[8/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 歪みのない完全な球体。気泡ひとつ入っていない美しいその氷を、無遠慮にグラスに放り込む。
「お前、本っっっ当に馬鹿だな」
ジョーカーは片手でウイスキーを注ぎ、マドラーを手に取るのが面倒だとばかりにグラスの縁を掴んで回した。透明で大きな氷が、僅かに浮上して円を描く。
「せっかくあの女が全部忘れて、うだうだ迷ってるお前の悩みごとぶった斬れるかもしれねぇチャンスだってのによ」
嘲りと共にケタケタと笑う彼は、接客をする気など毛頭無く、音を立ててグラスを置いた。カウンターに座った赤い男がそれを、ひょいと掴む。
「なにせ処刑人である前に騎士だからね」
橙色の灯りに翳せば、中の液体は琥珀色に煌めいた。体温で温まらないように余分な指先を離す。緩い曲線を描く小指の先を眺め、エースは唇を綻ばせた。
「俺は、アリスに会わずにはいられないんだ」
涼しい顔で一口嚥下した彼を、ジョーカーは半眼で流し見る。
「前後の文脈合ってねーぞ」
「合ってるってば」
決して揺らがない、確たる何かを根拠とする、その物言いに。ジョーカーは面白くなさそうに鼻を鳴らした。