「鳥…?」
魔法舎の中にまで迷い込んだ鳥が、くるりと俺の周りを飛行する。微かな魔力に引かれて手を伸ばすと、触れた瞬間に光が溢れ出す。
「わ!?」
次の瞬間、鳥は手紙に。そんな話を最近聞いたばかりだ。確か、オーエンに宛てたもののはずだが。
『紅血色と蜂蜜色の瞳の魔法使いへ』
「蜂蜜色?」
手紙に書かれた宛名を読み上げ、首を傾げた。オーエン宛の手紙には、『紅血色の瞳』としか書かれていなかったはずだ。わざわざ追加された『蜂蜜色』という文字に違和感を覚える。
「まさか、俺宛なのか?うわ!?」
手紙を眺めていると、今度はその手紙から大量のお菓子が飛び出す。チョコレート、クッキー、キャンディ。とびきり甘そうな匂いに包まれる。どれもこれもオーエンが好きそうなものばかりだ。
「この前お土産にもらったものに似てるけど…」
みんなで食べたお菓子にそっくりではある。確認する為にカラフルなお菓子達を眺めて、宝石の様に美しい真っ赤なチョコレートをひとつ手に取る。
「僕のだよ」
「うわ!?」
目の前に突然オーエンが現れる。さっきまで居なかったはずなのに。俺が手に取ったチョコレートを、ひょいとオーエンが奪って口の中へと放りこんだ。
「人の物なのに、勝手に奪って食べるんだ。騎士様って野蛮なんだね」
「違う、俺宛に届いたんだ」
「そんなわけないだろ」
「『紅血色と蜂蜜色の瞳の魔法使いへ』って」
俺の言葉を聞いて、オーエンの顔が歪んだ。小さく舌打ちが聞こえた。苛立っているようだが、そんなにお菓子が食べたかったのだろうか。
「その宛名だったら、僕にだって当てはまるだろ」
「……確かに。悪かったよ、勝手に食べようとして」
「もう二度と僕のものに手を出したりしないでよね」
そう言うと、オーエンは周りに散らばったお菓子をひとつ残らず回収していく。あっという間の出来事に驚いていると、オーエンはまた姿を消した。
「……ひとつくらい、食べたかったけどなぁ」
⬛︎⬛︎⬛︎
「なんのつもり」
「私のこと、殺しに来てくれたの!?」
「そんなわけないだろ」
期待で煌めく瞳が、一瞬で曇って涙が浮かぶ。
「あんなもの、赤ちゃんの騎士様が食べたら死んじゃうに決まってるだろ」
「オーエンの『お気に入り』は、赤ちゃんなのに騎士なの?」
「は?」
『お気に入り』だって?いつ誰がそんな事を言った。
ふふ、とノエルが得意げに笑う。
「やっぱり!蜂蜜色の瞳をとっても大事にしてるもの。だから、そんな大事なものに手を出されたら、怒って私の事…っん!」
お喋りな口を塞ぐ。瞬間、きらりと瞳が煌めく。手をかけてくれと首が晒される。
本当に、鬱陶しい。
すぐに手を離した。
「っぷは!何で!どうして!このままにしといたら、私が騎士様を殺しちゃうかもしれないのに~!」
「あいつを殺すのは僕だよ。お前なんかが手を出すな」
五月蝿い西の魔女が何か喋り出す前に、魔法で口を封じた。