きみは美味しいから、愛弟子「刺身は美味しいから愛弟子」
「里芋の煮物も美味しいから愛弟子」
「あー、またウツシ教官みんな愛弟子って言ってる!」
最近酒場の手伝いも始めたヨモギが声を掛けてきた。教官が酔うとご機嫌になり、好ましいものは全て愛弟子と言い出す。このことは里では周知の事実なのだ。
「そんなことらいよぉ、美味しいものはみーんな愛弟子!」
ご機嫌なウツシ教官が返した。
百竜夜行の終息を祝い、集会所の酒場で教官と愛弟子の2人でささやかな宴を開いていたのだが、教官はいつもより呑んで気分がいいらしい。最初は君は素晴らしい!立派なハンターになったね!だの、あの時の君の鋭い一撃は見事だった!思わず見惚れてしまったよ!云々と愛弟子を褒めちぎっていたのだが、次第に酒が回って呂律が回らなくなり、冒頭の有様となってしまった。
愛弟子たるセツは、最初こそ褒められて照れくさかったのだが、したたか酔った教官を前に対処に困っていた。教官とお酒を飲んだのは今日が初めてだったから、どうしたらいいのか分からない。
すると店主のオテマエからこの酔っぱらいをはやく家に連れて帰れと介抱を言いつけられてしまった。
里の外れにあるウツシ教官の家に着いた。がらり、と戸を開けて、そばの囲炉裏近くに教官を寝かせた。
ひとまずこの人に水を飲ませよう。布団を出して横になってもらったらすぐにでも寝付くだろう。
そう思い立ち上がったところ教官に腕を掴まれた。
「教か…」
振り返ろうとしたらぐるりと回され、壁に背を押し付けられた。
唇に柔らかいものが当たった。
「!?」
いつもよりもずっと近い距離に教官の顔があった。そこで初めて、口付けられたのだと分かった。
「ああ、やっぱり、本物は美味しいなあ」
首筋から頬にかけて触れられた時、セツは数日前の夜伽のことを思い出し、身体がかっと熱くなった。
「あ…」
セツの戸惑いつつも満更でも無い様子に、教官は満足げに笑みを深めた。仕込みは充分らしい。美味しそうに育った愛弟子の二口目を楽しもうと、再び唇に吸い付いた。