[15/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス ショーケースに並ぶチョコレートは、どれも皆宝石のように輝いて見える。客がトングでつつくのではなく、一粒ずつ店員が丁寧に扱うから尚更そう感じるのかもしれない。
磨き込まれたケースに指紋を付けることさえ躊躇われて、アリスは端から端まで宝石の煌めきとじっくり見つめ合った。
「いらっしゃいませ」
ケースの向こう側に立つ店員に声を掛けられ、アリスはぱっと顔を上げた。
「以前あなたが薦めてくれたチョコレート、とても美味しかったからまた来ちゃった」
あの時手土産の品を一緒に選んでくれた顔なしの店員はしかし、疑問符を浮かべたまま首を傾げる。人違いだったろうか、とアリスは店内を見回したものの、やはり目の前に立つ彼女は前回接客担当してくれた店員で間違いない。
互いに混乱の色を見せる様子に、品出しをしていた店員が助け船を出す。
「ああ、この子時計を直したばかりなんですよ。おかげで仕事も一からまた教えなくちゃで、もう大変!」
些末なことであるかのように。自明の理であるかのように。さらっと告げられた事実は、どくりとアリスの心臓を震わせた。
直したということはつまり、壊れて止まってしまったということ。彼女はもう、「彼女」の形をした別人であるということ。
滞在先の住人に聞いていた、どこか他人事のようなこの世界の仕組みを。目の当たりにしたアリスは痛感する。
忘れられてしまうのは、嗚呼、こんなにも。