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    いぬさんです。

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    いぬさんです。

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    35話目です。

    353月。
    私は無事に大学を卒業した。
    卒業式には両親ともに出席してくれて、帰りは3人でお祝いをした。
    「私たちのことは気にしないで、あなたはあなたの路を歩きなさい。」
    と、励まされ号泣した。

    なんやかんやと忙がしくなり、引っ越しの日が決まったのでパパに連絡すると「部屋は悟と一緒でいいよね?」と聞かれたので「できれば別で」と即答しておいた。
    一人暮らしで大して荷物はないと思っていたが、意外と多くて部屋が段ボールだらけになった。でも、これからの生活を思うと荷物整理も楽しかった。必要なくなりそうなものは潔く捨て、断捨離にもなってすっきりした。

    引っ越し当日はバタバタと搬出をしてもらい、両親と一緒に新千歳空港に向かった。泣かないと決めていたのに、搭乗口で手を振ったら泣いてしまった。今生の別れではない。会いに来れる。そう考えて涙を拭いた。

    成田空港には悟とパパが迎えに来ると言っていた。どこにいるかと見渡すと、女性の視線がやたらと集まっている一角があった。角になっててちょうど見えないがあそこか。ガラガラとキャリーケースを引きずって角を曲がるとやはりいた。

    「お待たせだよ~」

    「お、実!良く来たね!」
    パパが笑顔で迎えてくれる。

    「実」

    「悟、元気だった?」

    突然抱きしめられた。

    どよっとざわめきが起きた気がする。

    「ちょっとこんなところでやめて!!」

    「えー別にいいじゃん」

    「良くないわよ!恥ずかしいってば!」

    「気にしすぎ」

    「うるさい!」

    「あーまた楽しい日々が戻ってくるねぇ」
    パパはいつも通りでなにより。

    悟は私からのキャリーケースを奪い、空いている手で私の手を取った。

    「おかえり。実」

    悟は100点満点の笑顔を見せてくれた。

    「ただいま!」




    「なんでだよ!!」

    本家に入って開口一番悟が言った。

    「なにが?」

    「なんで部屋が別?!」

    「なんでって……パパから聞いてなかった?」

    「きーいーてーなーいー!!!」

    あらまあ、と私は自分の部屋として用意してもらった部屋のドアを開けた。

    「隣なんだから別にいいじゃない」

    「実が来ると思って、部屋片付けたのに!!」

    「もともと一人用の部屋に2人でいるのは大変ただよ?」

    「何が大変なのか言ってみろよ」

    「狭い」

    「それだけ?あとは?」

    「ケンカした時気まずい」

    「部屋なんかたくさんあるんだからケンカしたらそん時はそん時じゃね?!」

    「まぁそうだけど、せっかく用意してもらったし。とりあえず荷物片付けたいからまた後でね」

    「話し終わってない!!」

    私は扉を閉めた。

    「実!!」

    勢い良くドアが開く。

    「ちょっと!壊れる!」

    「折衷案を考えよう」

    真剣な悟の顔を見て私は思わず吹き出した。

    「分かった。片付けたら考えようね」

    そう言うと悟は納得したようだ。
    そのまま部屋に入って来た。

    部屋は広くて、家具が全てを揃えられていた。
    クローゼットも使いやすそうなチェストもあるし、ソファーもローテーブルもあった。ありがたい事にデスクまであった。
    家具は全て新品のようだった。なんだか申し訳ない気がした。

    「俺の部屋より広くね?」

    「そんな気がするねぇ……」

    悟はソファーに寝転がって寛いでいる。
    寛ぎ過ぎだ。
    私はキャリーケースを開けた。引っ越しの荷物が届くのが3日後なので、それまでの日用品と着替えが入っている。

    「実」

    「なんでしょう?」

    「おいでよ」

    「……。」


    優しい声で言われるとなんとも拒否しがたい。
    私がソファーに向かうと、悟は体を起こして私の為の場所を作った。私は空いた場所に座った。

    「会いたかった」

    「私も会いたかった」

    ぎゅっと抱きしめられ、体の力が抜ける。
    悟の匂いがする。昔から変わらない匂い。でも大人の男の人の匂いもする。大好きな匂いだ。

    「あー実の匂い好きー」

    「やだ、同じ事考えてたのね」

    笑いながらキスをする。
    久しぶりだし、悟がしたければこのまましてしまってもいいかな、と思った時だった。

    「お兄ちゃーん!実ちゃーん!」

    光の元気な声が近づいて来る。

    「部屋に鍵つけような」

    「そうね」

    おでこをくっつけてまた笑った。




    あくる日、2人してパパに庭に呼ばれた。

    「実の車だよ!これで高専に通ってね!」

    パパはとても嬉しそうに紺色の車の前に立っている。

    「おぉ~、実良かったなー。」
    悟が満足げだ。

    「パパ?!私でも分かるよ?!これ輸入車でしょう?!」

    「安心と安全を買ったんだよ~!」

    「こんな高価なもの買ってもらっても困るよ!」

    「そう言うと思って~、ちゃんと中古で程度のいいもの探してもらったんだ~」
    パパも満足げだ。

    「こういうのって中古車でも高いし、維持費払えないよ!」

    「維持費??悟が喜んで出すよ!」

    「あ、やっぱ俺なの?」

    「当たり前じゃないか~!愛する女性の安心安全の為だよ~?」

    「あぁ、それもそうだな。実、そういう事だから乗っとけ」

    「会話おかしくない……?」

    パパと悟はよく分からないという顔をしている。
    この人たちの金銭感覚は絶対おかしい。
    お給料をもらえるようになったら、毎月返済しようと心に決めた。
    一体いくらなんだ……この車……。


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