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    いぬさんです。

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    いぬさんです。

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    44話目です。

    44「実、今度の日曜ヒマ?」

    夜、私の部屋で一緒に映画を観ている。

    「ヒマっていうか、家入さんが来るのは土曜だし、日曜は特に用事はないかな?」

    「ちょっとでかけよ」

    「いいけどどこに?」

    「実もう少しで誕生日でしょ。プレゼント買いに行こう」

    「……誕生日プレゼントなんて今までもらったことあったっけ……??」

    「ない。ないからあげたいなって」

    「うん?嬉しいけど……」

    「けど?」

    「高価なものはいらないからね?」

    「ん?高価なものって例えば?」

    「パパが車買ったみたいな」

    「あぁ、じゃあなんか欲しいもの考えておいてよ」

    「分かった」

    誕生日もクリスマスもバレンタインデーも全く無関心かと思っていたが…。
    しかし、物欲がない私にとって「欲しいもの」と言われてもなかなか思い付かないのだが。



    「家入さんといえばなんだけど、悟の無限を強制解除しちゃうこと言ってなかったよね?」

    「んー。言わないでおこうと思ってる。弱点にしかならないから」

    「分かった。あと……まだ家入さんに言ってないことあるけど……」
    いつかは悟とも話さなきゃいけなかった事だ。

    「黒いバリアの事?」
    わりとあっさり口に出す。

    「うん。」

    「実は硝子に話しておいた方がいい?」

    「話したら『やってみて』って言われるでしょ?もう2度とやらないって決めてるのに」

    「今できる?」

    「どうだろう。あの頃はわりと自由にできてたけどあれから1度もやってないし。悟の前では尚更やりたくないよ。」

    「いいよ。別に俺を拒否する為にやるんじゃないし。自力で出し入れするヒントになるかも」

    私は黙ってしまった。もう何年も自分で立てた誓いを守ってきた。悟が『いいよ』と言ったところでおいそれとは破りたくない誓いだ。

    「ごめん。やりたくないならやらなくていいし、硝子にも言わなくていいよ」
    悟が頭を撫でてくれる。

    「……うん。ちょっと考えさせて」

    自力で出し入れするヒント。
    本当にそうなればいいが、そうでない事を考えると誓いを破るのは辛い。



    土曜日。家入さんがやってきた。

    「やほー」

    「おう」

    「おはようございます」

    「じゃあ、道場貸して」

    私たちは万が一に備えて体術訓練などをする道場にやってきた。わたしが子供の頃によく実験をさせられていたのも道場だったので、あまりいい思い出はないし、あまり来たくない場所でもある。
    私たちは道場の真ん中に三人で立っている。
    私はメガネをかけた。

    「じゃあ、まずは自力で一回バリア消してみて」

    「え……はい」

    前回家入さんが来た時に「イメトレ」と言っていたので、バリアを体の中に小さく小さくして最終的に消すイメージをしてみる。

    「消えないな」
    悟が『ほらみろ』って感じで言う。

    「大分薄くはなるんだけど……」
    手には透明な膜がしっかりある。

    「五条、消せ」

    「消えるかなぁ?」

    ぐいっと腕を引っ張られる。

    「ちょっ……!!!」
    そのまま抱き締められる。

    「やめてよ!家入さんいるんだよ!!」

    「硝子がやれって言った」

    じたばたするがびくともしない。

    「はーずーかーしーいーーー!」

    「硝子、こんな感じだから無理だと思う」

    「まぁまぁ、私の事は空気だと思って」

    「いやーーー!恥ずかしくて死ぬ!!」

    「暴れるなよ。恥ずかしくて死んだ人多分いないから大丈夫。ほら、欧米人になったつもりで」

    「楽しんでるでしょ!!」

    「バレた?」

    ぱっと悟は体を離した。

    「ばか!!人前でこんなの無理!!!自力で出し入れできなくて大丈夫です!!そういう事で家入さんごめんなさい!!」

    私は一気に言うと道場から退散した。
    私は部屋に戻った。
    古いと言われようがなんと言われようが人前でイチャつくのは恥ずかしくて嫌だ。
    ケガをしたら普通に病院に行けばいいし、死ぬ時は転んだって死ぬのだ。バリアは関係ない。

    「実?」
    ドアがノックされる。悟だ。

    「入っていい?」
    普段は聞かないくせに。
    私がよほど怒っていると分かってるようだ。

    「今は入っちゃダメ!」
    多分私は今怒っていて酷い顔をしているはずだ。できれば怒ってる顔なんて見せたくない。

    「硝子帰ったよ。入るよ?」
    ドアノブが動く。

    「ダメって言ってるでしよ!」
    私は近くにあったクッションをドア目掛けて投げた。
    クッションは悟に当たる前に止まった。

    「あ、」

    と悟が言った瞬間、クッションは悟の顔面に当たって落ちた。

    「わざと当たるとかバカなの……???」

    「……だって、実が怒って投げたのに避けちゃダメでしょ」
    クッションを拾って悟が近づいて来る。

    「ごめんな?」

    私はやり場のない怒りと恥ずかしさで興奮していた。悟が隣に座っても顔も向けられない。

    「無理。人前では絶対無理だから」

    「分かった。二人きりでも恥ずかしがるもんな。ごめんな。ふざけすぎた」

    25歳にもなってみっともないほど怒ってしまったので落ち着きたいのに心臓がバクバクいっておさまらない。

    「硝子も謝ってた」

    「……分かった……」

    「触っていい?」

    久しぶりに聞かれた。
    あまり触れられたくないので黙っていた。

    「凄い怒ってるね。バリア消えない」

    言われて気づいた。悟が部屋に入って来てから2分はとっくに経ってる。
    興奮して緊張してるのか。

    「実?このままだと明日デートしても楽しくないからまずは抱っこさせて?」

    「……私だって怒りたくて怒ってるわけじゃないよ」

    「せめてこっち向いてよ」

    「……酷い顔してるだろうから嫌。」

    「どんな顔してても実はかわいいよ?」

    「……私別にかわいくも美人でもないもん。ちゃんと自覚してるから」

    「実!」

    肩を掴まれて無理やり対面させられた。

    「実がこんなに怒るの初めてだから凄く怒ってるのは分かる。もう二度としない。悪かった。でも自分の事かわいくないとか言うのは無し!俺がかわいいって言ってるの!実は俺にとって一番かわいいの!」

