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    Hino

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    Hino

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    🌸不用意に地雷原には立ち入るべからず

    エリク中尉の悩みの種は上官もだがもう1人いる。同じ時期に配属された少尉。
    おおよそ人畜無害で面倒見が良い。ただし部下にだけ。

    上官に当たるゾルタンに対してだけ「どうしてやろうと思ったんだ」と周囲の寿命を縮める言動を取る。メンタルだけ強化人間と陰口を叩かれるほどである。
    ある意味ゾルタンと少尉は良いコンビ。周りは生きた心地がしないが。

    隊に配属されたばかりの頃、重要な報告書の未提出により本国から呼び出しをくらったゾルタンに「やーい失敗作ー仕事してくださーい」と面と向かって発言した事はグルトップでは伝説と化している。
    その場にいた全員が凍りついたし、言われた本人は本気で殺しにいった。
    逃げ足と隠密が得意という少尉。翌朝何食わぬ顔で持ち場について仕事に取り組んでいた姿に周囲は驚愕するしかなかった。

    その後も物応じしない態度で大尉と接し、ある意味上手い付き合いをして今日まで生きている。
    少尉が避雷針のような役割を果たしてくれるおかげでここ1ヶ月はクルーに怪我人もなし。
    まるで昔テレビでやっていた猫と鼠のドタバタコメディを見せられている気分だった。



    そんな少尉がここ数日大人しくなった。
    大尉に不用意な事を言わないのは当然だが、同じ部屋に居たがらなくなった。
    「何かあったのか」と尋ねても歯切れ悪く「言うほどのことじゃないから...」と煙に巻いている。




    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


    遡る事3日前。
    その日は締め日の書類が大量にあり「上手くやれるのは少尉だけだから」と大尉と2人きりで机仕事にあたっていた。
    流作業のためわざわざ離れた机で処理するのが煩わしく隣り合って座り、右から左へひたすら書類を回していく。
    会話もせず黙々と作業していたが先に飽きたのはゾルタンの方だった。
    ペンを机に放って「怠ぃ...」と背伸びをし始めた。
    「ゾルタン大尉って真面目に最後までお仕事できない調整でも受けてきたんですか?」
    「ほぉ?なんだね?喧嘩売ってんなら買うぞ、少尉」
    この程度はジャブ、流石にもう怒らない。

    頬杖をついてジト目で部下を見る。
    「むしろ強化されてないところってあるんです?」
    「話聞いてたか?デリカシーなさすぎだろお前」
    呆れてはいるがまだ手は出ない。少尉としては物理的に痛い目に合わなければセーフと思っている節があり、まだ大丈夫とたかを括っている。
    「五感は強化されてるんじゃないですか?例えば舌とか」
    「ふーん...」

    だから殺気立っていなくて「良い事思いつきました」という顔をしていた上官に気がつくのが遅れた。
    逃げそびれた事を認知した時は大尉に片腕を掴まれてから。

    「んじゃ、試してやろうか?」
    何を試すんです?と返事をするより先に力任せに腕を引かれ、大尉に胸に身体を預ける形になる。
    腕を掴んでいた手がそのまま背中に周り、先程まてま空いていた大尉の腕は私の後頭部を捕らえている。



    驚いて見上げた上官の顔はとても悪い顔をしていた。ベェっと舌を出して見下ろしてくるオッドアイと目が合う。
    舌、長いかもと悠長に考えている間に緩んでいた唇の隙間から侵入してくる何かがあった。
    それが大尉の舌だと気がつく頃には半開きだった口元はこじ開けられた後で随分奥まで突っ込まれた後だった。
    慌てて押し返そうとしても力で敵うはずもなくゾルタンは涼しい顔で口内を蹂躙する。
    口蓋をくすぐり、歯並びを確かめるように舌を這わせる。
    せめて押し返そうと伸ばした自分の舌がゾルタンのモノに絡め取られて余計に深いところまで繋がってしまう。


    上手く息が出来なくて目尻に涙が溜まり酸欠が思考を削ぐ。どうにもならなくてイヤイヤと首を弱く振るとようやく頭を押さえていた手の力が緩み、ずるっと舌が引き抜かれる。
    銀の糸が名残惜しそうに互いを繋ぐ。
    「んぐ......ハッ.....ハァ.....」
    身体が空気を求めて荒い呼吸を繰り返す少尉をよそに「肺活量鍛えた方いいんじゃねーの」と嘲笑う大尉。
    相変わらず背後に回された腕により離れられない。


