ヤンデレな彼等に愛される薄暗い廊下に響く靴音が静寂な場に広がっていく。四季は束の間の一人の時間を満喫する為に、誰にも見つからない場所を探していた。薄闇が広がる昼間の廊下は何処か異界じみている為、何処か恐怖心を呷り何かが出そうだと思う。途端四季の足元に赤い猫が擦り寄って来た。
「赤い猫?」
途端背後から抱きしめられる感覚を味わう。然し四季の背後には誰も居る事は無く、振り返るが腕の感覚しかない事に疑問を持ち微かに嫌な予感がした。隣にいる猫は首を傾げ四季を見つめる。途端背後と四季の隣から低い男性の声が響いてきた。
「何処へ行くんだァ?」
「お兄さんに内緒で一人になるなんて許せないなぁ〜」
「ひっ…紫苑さん…真澄さん…」
「あ?そんな反応するなんて酷ぇじゃねぇか。なぁ?四季ィ」
「可愛い反応だけど傷ついちゃうな〜お兄さんがここにいるのに嬉しくないの?」
紫苑に顎を撫でられ、真澄に背後から強く抱きしめる。その腕は絶対に四季を話すものかと、執着する様な強さで四季は抱きしめられた。
「なぁ…四季お兄さんとお話しようか〜」
「お前が俺から離れる事を許すわけねェだろ?」
四季の手を捕まれ引き摺られ何処かに向かう彼等に、四季は束の間の一人の時間が無くなった事に落胆するのだった。
暫く歩き着いた先は保健室であり、扉を開けた先に居たのは無人に京夜に迅が保健室の京夜が座る机の周りに集まり、四季の方を見た。途端彼等は鋭い雰囲気を漂わせていた空気を一瞬で変え満面に笑ったのだ。
「四季くん!来たんだね〜」
「早く来い馬鹿四季」
「遅い待つ時間が無駄だ。早く座れ四季」
四季は京夜と迅の間に座らされ、目の前に広がる色取りどりの綺麗に並べられた菓子の数々に目を輝かせ、彼等を避けていた事すら忘れてしまう。
「美味そ〜!なにこれどったのこの菓子。なぁ食べて良いか?」
四季の楽しげな様子を見た彼等は、鋭く細められた鋭い目や黒く見開く澱む瞳で見つめ、各々四季が幸せそうに菓子を見つめるのに、罠に掛ける狩人の様に笑い、京夜が愉しげに笑みを深め言葉を返す。
「全然良いよ〜美味しいから全部四季くんが食べて良いよ」
「え?良いの皆食べなくて」
京夜が発した言葉に四季は疑問を浮かべる様に返したが、それに紫苑と真澄が答える。
「良いんだよ。前部四季の為に作ったんだから」
「ガキが遠慮すんな。全部食って良いから残さず食えよ」
「じゃあ食うけど…みんな食いたくなってもやらねぇからな!」
四季が勢い良く食べてゆく菓子は次々皿から消えていき、勢い良く食べ進める為に喉に詰まらせ京夜に冷たい紅茶を貰い飲み込む四季に迅が背中を摩る。
「あ〜あお茶あるから飲みな」
「勢い良く食べるから喉詰まらせんだ馬鹿が」
「───んっ、馬鹿馬鹿言うな皇后崎!馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!」
「返しもガキだな」
四季は怒りながらも菓子を食べるスピードは上がって行き、机一面に並べられた大量の皿も僅かに残るばかりになってきた。やがて最後の一口を詰込み食べ終えた四季は、腹を撫で満足そうに吊り目がちな目で笑い大きな声で呟く。
「ふ〜食った食った!美味かったなぁ〜」
「良かったよ。作ったかいあったな〜」
京夜が四季の頭を撫で代わるがわりに、紫苑や真澄に無陀野と撫でられて行き、心地良さとむず痒いい気持ちに身を任せていた四季はすっかり警戒心を解き忘れていたのだ。彼等の異常さを。
「それで僕達の血が入ったお菓子は美味しかった?」
「…………血」
「そう血入りのクッキーやカップケーキ、味を誤魔化すのは大変だったよ〜」
「……………うそ」
「本当だ。今頃テメェの腹の中で消化されて吸収されてんだろうなぁ」
「………………うっ」
口を抑える四季を見つめる彼等の鋭い瞳は四季を居抜き、全てを見透かす様に見逃すものかと四季を見遣る彼等に四季は思い出すのだ。彼等の四季を求める異常な愛情に。
