[16/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス「ありすだ!」
「ようこそ、ありす! こっちこっち」
ふよふよと宙を泳いでいたライオンのぬいぐるみ達は、来客に気が付くと一斉に取り囲んだ。舗装されていない小道の先を示し、門までの案内役を買って出たライオンに対し、アリスは浮かない顔で切り出す。
「ちょっと……哀しいことがあったから、一つお願いがあるんだけど……」
「どんなおねがい?」
円らで愛らしい瞳で聞き返す彼の、綿が詰まった両手をアリスはきゅっと握った。
「吸わせて」
言うが早いが、アリスは鬣のあたりに顔を埋める。毛糸やフェルトの、ふわふわの肌触り。思い切り息を吸えば、日向ぼっこをしていたのか、あたたかくどこか懐かしい香りがした。
すーはー、すーはー、と猫吸いもといライオン吸いを心行くまで堪能したアリスは、ようやくのことで正気を取り戻して顔を上げる。
と。笑顔で手を振る赤い騎士が、数歩先に立っていた。
「見、見、見、た……?」
耳まで赤くなったアリスに、はははとエースは常時の笑い声で答える。
「それ、ハンニバルもやってたんだけど、どういう意図があるんだ?」
「い……癒しの、効果が、」
今にも消えそうな小声で身を縮こませる少女に、もっとすっていいよ! と無垢なライオン達は口々に周囲を飛び交った。