20___呪術は人々を守り助けるもの。しかし大きすぎる力は時に脅威にもなる。
___愛の呪いは強く縛る
ああ。
おじいちゃん。
私たちは悟になんて呪いを______
悟にとって私だけが生きて無事でいればいいのだ。その他の人間はどうなろうが構わないのだ。
そしてそれを悟は享受している。
だから呪いは解けない。
私が生きている限り__________
自分の中でバリアが再構築され始めたのを感じた。まだ全く体を包む気配はないが、確かに感じる。バリアをこんな風に感じるのはいつ以来だろう。多分初めて悟の「蒼」を見た時以来だから10年ぶりか。
呪霊の数がどんどん減っている。
五条家はやはり優秀な呪術師の家系のようだ。
戦闘能力のない人たちは避難したのか姿が見えない。
悟とパパ、数人の呪術師がそれぞれ淡々とやるべき事をこなしている。
パパは刀を持っていたが、悟はずっと素手だった。片目しかレンズが残っていないメガネで見ていても、悟の動きは他の誰よりも速く、青白い炎に包まれたしなやかな身体で素早く呪霊を祓っていた。
悟は笑っているように見えた。
私はいつの間にか泣いていた。
「実様。痛みますか?間もなく医術師が参りますのでご辛抱ください」
大丈夫だと伝えたかったが、しゃべろうとするとゴボゴボと口から血が溢れた。どこの臓器がやられたのだろう。
実際痛みは感じていなかった。
人の形をした呪霊は悟とパパが祓ったようだった。あとはパタパタ飛んでいる小さな呪霊が少し。
悟が私を見てこちらにこようとした時、私たちの間にもう一体呪霊がふわりと空から降りてきた。
「邪魔だどけ」
『六眼か。初めてお目にかかるな。』
「聞こえなかったか?耳ねーのか?」
『まだガキというのは本当だったな』
「呪霊ごときがいきがるなよ」
『人間ごときがいきがるな』
とても流暢にその呪霊は言葉を操った。
人の形をしている。顔もちゃんとある。ただし、長い腕が四本ある。
大きな手と、鋭い爪。
「悟!挑発に乗るな!特級だぞ!!」
パパは叫ぶと同時に倒れた。
何が起こったのか、悟以外は分からなかっただろう。
気付くと悟は倒れたパパの傍らに膝をついてパパの状態を見ていた。倒れているパパから地面に血がみるみる溢れてくる。
悟はいつの間にパパの所に行ったのだろう。
「いるだけ医術師連れてこい!!!」
悟はパパの刀を拾った。
「今すぐ祓(ころ)す。こい。」
悟は刀を構えた。
目にも止まらぬ速さ。
超高速。
悟は巧みに刀を操り攻撃をしかけ、呪霊は受けたりかわしたりしながら悟へ攻撃をした。しかし呪霊の攻撃は悟の無下限術式で当たらない。
「実様」
医術師と思われる女性が傍らにいた。
「腹部を診せて頂きますね」
医術師は服を捲るとそっと手を当てた。
「折れた肋骨が肺に刺さって出血しているようです。出血がひどいのでとにかく術式で止血します。止血したら直ぐに手術します。
バリアがないのが不幸中の幸いですね。バリアがあったら呪力のある私の術は使えません。」
バリアがない?
さっき確かに再構築を感じた。
経過した時間を考えてもそろそろ戻ってもいいはずだ。
命が尽きようとしている?
呆然と目を悟たちの方に戻すと、パパも張られた結界の中で医術師の手当てを受けている。
悟は無傷だが呪霊は出血しているようだ。
『いいな。六眼と戦うのはこんなに楽しいのか』
「やせ我慢すんな。諦めてとっととしね」
『今の私では六眼のお前に敵わないというのはよく分かった。体術も術式も桁違いだ。』
「分かったんなら抵抗してんじゃねえよ」
『よく分かった。お前の血はやはりいらない』
「あ?」
『私の術はお前の父親の時に見ただろう?私の爪はよく飛ぶんだ』
「お前の爪なんか秒で消してやるよ」
呪霊が四本の腕を私たちがいる方に向けようとしている。
「実!バリア最大にしろ!!」
術式順転
「蒼」
私たちの結界を20本の爪が貫通したと同時に、爪は「蒼」によって引き戻される。
悟は知らない。
私がバリアを再構築できていないことを。
再構築に必要な2分なんてとっくに過ぎた。
気絶していた時間を差し引いてもとっくに再構築できているはずなのに。
バリアがないとここにいる護衛の人も医術師の女性も命の危険にさらすことになる。
でもどうすることもできない。
声すら出ない。
逃げて。
みんな逃げて。
引き寄せられた爪と瓦礫。
全てがスローモーションに見えた。
発動してしまった術式を術師は解除できない。
破裂する____________
私の意識はそこで途切れた。