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    naibro594

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    naibro594

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    🌹と🔧工房パラレルのダンムル。
    ぶっ倒れ🌇を物理で冷やす話。ようやくちゃんと⏰🌇している……
    ※モブ工房員さんがいる(🪲隊隊長)

    #🔧軸
    #ダンムル

    嗚呼、愛しき工房の日々3(上)いつ頃からか特に覚えていなかったが、気づけば数時間の残業で済む日がぽつぽつとできていた。外勤の呼び出しがめっきり減ったためか、それ以外の日も大抵日付が変わる頃には帰宅の目処がたつ。
    様々な理由があるのだろうけれども、その全てに別段関心がなかった。仕事を任されればこなす、任されなければタイムカードを押し帰宅する。それが自分の仕事で、疑問を抱いたこともない。
    良ければソファで、悪ければ玄関で。倒れこむように眠り、明け方に目が覚める。フローリングの痕がついた頬をさすり、こわばった体をほぐしながらシャワーを浴びて着替え、そしてまた出勤する。
    カレンダーを見れば、その日は以前から夜間の外勤応援が予定されている日だった。
    厄介な案件で技量のある人手が要る、という話だっただろうか。
    期日の迫った書類を定刻よりやや余裕をもって終え、これならば直帰も可能だろうかと武器を片手に事務所を後にした。
    地面に蓄積された熱が大気へと抜け幾分か過ごしやすくなった夜の裏路地。
    音や散る火花で位置を探り、逃げた敵を追う。
    立て篭もった扉を夜明けと共に振った長鎚でぶち抜いて、かたのつく頃にはすっかり日が高くなっていた。
    汗とオイル、そして熱せられ悪くなった血の臭いが咽せかえるように周囲を満たす。
    ごつりと爪先に当たったものに目を落とせば陽炎の中に揺らめく死体。こんなに暑いのだ。今晩掃除屋によって『処理』のなされるまで、これらは確実に腐敗するだろうなとぼんやり思考を巡らせていた。
    砂利を踏む音に振り向けば、加わったところの隊長がいつの間にやら立っている。
    「おいムルソー、悪いが報告入れてくれ」
    わかりました、と。
    乾ききった唇で確かに形作ったはずの言葉が、空気を通じて再び私の耳に届くことはなかった。
    貼りついた喉に上手く空気が通らない。
    ディスプレイに表示された『管理人』の文字が歪む。全身がこわばり引き攣る手から滑り落ちた端末が随分とゆっくり角から落ちて跳ね返るのを、私は地べたで頬を焼きながら何故か真横で見ているだけだった。
    鳴り響く太陽のシンバルが随分とやかましい、と他人事のように思う。その音と端末に反射した光がぼんやりした視界にちらつくほかは、もう何一つ、感じることができなかった。

    3(上)
    <うーん……>
    その場にいたフィクサーたちに二、三頼み事をしたダンテが家にかけ戻ったのが数分前。
    すぐに溜め始めた水はまだ浴槽の四割もなく、手を入れてもただただぬるい。
    どうしたものかと考えているところに急ブレーキをかけた黄色いロケットが一つ。
    「管理人殿〜! 頼まれた制服の予備と飲み物をお届けに参った! 置くのはこちらの脱衣所で良いだろうか?」
    <ありがとう、ドンキホーテ! そこでいいよ。それで申し訳ないんだけど、君の足の速さを見込んでもう一往復お使いを頼んでもいいかな>
    「何なりと申しつけてくだされ! ムルソーくんの一大事である今、管理人殿のお力になれることのなんと嬉しいことか。このドンキホーテ、必ずや貴殿に失望はさせませぬぞ!」
    蒸し暑い風に輝く汗を滴らせながらも明るい姿にほんの少し勇気づけられる。
    開け放した扉からばたばたと走り去る足音が遠ざかるや否や、もう下に着いたらしいその主が再度大きく管理人を呼んだ。

