ひとりじめ「なぁキース、明日…空いてるか?」
「あぁ、明日はジェイ達と飲む約束してんだ、悪いな。」
と最近はいつもこうだ。声をかけても断られてしまう。キースにだって他の人とのつき合いがあるのは分かってるけど...それでも...
やっぱり前のようにかまって貰えないのは寂しい。いつもは聞き分けの良いふりをしているけど、今日は分かりやすく落ち込んだ表情をしてみる。と、目の前のモスグリーンの瞳が揺れた気がした。
それから、
「はぁ...しょうがないな。明日の飲みの誘いは断ることにするよ。」
という一言で思わず心が踊りだしそうになるのを堪えながら、ネットで見てからずっとやりたかった"あること"を提案する。
それは...
「まさかお前から俺の家で、デートしようなんて提案が来るとはな...まぁ綺麗じゃないけど上がってくれー」
そう、お家デートというものだった。若者の間で流行っているらしい。でも理由はそれだけじゃない。
ここでなら、キースを独り占めにできるはず...と考えたからだ。我ながら子供っぽいと思うけど、やっぱりエリオスで過ごせば過ごすほどに、あの4年間の空白を痛感させられる。それを埋めるにはこれしかない、みんなの知らないキースを知りたい。そう考えたからでもあった。
「お邪魔しまーす...」
と上がってからすぐの部屋には、転がる酒瓶を慌てて片付けるキースの姿があり、最近見慣れた、いつもと変わらない姿に思わずくすっと笑みがこぼれる。
「笑ってないで手伝ってくれー」
とムスッとした顔でキースが言うので、
「はいはい、オレはお客様なんだけどなー」
と言いながら、キースと一緒に散らかる部屋を片付けていき、2時間くらいしてやっと綺麗になった部屋のソファーに2人で腰掛ける。
そして急に静まり返った室内に違和感を覚え、テレビでもつけようとリモコンを探そうとしたところで、
『ディノ』
と名前を呼ばれ、振り向こうとした瞬間。
急に背中に体重がかかり、前に回されたキースの腕を見て、後ろから抱きしめられた体制になっていることに気づき、恥ずかしさを覚え、慌てて離れようとすると、
「ディノ、もうどこにも行くな」
と心地よいテノールが耳元に囁かれる。
それだけで何も言えなくなってしまい、聞こえるか分からないくらいの小さな声で、
「ずるい...キースはずるいよ...」
と口にすると
「ずるいのはお前もだろ…?
いつも皆と…俺だってたまには...」
と拗ねた顔で言うキースを見て、一人占めしたいという気持ちは一緒なんだなと分かったのが嬉しくて。思わずきゅっと、キースの腕を小さく掴んで笑みをこぼした。