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    Kuon_ao3

    @Kuon_ao3

    覚え書き、感想まとめ等に使いたいなと思ってます。

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    Kuon_ao3

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    逆行感想その2
    ひなた+鉄虎+司

    猛暑日の昼下がり 一向に止まない蝉時雨と、青すぎる空を一直線に横断する飛行機の音。鉄虎は体操着の青い襟を引き上げて首元の汗を拭うと、高い位置にある窓を仰いだ。朝の天気予報の通り、本日も猛暑真っ盛りだ。屋内と言えど熱気で目眩を起こしてもおかしくはない。コートから出た鉄虎は、開け放たれた下方の窓へと風を求めて座り込んだ。腰から項へと吹き抜ける熱風さえ今は心地良い。
     コート内では隣のクラスの模擬試合が始まっており、ビブスを付けたひなたが一彩のディフェンスをかわしてレイアップを決めたところであった。ひなたも既に汗だくで、捲り上げた半袖の肩で器用に額をこすっている。ビブスチームのファウルで時計が止まったと同時、不意に鉄虎と目が合ったひなたは――思い出したように、「今日、」と窓の外を指さしてから誘うように首を傾げて。甲を上にしたまま握った拳を、時計回りにぐるぐると回してみせた。
    「!! いいッスね!」
     親指を上げて応じた鉄虎の姿ににかりと笑ったひなたは、ホイッスルの音と共に試合に戻る。
     その応酬を、得点係の司は不思議そうに眺めていた。



    「甘いしゆうたくんはパスするって!」
    「売店で氷買って来たッスよ。廊下まで暑いッスねほんと……」
    「俺もう今日は絶対やろう!って思ってたから、朝コンビニで色々仕入れて来たんだよね~」
     昼の賑わう学食で、空になった皿の乗るトレーを端に追いやったひなたは、赤、緑、青の透き通った瓶を順番に並べていく。鉄虎も普段は見向きもしなかったカットフルーツを何種類か卓上に出して、最後にひなたが部室から持ち出した「それ」を中央にどんと置き、全ての準備が整った。

    「So……adrable……!」

     感嘆の吐息と共に漏れてしまった声に二人が顔を上げると、両手がトレーで塞がった司がきらきらとした眼でテーブルを見詰めていた。
    「この愛らしいpenguinさんはどなたのでしょうか? 大きな貯金箱ですか?」
     手で覆えないため、あわあわと開いてしまった口を司は隠すことが出来ない。アイコンタクト一つでひなたと呼吸を合わせた鉄虎は、やんわりと司を空席の一つに座らせると、ペンギンの上部を左に回した。
    「これ、頭が開くんス」
    「なんと!」
    「で、氷を投入して」
    「頭に?! Iceを?!」
    「最後に脳味噌をかき混ぜるとね……」
    「ひぃっ!! 拷問ですか?! やめて差しあげて下さい!」
     フヒヒ、と高笑いでマッドサイエンティストに扮したひなたがハンドルを回すと、当然ながら司の懸念とは裏腹に、削れた氷が少しずつ深皿に降り注いだ。ロックアイスの角が取れ、音もシャリシャリと平らになってきたあたりで一気に氷の山が出来る。
    「これは……shaved iceを作るmachineだったのですね」
     からかわれたことに気付いた司が目線だけで二人を非難するが、それも束の間。ひなたがハンドルを回す度に左右に動くペンギンの目玉を追って、司の顔も自然ときょろきょろと左右に動く形になる。綺麗なかき氷の形になったところで、おしまい、とひなたは別の皿に差し替えた。
    「はい次、どうぞ。鉄くん火を使わなきゃ大丈夫でしょ♪」
    「押忍。南雲鉄虎、漢を見せるッス!」
     両腕を腰に引いてペンギンに一礼した鉄虎は、雄叫びと共に信じられない速度でハンドルを回す。ペンギンの目玉は最早超高速のメトロノームだ。このままではかき氷が溢れてしまうと慌てたひなたは、急いで予備の皿を掴むと、持ち前の胴体視力でタイミング良く交換する。鉄虎の体力よりも先に内部の氷が尽きた結果、テーブルには途中参加の司を含む、ちょうど三人分のかき氷が並んだ。
    「司くんもどーぞ」
    「しかし私は何もお手伝いをしていませんので……」
    「いいからいいから。溶けちゃうし早く食べよう!」
     恐縮しながら司が受け取ったことを確認すると、ひなたは手早くフルーツを何個か盛って、いちごシロップを垂らした。じゅわ、と広がる色彩に胸を躍らせた司も彼に倣い、青いシロップを控えめに少しだけかける。
    「っし、これは会心の出来ッスよ……!」
     鼻息荒く写真を撮った鉄虎が、二人の方へ向き直って自慢げにかき氷を掲げる。スイカとブルーベリーでぐるりと囲み、シロップの赤が輝くそれにはまさに鉄虎スペシャルだ。
     いただきます、と声を揃えて三人は一匙口へと放り込む。口内がひんやりと冷えて、舌の上に甘さが滲む。喉を過ぎればすうっと体の温度も下がったような感覚が広がり、これこれ、と夏の醍醐味に舌鼓を打った。

    「司くん、白いとこ多くないッスか? 遠慮せず足して欲しいッス」
    「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて少しだけ……」
     ティースプーン一杯程度をそっと垂らす司の姿に、ひなたははっとして手を止める。
    「そっか。お店と違ってシロップ掛け放題なんじゃん……」
     急に真面目な顔をして指を組むひなたを見て、鉄虎も同じ考えに至ったのか、二人して顔を見合わせる。
    「これはさあ、ある種実験みたいなものだと思うんだよね」
    「そッスね。実験は学生の本分みたいなもんッス」
    「フヒヒ……南雲研究員」
    「クックック……葵教授」
     マッドサイエンティストの設定を引きずったまま、ひなたは右手を顔の前に翳すと、芝居がかった動きで勢い良く前へ突き出した。

    「これより禁断の、シロップ複数掛けの実験を執り行う!」

     いちご、メロン、ブルーハワイ、ついでにカルピスの原液を。ひなたは自分の号令を契機に、鉄虎と一緒になって追加で注ぎまくる。
     カロリー乗算の儀を目の当たりにした司が、キーンと冷えるこめかみを押さえた瞬間。脳内に住む瀬名泉の怒号が聞こえた気がして、彼は一気に身震いした。
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