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    naibro594

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    naibro594

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    🌹と🔧工房パラレルのダンムル(⏰🌇)。
    いつの間にかの習慣と口実の応酬。

    🌇が作ってあげたのはモヒート(もどき)
    無自覚ながら意味するところは。

    #ダンムル
    #🔧軸

    嗚呼、愛しき工房の日々5書類の束から何枚かめくり、他の筆跡で書かれたものが出てくれば目を通す。
    不足への加筆、押し忘れの判を押し、誤りの訂正。
    自分のいない間苦労しながら必要最低限だけ精一杯どうにかしたであろう書類群。位置や順番すら適切ではないそれらを馴染んだ形にもどすのにムルソーはかなりの時間を要していた。
    復帰してからもう一月あまりが経つが、ようやくそこまで緊急性のない当時の書類にまで到達したところだった。
    あちらこちらに貼られた薄赤の付箋に指を滑らせる。
    『ここわからなかった! ゴメン!』
    担当したのは誰、記入や期日はいつ。そんなメモの合間に紛れている、彼からのメッセージ。
    無意識に笑みを浮かべ、一段落ついたところでムルソーは気だるげに席を立つ。
    あの一件以降、共に昼食をとるようになっていた。日頃作業に没頭し時間を忘れていても引き戻してくれる彼が、どうしてか今日はとうに時間を過ぎているにも関わらず一向に現れる気配がない。
    <では製作部門に確認ののち──>
    席に近づけば彼の声。発言の内容はわからないが、電話越しに相手が何かを喚いている。
    どうやらクレーム対応らしかった。
    サポートセンターの担当がいないところを見るに、彼が代わりに電話をとったのだろう。
    言葉を幾度も遮るように捲したてられ、ダンテは困り果てたように指で軽く手元の分厚い冊子を叩き被りをふる。
    横に立っていたムルソーの存在に気がつくと、片手で無言のままぺこりと詫び、また『クレーム対応汎用マニュアル』をめくり始めた。
    机の上に転がっていたペンとメモを拝借し、冊子の開かれたページの上へと乗せたそれにムルソーはさらさらとペンをはしらせる。
    『シリアルナンバーを聞いてください』
    <恐れ入りますがそちらの製品のシリアルを……>
    ダンテの復唱した番号にムルソーの眉が微かに寄った。よく似たシリーズこそあるが。それは、確実に。
    『うちの製品ではありません』
    その後もメモは行を重ね、ダンテはそれに従った。
    自らの勘違いにより生じた相手の気まずさをうまく使い、自然な誘導で電話を終えたダンテがぱっと嬉しそうに振り返る。
    <ありがとうムルソー、助かったよ!>
    「いえ。時々あることですから」
    ムルソーの書いた文字が瞬く間に彩られ、ダンテの字で脚注が書き足されていく。
    今度は工房サポートチームの業務マニュアル作成にも着手するつもりのようだった。
    <お礼したいな。お昼これからになっちゃうから、君のお昼寝時間が減るお詫びも兼ねて……今日の晩ご飯、なんでも好きなものを作ってあげるっていうのはどう?>
    夕食まで世話になっていくことに罪悪感があると気がつき、利用しやすいようわざと借りを作る形で提案してくれている。ムルソーもまた、ダンテの気遣い自体は理解していた。
    「いつも昼食を予め購入して用意してくださること自体、あなたの厚意であって業務ではない。お詫びいただく必要などありません」
    ただ、とムルソーは言葉を続ける。せっかくもらった口実を無下にするつもりはない。
    「夕食はそのようにしてくださると嬉しいです。突然なので返答は定時までおまちいただきたいですが」
    <うん。じゃあ、帰りは一緒に買い物に寄ろうね>
    「はい」
    <じゃあ私はご飯買ってくるから休んでいて。手は握れないけれど、全く寝ないよりはいいはずだ>
    指示をしてからぱたぱたと走り去っていくダンテを見送り、ムルソーは彼の置きはなしたメモ帳へと目を落とす。
    ダンテのノートには彼との取り決めが綺麗な箇条書きで書き連ねられており、それらの一つ一つを読むたびムルソーへ提案されたときの彼の言葉を思い起こさせていった。

