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    maybe_MARRON

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    左馬一
    酔っ払いのしょうもない会話が好きなのでさらっと読んでもらえたらと思います

    年に一度の日ではありませんので カチャリとドアが開く音がして、家主が帰ってきたことに一郎は心底驚いた。
    「……おかえり?」
    「……ただいま?」
     左馬刻も左馬刻で、なんでいるんだと驚きを隠そうともしない。互いにぱちくちと瞬きを繰り返し、ひとまずソファへと腰を落ち着けた。
     MTCの三人で集まる時は、時と場合によるがわりとがっつり飲んでくることが多い。そうでなくとも、そもそも開始が遅いためか日付を跨ぐことがほとんどだ。理鶯のベースキャンプの場合は車で移動することもあり飲まずに帰ってくるのだが、しかし今日は銃兎の家で飲んでくると言っていた。どうせ遅くなるだろうと思っていたのだが、どうやら予想は外れたらしい。まだ二十二時。顔を見る限りだいぶ飲んできたようだが、それでも無理やり帰ってきたような、そんな印象だった。
     対する一郎も一郎で、今日左馬刻の家に上がり込む予定はなかった。合鍵を貰っているため自由に出入りを許可されてはいるものの、家主がいない時に来ることはほとんどない。左馬刻に呼ばれてだとか、翌日が休みだとか、たいていは夜を共に過ごすという理由があって訪れている。
     一郎は左馬刻が飲みに出ていることを知っていたし、左馬刻は一郎が明日も仕事だということを知っていた。だから互いに「なんで?」となったのだ。
    「明日の仕事、こっちから行った方が近くてさ。次の日は仕事ねぇし、そのまま左馬刻ンち泊まらせてもらおうかなーと思って荷物持ってきた」
     ついでに、とまだシュリンク包装されているブルーレイを見せれば、説明するまでもなく左馬刻は察してくれたようだった。この家のでかいテレビにはもう何度かお世話になっている。
    「左馬刻は?」
    「…………」
     それまで視線を合わせていたはずの左馬刻は、尋ねられるとふいと視線を逸らした。意外な反応に一郎は僅かに眉根を寄せる。
    「………………理鶯が」
     だが視線を逸らしただけで黙り込むつもりはなかったらしく、ぽつりと零された声に一郎は安堵しながら「うん」と小さく頷いた。
    「土用の丑の日だからっつって土産持ってきて」
    「ああ」
    「まあ、うなぎじゃなかったんだわ」
    「だと思った」
     苦笑いを浮かべる一郎に、左馬刻も頭を掻く。
    「そん時もうだいぶ飲んでてよォ、理鶯が『うさぎもウがつくな』つって」
    「うん?」
    「銃兎が『うさぎは食べないでくださいよ』ってキレて」
    「はあ……」
    「理鶯が兎肉の味だの栄養だの話してんのを聞いてる時によ、そういや『いちろう』にもウが入ってるなって気づいたんだよ」
    「…………? ん? え? ……で?」
     やまだいちろう。確かにウがついている。だがそれがなんだというのだろうか。
     心底意味がわからないと怪訝な表情を浮かべる一郎に、左馬刻は再び酔っていたのだという言い訳を繰り返してからため息を吐いた。ゆるりと伸ばされた右手は一郎の後頭部を捕らえ、そのまま流れるような仕草で唇を重ねる。啄むように何度か食み、首筋に舌を這わせ、皮膚の柔らかな部分にぱくりと噛み付く。何度か位置を変えカプカプと噛まれるうちに、一郎もなんとなく左馬刻が言いたかったことを察した。少し強めに肩を押して引き剥がせば、左馬刻は満足していたのか大人しく顔を上げる。
    「……迎え呼んだはいいけどよぉ、お前仕事だっつってたしそもそもお前ンちじゃできねぇしと思ってまっすぐウチ帰ったら」
    「まさかの俺がいたってことか」
     その時の左馬刻の心境を想像し、一郎はケラケラと笑う。
    「俺、今日夕飯うなぎ食ったぜ」
    「そーかよ」
    「だからさ、俺のこと食ったら『いちろう』と『うなぎ』の両方食ったことになるんじゃねぇかな? 味見くらいする?」
    「…………テメェも酔ってんのか?」
     投げかけられた冷めた一言に、もう左馬刻の酔いが醒めていることを知る。つまんねーの、と思いながらも一郎の言葉も半分は冗談だったため、特にそれ以上誘うつもりはなかった。別に今日じゃなくたっていい。なんなら明日の方がゆっくり時間がとれるということには、きっと左馬刻も気づいているのだろう。
     煙草とアルコールの匂いを纏った家主にはさっさとシャワー浴びてこいよとだけ告げて、一郎はそそくさとリモコンを操作しブルーレイを取り出した。
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