[20/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 紫の凛とした小花と、白い花弁の集合花。飾り気のない野の花は、背の低いグラスから水を吸い上げ、すっかり生気を取り戻した。雑草と呼ばれてもおかしくない草花達は、青青と葉を広げ己の存在を主張している。
役目を果たした水色のリボンは、くるくると綺麗に丸まった状態でその傍らに置かれていた。
置かれたまま、捨てられずに、いた。
アリスは読んでいた本を閉じる。実のところ、この二十ページ程の間ずっと物語に集中出来ていなかった。視界に映り込んでくる、白や紫、若い緑。そして何より、細い水色がどうにも気になって仕方がなかった。
『あら、会えば会うほど惹かれる、って説も広く知れ渡ってると思うけど?』
『それは君の体験が伴っている意見?』
今ならあの言葉の意味が分かる。分かって、しまった。
思って、アリスは天を仰ぐ。瞼を閉じて、深く息を吸い、吐き出しながら観念した。
経験が伴った今。自分は。
今までの「アリス」がどうだったかは分からないけれど。
今の自分は、間違いなく。
「……ふらふらしてなきゃ、会えない時間がいたずらに増えたりしないのに」
会えなくて。だから、会いたくて。それを繰り返す度に――降り積もっていく。