    真剣な眼差し。
    昔から変わらない真っ直ぐな瞳。
    碧い碧い碧_____。

    「綺麗ね……」

    思わず口に出た。

    「はぁ?」

    「悟の瞳。」

    「なんで今そんな話し____」

    「太陽の下だと夏の空みたいな真っ青で、夜は深い深い紺色になって教科書で見た宇宙の写真みたいにキラキラするの。悟が生まれて、初めて悟の瞳を見たときなんて綺麗なんだろって思った。」

    「それが六眼だから……」

    「違うよ。悟の瞳だから綺麗なんだよ」

    「なんで俺の話になってんの?」

    「ふふっ。昔からその瞳に勝てないって話し」

    私は悟の胸に頭をつけた。

    「触っていいよ」

    悟の腕が私を包む。

    「宇宙みたいって言った?……」

    「うん。小さな銀河って感じ」

    「関係あるか分かんないけど」

    「なぁに?」

    「俺の領域内は宇宙みたいだよ」

    「領域ってなに?」

    「俺の呪力で作る檻みたいなもんかな」

    「見れる?」

    「うーん。どうだろ?実のバリアに消されちゃうかなぁ?」

    「そっか。残念」

    「やってみる?」

    「いいの?」

    「いいよ。やってみよ」


    私たちは庭に出た。


    「おーーーい!領域展開するからみんな近寄らないでねーーーーー!」

    誰も見えないが誰かいるのだろう。私には見えていない人に注意を促す。

    「領域内では呪術師も普通の人も関係なく俺から離れたら廃人になるから物理的に絶対離れないでよ?」

    「え、怖い」

    「抱きついてて。俺も離さないから」

    悟にしがみつく。
    悟は左手で私をしっかり抱く。

    右手で印を結ぶ。



    「領域展開 無量空処」



    SF映画で観たワープのような画像が目の前に拡がり、そのあと黒い空間に包まれた。

    「おぉ。実がいてもできたね。」

    「凄い……綺麗……」

    語彙力の無さが悔やまれる。

    「静かね……」

    「完全に外界から遮断された空間だから」

    「どうなってるの?ここ」

    「あはは。説明は難しいからやめとく。ひとつ分かったのは領域内なら実のバリアを俺の呪力が上回るって事だな」

    「凄い。なんにもないところが本当に宇宙みたいで綺麗……」

    「中から外は見えないし、外から中も見えない」

    「へぇー……」

    「誰も見てないからキスしていい?」

    「こんなところで?」

    「仲直りのキス、ダメ?」

    「もぉー……」

    ゆっくり唇を重ねる。

    なんだかふわふわする。
    胸がムズムズする。

    「悟……?私なんか変かも……」

    「マジ?俺もなんだけど……」

    「なんだろう?この圧倒的な……多幸感っていうのかな……?」

    「あぁ、分かる。完全に2人だけの世界にいるって感じがする」

    「溶けちゃいそう……」
    私は悟の腕の中で力を抜いた。
    「全部溶けて、悟と1つになれそうな気がする……」

    「……うん。なれそう。間違いなく戦闘不能状態になってる」

    「魂が喜んでる……」

    「それだ」

    戻ろう、と悟が言った瞬間、カシャンと薄いガラスが割れるような音がして、私たちは庭に戻った。

    「実、なんともない?大丈夫?」

    「……大丈夫……。ただ余韻が残って体に力が入らない……。」
    私が崩れ落ちそうになるのを悟が支える。

    「誰かに見られちゃうかもしれないけどお姫様抱っこして部屋まで運んでいい?」

    「……ん……」

    頭がクラクラするし、体に力が入らない。失神寸前のような感じでふわふわする。とてもじゃないが歩ける気がしない。

    ベッドに寝かされると少しずつ体に力が入るようになってきた。

    「ありがと……ごめんね」

    「大丈夫か?気持ち悪いとか記憶が曖昧とかないか?」

    「それはない……ただふわふわするだけ……悟は大丈夫なの?」

    「いつもと違う感じはしたけど俺の領域内だし問題ないよ」

    「あの感じは……クセになりそう……」

    「性癖開発しちゃった?」

    「……ばか」

    「ケンカしたら領域展開で一発で仲直りのできるのが判明したな。あの満たされた感は凄かったよ」

    「そう、それ。満たされた感が凄かった」

    「仲良しでイッた時とは違う?」

    「んもぉ……あれは心もだけど体の反応が大きいでしょ?これは心というか魂が満たされてる感じだよ」

    「このまま仲良ししたら実どうなっちゃうんだろう?心も体も完全に満たされるんでしょ?」

    「ただのマグロ」

    二人でクスクス笑う。

    「初めて領域に入ったから尚更敏感に反応してるのかも。定期的に入ってみる?慣れるかもよ?」

    「入る度にこうなるのはしんどいけど、これならまた経験してもいいかも」

    「やっぱり開発しちゃったね」

    「されたかも」


    起き上がれるようになるまで少し時間はかかったが、なかなか面白い経験だった。



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