    ひとつめ。エナジードリンクはできるだけ飲まないでほしいんだけど、そうだなぁ。飲んでも、一日一本まで。それも、カフェオレを先に飲んで、足りなかったら。
    ふたつめ。お昼はちゃんと食べること。君さえ良ければ食べたいものを教えてくれれば、私が買ってきておくよ。そうだな、それで、ういた時間は……。
    みっつめ。仮眠室でお昼寝すること。少しでも良い環境で脳を休めることができれば午後の作業効率も上がるし、カフェインも少なくて済むかもしれない。
    よっつめ。夜遅くなっちゃったり、何を食べるか考えるのもしんどいくらい疲れた日はうちに来て? おいしいって言ってくれたから、また作って待ってるよ。ここは工房から近いから、そのまま泊まっていったっていい。

    倒れてから、眩暈が良くなり起きあがれるようになるまでの数日間。
    食事も睡眠も散々世話をやかれながら、あのベッドで随分と話をした。
    取り決めから、なぜ右腕に時計をしているかようなくだらないことまで、そうする時間は十分にあったからだった。
    復帰してからも聞き取りと試行錯誤は続き、最もよく眠れた時のことを聞かれ正直にダンテに手を握られていたあの日だと答えた結果、今では工房の仮眠室でも共に一つのベッドで休むに至っている。彼は片手で仕事をしていることもあれば眠っていることもあるようだったが、すぐに意識が落ちるためあまり深く確認できているわけでもなかった。
    未だ距離感を掴みきれない関係だがムルソーにとって不快ではなく、その形が何であるか明らかにする必要もなければ、そうすることへの興味もなかった。ただ居心地の良すぎる故に幾ばくかの遠慮を生じさせている。
    ただ。どうしてか同じものを冊子の上に置かれたメモからも感じる。どことなくむず痒い心地のするままメモをそのままにしてページを閉じ、ムルソーはオフィスを後にした。

    わずかな残業で切りあげ向かったスーパーは、ちょうど売り切りが始まる時間帯らしく賑わっている。
    リクエストした料理に使う食材のいくつかを持って姿を探せば、少し離れた酒のコーナーでオレンジの炎が揺れている。
    <うーん……高いなぁ……>
    やはり金銭的な負担は発生している。コンマ数秒で結論に至り、ムルソーはひょいと黒手袋から缶を取り上げた。
    「支払いますので好きなものをどうぞ。日頃の手間賃にもなりませんが」
    <えっ?>
    「……価格を気にしているように見えたので」
    いつも夕食を世話になっているというのに、ダンテはあまり対価を受け取りたがらない。
    どうしてもと言ってようやく一人分の材料費だけは受け取ってくれるようになったものの、それだけで足りているわけがなかった。
    今回は詫びの形をとってはいるものの、実際にはそうする必要のないものだ。ダンテが理由を与えるのならばムルソーにも同じようにしない道理はなかった。料理の回答を引き伸ばして買い物に同行したのも隙を見て極力自分が支払うよう持っていくためだ。
    <ああ! ……えっとね、このお酒気になる味なんだけど…『度数が高い』なあ、と思って…>
    「…………度数が」
    予想外の言葉にムルソーは目を丸くする。
    <もったいないし、飲みきれなかったらどうしようかと……>
    缶を見ればライムとミントからなるそれのアルコールは5%。ムルソーはともかく、これまで幾度か飲んでいる姿からして、確かにダンテには高い度数だった。
    「…………サイダーを購入しカクテルにしては? よければ作りますが」
    <えっ、できるの!?>
    「出来る」
    昔読んだ本のページを頭の中でめくる。この味の酒であれば、甘く割って似たようなものにできるレシピがあるはずだ。
    <じゃあ君のも買って、夜一緒に飲もうか。また泊まっていってもらえばいいし>
    「……わかりました」
    彼の用意してくれた口実の範囲を超えているとはいえ、提示された誘惑は抗い難いものだった。嬉しい、と鈍く思うのも、きっとそれが利点のあることだからなのだろう。
    ダンテの家は工房から近く、彼と共に眠れば効率的に心身を休められるのは確実だったから。

    本当に?

    心の奥底に一瞬だけ現れた疑問を理屈で塗りつぶし、ムルソーは軽く頭を振って、冷えたサイダーへと手を伸ばした。
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