無人が変わらぬ表情で、だがその執着を宿す瞳で告げてくる。
「で、美味かったか四季」
「……美味かったけど………」
無人の刺す様な瞳を反らし、瞬間迅がいつもと変わらぬ表情で明日の天気を話す様に言葉を発した。
「なら良いじゃねぇか。さっさと俺と融合しちまえ」
四季は恐怖心に襲われ、彼等の血が入った菓子を食べてしまった事を後悔した。彼等は四季を片時も一人にしない。四季は人と関わる事は好きだが、いくら四季だろうと一人になる時間は必要な時もある。今日は折角の漸く取れた一人の時間を満喫しようとした際に、真澄と紫苑に話しかけられた。あの時意地でも手を振り抜けば良かったと後悔するが、それでも捕まっていた事だろうと思いも湧いてくる。あの時には全て詰んでいたと言う事だ。
「俺らの血がお前の身体で融合して、肉になったらもうテメェの体も俺の血で形成さるんだろうなァ」
「四季の身体が俺の血で構成されるとか最高じゃん。子供でも出来ちゃうんじゃないの」
「そんな簡単に子供が出来るわけないでしょ。けれどそうだね…俺の血で四季くんの体が出来るなんてなんかえっちじゃない」
「お前は少し黙れ。だが四季の体に俺の血が入るのは悪くない」
「お前の体は俺のもんなんだよ」
彼等の次々話していく声を四季は何処か遠く聴きながら考える。彼等に警戒するべきだった。いつも数々の四季への病んだ愛情で接して来ては、重く蜂蜜の様に蕩けそうな甘い愛を注ぎ毎日誰かしらが片時も離れず愛する事に四季は疲れて来ていた。少しは休みが欲しいと今日一人になれ、彼は好きな事を楽しもうとしていた所で、この事件が起きた。もう全ての重い愛情で胃もたれすらしていた四季は、何時の間にか四季の周りに囲む様に立つ彼等に気づくのが遅れてしまう。
四季の隣へ無人と京夜が挟み、背後の右に紫苑と左に真澄が立つと、斜め横に迅が立つ。四季は何時の間にか囲まれていた事に気づかず頭を抱える中で、四季の片手を無人が取り、もう片方を京夜が握り、右耳の弱い所を紫苑が撫でまさぐり感じるように無でる。左耳の四季の感じる所を的確に真澄が責めていき、迅が髪を柔らかくゆったりと梳いていき撫でやる。四季の甘い声が微かに漏れ出す。
「………ぁ」
「ここ弱かったよなァ?気持ち良いだろう」
「蕩けちゃって食べたくなっちゃうな〜」
「四季くん沢山食べた後は運動しなくちゃね?」
「俺達がこれだけで許すと思うか?」
「俺から逃げたんだから仕置は当然だろう」
四季は手を引かれ無理矢理立たせられると、保健室のベッドに投げ出される。その上に真澄と京夜がベッドに上がり伸し掛って来た。
「夜はまだ始まったばっかだ楽しく行こうぜ」
「俺達のお菓子は四季くんかな。満足するまで食べるからね」
真澄が背後に京夜が前になり、伸ばす手は四季の身体をゆったりとした手つきで這って行き、背後から首筋に何度もキスを落とされ跡を付けられる。
ベッドの左側に紫苑が座りやわりと四季の耳を触り、右側に無人が座り四季の胸元を撫でてゆく。
「四季を抱くの久しぶりだな〜……俺らから逃げた分は返してもらうからな」
「なに時間はたっぷりとある。明日の学校は休みだ」
ゆったりと触られる手に四季の息は上がり、蕩ける快楽に迅が四季の腹の最奥を服の上から強く押した。その行為に四季は甘い声を上げる。
「ここに俺のを叩き込んでやるんだ。喜べよ四季」
四季は蕩ける頭で逃げた全てが無駄だった事を思い返す。一人になりたくて誰にも構われたく無くて逃げた。然し彼等の愛からは逃れられないのだ。
だが四季もそれを悪くないと思っていた。なんだかんだ四季も彼等を愛しているのだ。彼等の注ぎ込む重く苦しい愛を浴びて、幸せと心地良さを感じているのだ。もう彼等からは逃れられない、この重く苦しい程の心地良さを抱え生きていくのだ。
─────ヤンデレな彼等に愛されて