    「向学心がある少尉殿に知恵を授けてやるよ」
    そう言いながら触れるだけのキスを口元に落としていく。少尉はされるまま微動だにすることもままならない。
    「知っての通り強化人間ってのは生身の人間より感覚が鋭くなってる」
    何度も角度を変えて執拗に啄んでいく。
    「普段は煩わしいだがこんな風に少尉殿の唇が柔らかいのを楽しめるんだから悪かねぇ」
    散々唇を奪って満足したのか、目元から溢れていた涙を舐めとりにかかる。それが余計に怖くて頬を濡らす。それでも恐怖心より心地良さが優って強く拒否できない自分がいる。


    「オイオイ、恥ずかしがってんのか?耳まで真っ赤ジャン、初心だねぇ...俺様はただお勉強させてやってるだけなんだが」
    くつくつと嗤いながら耳たぶを甘噛みしてくる。
    「や、ぃやぁ...」
    回っていなかった頭が次第に思考を取り戻してくると余計に羞恥が積み重なる。


    大尉はニヤニヤしながら首筋へ移動していく。
    「大丈夫か少尉殿、脈が早いぞ」
    心配なんかしてない癖に、と嫌味を言う前に触れられていた部分に痛みが走る。痕を残したんだと直ぐに気がついた。

    普段の仕返しが終わたのか大尉の頭が離れる。それでも30センチも距離はないし身体は拘束されたまま。

    私が顔を真っ赤にしてしおらしくしているのが面白くて堪らないのか大尉は吹き出す。
    「おーい、話聞いてる?それとも足りなかったか?もっかいやる?」
    「も、もう理解できました!」
    慌てて返答する。私は溜まったもんじゃないんだから、早くタスクをこなして解散したいーーー


    「そう?んじゃ今度は俺の口ん中触ってみろよ」
    「...は、...え?」
    まだ遊び足りない大尉は続きを要求するしてくる。
    答えに窮していると鋭い瞳に射抜かれる。
    「あれぇ?少尉殿分かってない?また最初からやり直しか?ん?」
    俺はそれでも良いんだぞと、またキスを再開する。
    どう返そうか考えても案が浮かばない。


    「...じゃ、最初からって事で」
    「待って!...ください、大尉のお口の中、触らせて下さい」
    他に答えがなくて最善策を選択したつもりだが、大尉にとっては術中に嵌ってくれたものだから口元に弧を描く。

    ビクビクしながら遠慮しがちに大尉の口内へ舌を挿し入れる。焦れったいのか舌裏をくすぐり奥へと誘う。
    どうしていいのか困惑していると大尉は勝手に軽く舌を噛んでくる。
    驚いて離れようとするのを察してまた頭を固定して逃げ道を塞ぐ。
    「んー!んっ...ふ....」
    結局良いように舌を絡めてきて初めのキスと変わらない。やってる方は必死だから気づいていないけれど。



    「(あーあ、ひっでぇ顔。そんなトロトロの目ェしてたら離すわけねぇよ)」
    自覚ないだろうが怖がらずにそこらへんの人間と同じように俺に接する命知らずはコイツだけ。
    最初は腹が立ったが懲りずに絡んでくれるんだから大事にしてやるよ。
    だから俺だけを見てろ。




    蕩けきった顔がそのまま意識を手放す直前、唇を解放する。正常な判断もできなくなった彼女は口が半開きになって唾液が漏れていた。

    今だったら「その顔に欲情したから抱かせろ」と言ったところですんなり受け入れるだろう。
    俺様は優しいから可哀想だし勘弁してやるがな。


    「満足したかな?少尉殿」
    「は...はひ...すごく、よかったです...」
    何言ってるか分かってねーなーとニヤニヤする。


    舌なんか弄ってるわけないのに、本当にお疲れ様。




    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



    「大丈夫か少尉、私でよければ相談に」
    「やぁ中尉と少尉、こんなところに突っ立ってどうしたんだ?」

    話を聞き出そうとしていた所に問題児が来てしまった。
    ゾルタンは迷わず少尉に近づきその肩に手を回す。
    いつもだったらそんな至近距離に寄らせもしないのに、具合でも悪いのかと心配になる。

    「大尉、彼女は今本調子では...」
    「んー?どこも悪くないだろ。ナァ少尉殿?」
    「あ、はい...そうですね...」
    珍しく大尉のペースに飲まれている彼女。
    気まずそうに目を逸らしている。

    いつもは上手く躱す彼女がこうだから心配なのだが。
    上手く助けられないエリク中尉はどうしようもなくそれを見守っていた。



    それから暫く大尉と少尉のやりとりはゾルタンが優勢をとって、彼女は振り回され続けた。
    それでも何故だか幸せそうな様子を見てグルトップクルーは皆、何があったかを察した。
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