いつかの手紙※アカデミー時代捏造
※回想多め
思えばアイツは昔から、何でもないことを手紙やらハガキやらにして、遠方のおじいさんやおばあさんに送るが好きだとよく言っていた。返事が帰ってくるのが楽しみでいつもいつも待ちきれなくてと、はしゃぎながら……その話をオレにする。
あぁ、そうかよ。良かったな。と返事することしか出来なかったのに、懲りずにまた別の手紙を貰った話をしたりするもんだから、結果的にアイツの家族がどんなものなのか、興味がなくても嫌という程知ることになった。
ある日、急に
「キースは誰かに手紙、書かないの?」
という問いを投げかけられた。頭を掻きながら、
「……書くような相手がいねぇんだよ」
と濁すと
「じゃあ、俺や俺のおじいちゃんやおばあちゃんに書いてよ!」
「おじいちゃん達はキースのこと、家族同然に思ってるって言ってたし、きっと喜んでくれるよ!」
と食い気味にくるディノに押されて、柄にもなく机に真面目に向き合って、手紙とやらを書いている。にしても、手紙なんて何書きゃいいのかも分からないオレは、とりあえず最初に、『ディノへ』と宛名をできるだけ丁寧に書いて、それからブラッドから貰ったアドバイスである、感謝を告げる手紙……というのを書いてゆく。こんなの素の状態で書けるわけない……と思い、多くは書けなかったけど、これで満足してもらえるだろうというくらいの量を書き、最後にしっかり折って封筒に入れて封をする。
それから、ディノのじいさんとばあさんにもにも手紙を書いた。いつも遊びに行った時世話になっているから、感謝しているという内容で書いた。
全ての作業が終わってから、慣れないことはするもんじゃないな、とインクに塗れた手を見て思ったが、不思議と不快感は感じなかった。
そして後日二通の手紙が届いた。
初めて貰った、手紙だった。
一つはディノのじいさんとばあさんから、もう一つは、ディノからだった。
思いのこもったものを受け取るのは何だか少しこそばゆくて、あたたかい気持ちになった。そんなのはもちろん、本人達には言わないのだけれども。そして、誰かに見られてないか確認しながらこっそり引き出しの奥の方にしまった。温かい気持ちと共に心の奥に。
*☼*―――――*☼*―――――
そんな手紙を発掘したのはつい最近の事だった。いつの間にか無くなっていたし、捨ててしまっていたかもと思っていたのに。
……そういえば、なんて書いてあったっけ。
思い立ってからは手を止めることも出来ず、ペラリと乾いた音を立てながら、ゆっくり手紙を開く。
『キースへ
いつも俺の無茶ぶりに答えてくれてありがとな。手紙を書いてってお願いしたけど、本当に書いてもらえるなんて思ってなかったから嬉しかったよ。あと、あんな風に思って貰えてるなんて嬉しくて、早く伝えたいと思って手紙を書いてます。』
とここまで読んで、ふとあの頃の自分は何を書いてディノに送ったんだろうと気になり始めて記憶を辿るが、どうしても思い出せない。この先を読んだら何か思い出せるだろう。そう考え、また手紙に意識を戻す。
『俺も同じ気持ちだよ。俺を受け入れてくれてありがとう。一緒にいてくれてありがとう。』
同じ気持ちだよ……ってなんの事だ?
って、ほんとに何を書いたんだよあん時のオレは……と少し恥ずかしくなり始めて手紙を閉じる。
「あ!それ、俺が昔キースに書いた手紙だ!」
という声にはっと顔をあげると目の前にディノが居て、思わず手紙を隠す。
「なんで隠すんだよー!俺にも見せてよ!」
とわざとらしくふくれっ面をするディノに、
「お前、羞恥心解かねぇのかよ……?自分が人に書いたものを自分で見ようと思えるのすげえな……」
と言いながら手紙を渡す。そして手紙を読みながらコロコロ変わってゆくディノの表情を眺めながら、あの日のことを、手紙を渡した日のことを思い出していた。
*☼*―――――*☼*―――――
「はい、これ。」
ぶっきらぼうに手紙を差し出すと、
「え?もしかしてこれって……」
と目を輝かせながら2枚の封筒を受け取る姿を横目で見ながら
「そう。手紙だよ、青色の方がお前のじいさんとばあさん宛で、薄い赤色の方がお前宛な。」
と呟く。
「ありがとう、絶対返事出すからな!」
その時の笑顔が忘れられない。
初めて向けられた、花が咲くような満面の笑み。
コイツってこんな風に笑う奴だったっけ。
思わず見とれてしまいそうになる。
大事そうに手紙を抱えるディノをみて、書いてよかった。改めてそう思った。
*☼*―――――*☼*―――――
「俺こんなこと書いてたのかー……恥ずかしい……告白みたいじゃんか……」
と言いながら呻くディノの声で回想から呼び戻される。
「おー、お前に恥ずかしいって感情がちゃぁんとあったなんてな、びっくりだわ」
とつんつん脇腹を着きながら茶化すと
「俺だって恥ずかしいって気持ちくらい持ってるよ!!」
と茹でダコみたいに真っ赤になった顔でそう言われて思わず笑みがこぼれる。
「ははっ、ほんとに……お前って変わったやつだよな。」
無意識にそんな言葉が出て、その後しばらくディノの反応がなかったから、地雷でも踏んだかと思って
「おーい、ディノ?大丈夫かー?」
と声をかけると
「あ、いや……その……キースってそんな風にも笑うんだなって、思って……」
と途切れ途切れに出た言葉を聞いて、今、どんな表情をしてたんだと戸惑いながら片手で口元を覆う。しばらく気まずい沈黙が流れる中、それをいち早く破ったのはぐうぅ……というお腹の音だった。
「もしかして、お前……」
と心底呆れたというような目で見ると
「あはは、なんか、お腹空いちゃって……そうだ、ピザ頼む?」
という反応が返ってくる。
全くこの男は……と思いながらデリバリーの注文を取りその旨を伝え、いち早く共有スペースに向かわせる。そして、1人になった部屋で置かれた手紙をそっと回収する。
またこの手紙を見返す日は来るのだろうか。
そう考えながらゆっくりと引き出しの奥にしまい込んだ。