    「旦那、連れてきたぞ。どこだったかわからなくなったあたりでドンキホーテが降ってきたんだ、ちょうどよかったよ」
    <ムルソー!>
    案内役らしいグレゴールの後ろで動揺している大柄なフィクサーの肩に担がれたムルソーはぐったりと体を伸ばしていた。
    軽く頬に触れ呼んでも反応する気配もない。
    <まずいな……失神してる。このままお風呂の中に座らせてくれる? 水張っておいたから>
    ざぷ、と放りこまれたムルソーの頭を苦労して引っぱりだしているダンテの姿を、風呂場の入り口から右腕のチェーンソーを隠し眺めているグレゴールが不思議そうに首を傾げた。
    「水? 冷やしていいのか? 俺も最初は暑さにやられたのかと思ったんだが、こいつ汗一つかいてないよ。むしろ」
    <触ったら少しひんやりしてる?>
    「そうだ。すごいな旦那、よく──」
    <尚更まずい>
    もう発汗できるだけの水分がないのか、体温調整機能が失われているのか。或いはその両方か。
    ごめんね。心の中で小さく謝って、ダンテは浴槽で洗った親指をムルソーの口へと差し入れる。軽い鳥肌すらたっている肌と対照的に、やはりそこは酷く熱かった。
    「管理人殿ー! 氷を持って参りましたぞ!」
    汗だくの黄色い稲妻が人の詰まった空間に驚きの声をあげた。
    別段小さな部屋ではないが、バスルームと脱衣所に男4人は密度が高い。
    項垂れた隊長の後ろで飛び跳ねていたドンキホーテから投げ渡された氷を受け取り、ムルソーの入ったバスタブへと入れていく。
    入れ替え続けてもぬるい水はほんの少し冷たさを取り戻し、また彼の体から熱を取り除いていく。
    <皆ありがとう。あとは……とりあえずは私に任せて。何にせよ、冷やしてあげてからじゃないとどうにもできないから。それより仕事が滞る方がまずいかも>
    振り向いて、彼が起きたあとに仕事の山をみたら休んでくれないでしょ、と付け加えれば、笑顔が二つに泣き笑いが一つ。
    「承知した! 会長殿にもそのように報告しておきまする!」
    「ああ、何かあったらすぐ呼べよ? 次の仕事に出ててもすぐ片付けて手伝いに来てやるからな。ま、お礼はお前さんからもらうけど……」
    そう冗談めかしてグレゴールがムルソーの眉間をつつく。じゃあなと手を振った彼は座りこんだままだった隊長の背を叩き、ドンキホーテが手を引いて賑やかに連れかえっていった。あまり接点はないものの、ダンテはグレゴールの話から彼の隊の隊長が不器用だが良い人物だと知っていた。当面ムルソーが出られない分外勤作業も厳しくなるが、恐らく人一倍頑張ってくれるに違いない。
    こうなってしまったのも自分の管理が未熟だったからなのに、とダンテは無意識にムルソーの上着を握りしめる。滴った水は周囲のものよりも彼の体温でぬくまっていて、そのままでいいとは言ったものの水で傷んでしまう胸と腰のベルトもあわせて先に外してやるべきだったかもしれなかった。もたもたと手際悪く脱がせてバスルームの隅に放り投げたのち、視線を戻しその体にはっと息をのむ。
    黒いインナーの貼りついた胸筋の間にくっきりと開いた隙間。割れて締まっているものの、彼自身のがっしりとした骨格に比べれば明らかに薄く肉づきの悪い腹。
    <…………>
    こんなに痩せていたなんて。
    彼を家に帰らせただけで、管理できているつもりでいた。
    退勤さえさせられたなら自分で何か食べているだろうと。
    思えば昼休みすら彼は食事を捨て、全て仮眠にあてていた。
    きっと帰りついた先で倒れるように眠り、そしてまた、朝を迎えていただけ。
    それ程までに彼は疲弊しきっていたのだ。
    『今の環境』をどうにかしても、悪化しないだけで、良くはならないくらいに。
    ぎゅ、と抱きしめた腕の中の男は、相変わらずダンテを見ない。

    ワックスで固められた髪の崩れた小さな毛束から雫が滴り落ちる。
    頭上から雨のように水を降らせ、ダンテは自身もずぶ濡れになりながら浴槽の中をかき混ぜていた。
    「う……」
    <ムルソー?>
    呻き声に目をやれば、ほんのわずかに緑色が覗いている。虚なそれは動くことなく、意識もはっきりとはしていないように見えた。
    危険な状態であることに変わりはない。それでも気絶したままよりはほんの少し安心して、ダンテは声をかけながら彼の介抱を進めていく。
    <ムルソー、お水飲めるかい。少し入れるよ>
    「…………」
    <うん、飲めないね>
    口元に近づけたペットボトルから少し流しこんだものの、飲み下せずに口の端から溢れてしまう。弱々しく眉間に皺が寄り、支えるために触れている顎下の筋肉が微かに動くのを感じるあたり、『飲みたいが飲めない』のだろう。ダンテは痩せこけた頬に軽く数度触れ、自身の存在を伝えながらもゆっくりと言葉を続けた。
    <飲ませようか。息は止められる? 十数秒でいいんだけど>
    微かに頭が上下する。
    <じゃあ、やってみるね>
    側から見ればまるで冗談のような絵面で、経口補水液をぐいとあおった。
    口元にかざした濡れた手は呼気を感じない。片方の手で鼻を塞ぎ、もう片方で顎を持ちあげ傾ける。
    これは介抱で、他に手立てがなくって。多分嫌だと思うけど、許してほしい。そう心の中で謝って目を瞑る。
    腕の中で拒絶するでもなく、ただされるがままの男の薄い唇にダンテは自分のものを重ねあわせた。
    深部体温が未だ高い状態であることを示す熱い口の中へと、塩気の強く半端に甘い、端的に言えばおいしくないそれを注ぎこんでいく。
    最後に短かな息を強く吹きこめば、空気圧に押された水が押し入りごくりと彼の喉がなった。手のひらの下で感じた動きに小さく安堵の息をつけば、ぼんやりとした視線が投げかけられていることに気がついた。
    <え、っと。…………もっと、飲む?>
    もう一度、彼は微かに頷いた。
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