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    naibro594

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    naibro594

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    🌹と🔧工房パラレルのダンムル(⏰🌇)
    6の後の幕間。短めの話3つ。
    表向きと、積み重ねられた事実と、無意識の心。

    #ダンムル
    #🔧軸

    嗚呼、愛しき工房の日々(幕間1)そろそろ外勤に出ていたグレゴールが戻る頃あいだ。
    雲の隙間からさす陽の暖かさはまだ夏の残り香をまとっている。外階段の踊り場に向かえば、既にコーヒー片手に一服している気怠げな姿。先客はちょうど、並行して探していた人物だった。
    <ああユーリ、イシュメールが呼んでいたよ>
    「そうでした! ありがとうございます、ダンテさん。グレゴールさんもまた」
    「おー」
    制服を着た少女が赤い髪を揺らしながらぱたぱたと走り去っていくのを見送り、グレゴールはゆっくりと煙を燻らせる。
    彼女もロージャが連れてきた人材の一人だ。ロージャはもちろん、グレゴールも妹のように可愛がっている。
    <あっしまった、ユーリにも食べてもらえばよかったなあ>
    余ったコーヒーを隣の柵に置き、小脇に抱えた菓子の袋を軽快な音で開けて、タバコの煙が来ない方へともたれかかった。
    「うまそうなもん持ってんなあ?」
    <うん、ムルソーに食べさせるやつの味見。手伝ってくれるでしょ>
    薄黄色の丸い焼き菓子をひとつ手袋の外された指がつまみ、黒い文字盤の中に運んでいく。
    <うん、おいしいや。いいね>
    二つめを渡そうとしたところで、はたとダンテの指が止まった。
    認識阻害とわかってはいても無機物を貫通するような様には未だ慣れない。そんなことを考えていたグレゴールは、はっとしたように血のこびりついたチェーンソーの右手とタバコを挟んだ左手を交互に見やり肩をすくめる。
    「悪い、旦那。コレ吸い終わってからでいいか?」
    <あはは、ゴメン。………………ん?>
    背中に感じる密度の高い重み。行き先を失って彷徨った焼き菓子は指ごとくいと引かれ、柔らかいものに触れる。
    「………………きな粉、ですね、良いと思います」
    <ムルソー!?>
    いつの間に立っていたのか、つまみ食いの主はダンテがこの菓子を最も食べさせたかった相手で、もごもごと口を動かしていた。
    <えっ、と……。気にならないならいいんだけど、その、指……素手だよ?>
    「もう何度もあなたの手で作られた食事をいただいています。特に問題はないかと」
    もう一つ、と恐る恐る差し出されたクッキーにも顔を寄せ、彼は何の躊躇いもなく受け入れる。
    「それに、『恋人』なのでしょう?」
    <!>
    与えれば与えるだけ自ら口にしてくれるムルソーのこれまでにない姿はどうしようもなくダンテの心を跳ねさせた。
    「旦那、俺の分も残しといてくれよ。タバコがもったいないだけで……そんなに見せつけられてんだ、俺もすっかりクッキーの口になっちまってるんだから」
    <う、うん。わかった……>
    返事ももう上の空だ。次から次へと与え続けるダンテと食べ続けるムルソーを眺め、煙を深く吐き出してグレゴールは小さく笑った。
    「これで付きあってるフリ、ねえ?」

