かないこともあるんだ。今がそうだっただろう」
     言ってやると、了見はいくらか機嫌が悪くなったようだった。口の端が下がる。
    「お前と違って私は動く時と考えるべき時を弁えているだけだ」
    「俺だっていつもきちんと考えている。考えた上で行動が最善と判断しているんだ」
    「その割に、何度となく備えもなしに罠に飛び込んでは窮地に陥っていたのは誰だ?」
     過去の事とは言え痛いところをつかれた。ぐう、と遊作は呻いた。
    「あ、あれは……あの時はそうするしかなかったんだ」
    「どうだかな。それに今回も相談もせずに無茶をして怪我をして」
    「こんなものは怪我の内に入らない。大げさすぎる」
    「──少し説教が必要なようだな」
    「そういうところが……」
    「何か言ったか? いや、この際だからはっきり言ってもらうし言わせてもらおう。──そこに座れ、藤木遊作」
    「いいだろう。俺だっておまえには言いたいことが山ほどある」
     遊作は向かいに戻るとイスを引いてどかりと座った。
     ふたりはじっと睨みあう。
    「大体さっきの頭を撫でたのはなんだったんだ! 髪を寄こせと普通に言えばいいだろう!」
    「いや、あれは必要だった!」

     先の静かな空気はどこへやら、一度始まった言い合いは収まるところを知らず──ドアが開いたのだからいつでも出られるというのに、二人が部屋から出るのはまだまだ先になりそうだった。


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