31「なんだ、そんな話しか」
私たちは五条家当主の前で正座をし、両手をついて事と次第を報告していた。
「ふたり揃って話があるっていうから何かと思えば座布団にも座らずかしこまって。いいから足をくずしなさい。」
私たちは言われたとおりにした。
「凪のしたことで、2人には辛い思いをさせて申し訳なかった。特に実。本当に申し訳なかった」
そういうと深々と頭を下げた。
私が子供を産めないのは、まぁ周知の事実か。
「私は二人が一緒になることをごく自然なことだと思っている。まぁ悟はまだ高校生だから、時期がきたら自分達のタイミングで籍を入れればいい。二人が報告にくるのが遅いくらいだよ」
もっといろいろ言われるかと思ったが、当主___パパはちょっと涙ぐんで喜んでくれた。
但しこれだけは、と、パパは言った。
きちんと実のご両親にも許しを得ること。
実は大学を卒業すること。
悟も高専を卒業し、呪術師として任務をこなすこと。
もちろん私たちは「はい」と答えた。
「にぃに?」
かわいらしい声がした。
ほんの少し障子が開いている。
「光」
「にぃに」
そういうと女の子が現れた。
女の子はパンダのぬいぐるみを抱いていた。
「にぃに、かえってきたの?」
「うん。ただいま」
「おかえりなさい!」
悟の膝によじ登り、ちょこんと座った。
「あ、実は初めてか。光だよ」
「私は今遺伝子の存在を目の当たりにしてるわ」
「ん?」
「悟がこれくらいの時にそっくりよ」
「そ?」
髪の毛は焦げ茶色だし瞳も茶色いが、面差しがそっくりだ。これには驚愕した。3歳くらいの頃の悟と本当に似ている。
「ははは。そうだろう?悟と光、やっぱり似てるよなぁ」
パパが笑う。
「にぃに、このひとだあれ?」
「にいにのお嫁さんになる人だよ。実ちゃんって呼んでね」
「およめさん?にぃにのおよめさんはひかるだよ?」
「そうだっけ?」
悟が笑う。
「そうだよ!」
「光はお兄ちゃん子だから、悟がいないと大変なんだよ」
パパが目を細める。
光は私を見て
「あっちいって!」
と言ってそっぽを向いた。
無事敵認定されたようだ。
「実のご両親のところにはいつ行くんだい?」
「この夏休み中に行く事にしてる」
「そうか。私もいずれご挨拶に伺わないとな。実は今日泊まって行くんだろう?」
「できればそうしたいけど……」
チラッと光を見る。
光は悟の膝の上でパンダのぬいぐるみと遊んでいる。
「光なら大丈夫だよ。基本的に人見知りしないし、少し遊べば仲良くなれるよ」
パパのいうとおり、お社へお散歩しておやつを食べ、帰ったらぬいぐるみで遊んだらすっかり打ち解けてくれた。
夕食を食べ、悟と一緒に光をお風呂に入れると、光は布団に倒れこんだ。
「はしゃぎすぎ」
「そうなの?」
「まだ幼稚園行ってないし、友達少ないから実に遊んでもらっておおはしゃぎ」
「あはは。幼稚園楽しみだね」
「こいつ一回寝たら朝まで起きないから行こう」
光の部屋の扉を閉めるとどちらともなく手を繋いだ。
「…………くせ……なのかなぁ?」
私は繋いだ手を見た。
「くせ?あー。くせ?とは違う気がするけど」
「家の中なのに変だね~」
「多分呼吸と一緒なんだな」
「してて当然、しないと死ぬ、みたいな?」
「そそそ。それよりさ」
「ん?」
「今日は何回する?」
「……明日の朝に支障が出ない回数!」
「3回?」
「はぁ?!1回でいいでしょ?!」
「えーえーえーえー?!それ本気ーーー??」
「さとるーみのるーきこえてるぞー」
「!!!!!」
突然のパパの声に心臓が飛び出しそうになった。
パパの部屋は光の部屋の隣だった。
「ごめーん。若さに免じて許してー」
悟が返す。
「わかったー」
「パパ許すの早くない?!」
「そりゃー許してくれるでしょー」
悟がニカッと笑った。