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

    朝を告げるアラームと同時に隣のムルソーがむくりと身を起こす。
    いつも時間の少し前には目を覚ましているらしい彼の声に寝ぼけた返事を返し、ゆっくりと体を伸ばした。
    「うう、ん。……あいたたた……」
    狭いベッドでみちみちになって眠っているからか、肩も腰も強張っている。まったく随分と大きな抱き枕だ。
    当の抱き枕といえば珍しくベッドに腰掛けたまま、じっとこちらを見つめていた。
    時間いっぱい眠れていないあたり、狭苦しい睡眠環境は彼にとってもよくないのだろう。買ってまだ半年も使っていないのが多少もったいないとはいえ、幸い部屋のスペースは十分にある。
    「ベッド、大きいのにしようかな。ムルソーも広い方が体楽だよね」
    「それはそうですが。……ダンテはこのメーカーのものが好きなのですか」
    「ううん。 売ってたのがこれだっただけだよ」
    ロージャの手をとってすぐに工房近くの部屋を借り、生活に必要な家具を手当たり次第にかき集めたために思い入れのようなものもない。
    「では近日中にベッドフレームとマットレスをいくつか見繕っておきます」
    「え?」
    「泊まらせてもらっていた結果必要になったものなので、私が購入するべきかと」
    「いや、でも、うちの家具になるわけだし……?」
    「本来あなた一人であれば買い換える必要はありませんでした」
    結局しばしの問答の結果押し切られる形でプレゼントしてもらうことになったものの、ムルソーの選んだ寝具はどれもそれなりに値がはる質の良いものばかりだった。店で遠慮する私を順番に見本のマットレスへと転がして、最も反応が良かったらしい品を気付いた頃にはさっさと買い、あれよあれよという間に済ませてしまったのだ。
    そんなこんなで数日後。身支度を全て済ませてから既に届いていたものをどうにか組み立て寝転べば、大の字に伸ばした手足は何にもぶつからずもっちりとしたマットレスが全身を柔らかく包みこむ。
    「わぁ……」
    何というか、久々の感覚。かたいマットレスもあれはあれで結構好き、だったんだけれども。身を脇によけてあけた場所をぽんぽんと叩いて呼べば、ムルソーも体を横たえ小さく息をつく。
    これならきっと二人とも、体を痛めることなくよく眠れるはずだ。
    握った手だけがベッドの真ん中に置かれ、当然のように空けられた体の隙間だけがどうにも物足りなかったけれど。

    翌朝。
    包まれるような温もり。額に柔らかなものが触れている。
    首もなんだか少し高い。
    「……ん……?」
    顔をあげればムルソーがすうすうと穏やかな寝息をたてている。私はといえば、肩まで毛布に包まれて、枕ごとすっぽりと腕の中だ。
    すっかりくっついて眠るのが癖になっていたらしい。
    「ふふ……」
    起きるまではまだ幾ばくかの時間があった。彼さえいいのなら構わない。
    温かな檻の中で目を閉じればまたすぐにまどろみがやってくる。
    どうやら抱き枕にされていたのは、ずっと私の方だったみたいだ。

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

    キーボードを叩く自身の手の上で揺れる彼の右腕に巻かれた赤い時計が蛍光灯の光を反射している。
    これが見える時。勤務の合間に彼の指から与えられるものは様々だ。
    干した果物。健康素材のクッキー。栄養を補える具材入りのチョコレート。
    無意識に甘いものを期待して、舌に触れた薄味の鶏肉に思わず思考が停止したこともあった。
    今回は先日試したばかりのきな粉の焼き菓子で、過度に甘くもない素朴な味が好ましい。
    <あ、前髪ちょっと崩れてるね>
    視界に入って多少鬱陶しくはあった毛のひと束が消える。感触からするに、彼の両手がそれを額のあたりで押さえているらしかった。
    <直していい?>
    「はい」
    カップの湯気で湿らせた彼の指がこぼれた毛束をつまみ、肌に触れるか触れないかのところを撫でつけ馴染ませる手のひらの動きがあの日の記憶を呼び起こす。
    <うん、良くなったよ>
    「……ありがとうございます」

    もっと深く、触れてほしい。

    気づけば書類を押さえていたはずの左手は、離れかけたばかりの彼の手を髪へと留め置いていた。
    <え……っと、ムルソー? 前髪、気に入らなかった?>
    「は……」
    完全に無意識であったそれをぱっと離し、自分でも不自然極まりない咳払いを一つして誤魔化すのを試みた。
    「……なんでもありません。失礼しました」
    <ううん>
    ……何故、そんなことを。


    午前の出来事に気を取られ、あまり仕事が捗らない。
    昨晩よく眠れなかったためだと判断したらしいダンテに手を引かれるまま、昼を食べ早々仮眠室へと導かれる。
    束ねられていたカーテンを閉め、壁にもたれかかった彼が太ももを軽く叩くのに促されるまま頭を置けば、ふわりと上着がかけられた。
    馴染みのない姿勢は、私を寝かせる間に彼が行う業務の都合だろうか。
    肌につけた耳から感じる彼の体内を巡る血の音が眠気を誘う。
    「………………?」
    崩れぬよう、額、こめかみ、耳の後ろを通って襟足。完全には固めずに残してある背面の髪を梳る指先に、どうしようもなく意識がほぐれていく。
    <あの時、撫でてほしかったのかなって思ったんだけど。……嫌じゃない?>
    「……はい」
    温かな肌を両側から感じて、意識はあっという間にとけていった。
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