「今日は、ルチルたちと飲み会なんだ!」
「へぇ、アルコール解禁祝い的な?」
「そうなんだ!ようやく皆とお酒が飲めるの嬉しくってさ!」
「そっか、楽しんできて」
「ネロはまだ飲めないから…来年な?」
「はは、楽しみにしとくわ。じゃ、いってらっしゃい。あんまハメ外すなよ?」
「わかってるさ!」
■■■
『すいませんネロさん!迎えに来てもらえませんか?』
まさかカインじゃなくてルチルから連絡が来るとは思ってなくて、何かあったのかと慌てて家を飛び出した。指定された場所へと向かえば、ルチルの肩にもたれかかったカインの姿が見えた。
「あっ、ネロさんこっちです!」
俺を見つけたルチルが、大きく手を振った。下を向いていたカインが、パッと顔を上げる。
「ネロ?あ、ほんとだ、ネロだ~!」
「あっ、カインさん危ないですって!」
へにゃ、という擬音がつきそうなへらへらとした顔で、カインが俺の方へと覚束無い足取りで近づいてくる。くらりと倒れそうになったのを抱きとめると、鼻をつくアルコールの匂い。
「うわ、きっつ…え、なに、酔ってんの?」
「よってないぞ」
そう言って、またへにゃっと笑った。酔ってるわ、完全に酔ってる。洋服にひっかけたんじゃないだろうか、というくらいカインの全身からアルコールの匂いがする。なんかずっと揺れてるし、呂律も回ってない。何がそんなに楽しいのか、俺の顔を見てはへらへらと笑い、意味も無くべちべちと背中を叩いてくる。加減されてないのでめちゃくちゃ痛い。
「すみません、まさかこんな風になっちゃうとは思ってなくて…」
「いや、連絡ありがと…楽しくて浮かれちゃった感じ?」
「そうみたいです…会うのも久しぶりだったし、私も楽しくなっちゃってつい…」
「だから酔ってないってばぁ!」
酔っ払いが大声で叫ぶが、そんなの無視だ。ルチルが申し訳なさそうに頭を下げるのを、やめてくれと制した。自分の限界値管理が出来なかったカインの問題なわけだし。
「むしろここまでの酔っ払い相手にしてくれてありがとな。ルチルは…大丈夫そうだな」
「はい!私結構強いんで!大丈夫ですよ!」
ふふん、と胸を張ってドヤ顔をされた。確かに少し頬に赤みがあるくらいで、喋り方は普段通りで動きもしっかりしてる。カインとは大違いだ。
「なんだ、ふたりとも、私を無視してぇ」
「暴れんなって。大人しくし、て………ん?」
「あ」
むすっと頬をふくらませたカインが、俺の腕にべっとりと絡みつく。密着する身体の感触に、違和感。
なんか……すごく、その………柔らかい………?
「その、えっと…これ…!」
ルチルが肩にかけていた、カインの鞄を俺へと差し出す。反射でとりあえず受け取る。ルチルがカインが抱きついてない反対側の耳元へと回り、こっそりと耳打ちする。
「ブラジャーは、鞄の中に入ってます…っ」
ブラジャー。
むぎゅっと腕に押し付けられる胸元へと、チラリと視線を動かす。あまりにも生々しい柔らかな感触は"付けてない"からだ。理解はできた。が、意味は分からなかった。なんで?
「は…?」
「あの、カインさん…飲むと、脱いじゃうタイプみたいで…」
待ってくれ。出かける前のカインとの会話を思い出す。確か高校時代のクラス会みたいな感じで、仲の良かった男女数人で集まるって。男性も居たのに、脱いだ?
「あっ、大丈夫ですよ!見られてはないと思います!なんとかトイレに押し込んだので!」
「またふたりだけで話してる!」
ぶーぶーと文句を言われて、またぐいぐいと胸を押し付けられる。潤んだ目元、火照った身体に乱れた着衣。こんな姿で、もしかしたら今と同じ様なことを、どっかの誰かに?カイン自身の行動についての自覚の無さに、だんだん怒りが湧いてきた。
ルチルに再度感謝の言葉をかけて、カインへと向き直る。
「ネロ?帰らないのか?」
「その前に寄りたいところがあるんだよね、付き合ってくれない?」
「うん、いいぞ」
へらっと笑うカインの肩を抱いて、細い路地へと脚を進めた。