鬼さんこちら、本気で捕まえて?晴天の青空の下全ての鬼と桃太郎の戦争が終結し、互いに戦闘を繰り広げ、犠牲者の数が増大に成り行く桃太郎を話し合いの席に付かせ、激しい論争から互いの落とし所を見付けた鬼と桃太郎は、その長い戦争を終わらせる事が出来たのだ。
鬼門島の羅刹学園に有る一室で、一ノ瀬四季はは珍しく起き上がれる程に体調の良い身体で、窓の外を見ていた。終結後自身の寿命は残り少ないと理解していた四季は、段々と弱る身体に京夜は持って一ヶ月だと診断し、四季の仲間は悲痛な表情を浮かべ俯き、顔を逸らしたりと様々に反応を見せながら四季との最後の時間を過ごした。
彼等の卒業間際、各配属機関を決める段階で四季は彼等と共に卒業する事は出来ない。彼等が卒業する事には、四季はこの世には既に居ないからだ。
彼等は四季が起き上がれない迄に、身体が限界な事を知り教師陣の無陀野や京夜が校長に頼み込み、景色が良い部屋を四季に用意した。四季はそこで日夜を過ごし、最初はガンアクションゲームや銃の分解等をして過ごして居たが直ぐに暇になり、段々とそれらも出来なくなりゆく体に、仲間や世話になった練馬や杉並に雪山訓練の彼等も会いに来る度に、元気に話し仲間も毎日会いに来る為に、四季は最後の余生は幸せに過ごした。
四季の命の燈が消えゆきそうになる瞬間に、幸せそうに笑う四季が心底良い人生で合ったと言う様な表情で呟いた。
「俺皆に会えて、成し遂げられて幸せだった。こんな事言うのもあれだけどありがとな。俺は最後は皆に囲まれて眠れて…凄く満足した人生だったな…」
四季は何だが眠くなり、微睡みの中に落ちて行く自身の死を受け入れ深い眠りへと身を委ねる。
幸せだった。次の人生もまた皆と会いたい。鬼の仲間達とも、恩師達や優しい大人の隊長達にも、桃太郎の世話になった人達にも、会いたいのだ。
然し次の人生は暫く彼等とは合わなくて良い。四季は彼等が酷く四季に執着している事を知っている。だからこそ、暫くは彼等から距離を置き四季の自由な時間を過ごすのだ。
平穏で、戦争の無い世界へ次は生まれ落ちたなら、次こそ四季は彼等が会いに来る事を願う。その時は本気で鬼ごっこしても良いかとも思う。きっと捕まるだろうけど、俺は本気で逃げるから皆捕まえて。
そう思考が浮かび段々と意識が遠のき、四季は息を引き取った。
「13時45分……永眠だよ」
京夜の言葉に辺りの者は悲痛な表情を浮かべ、嗚咽を漏らし泣く者や、静かに涙を流す者、顔を隠し泣く者等、羅刹の子供達は様々な様子を見せた。大人達は誰一人涙を流す事無く、安堵した様に眠る四季を見つめ、彼等は無表情に何処か焦燥とした想いを乗せ四季を見つめる。
鬼機関に所属する者なら仲間の死を何度も経験して来た。然し四季は彼等の特別なのだ。特別な愛し子である彼が、鬼神の力を使い果たし短命で死んで行く。自分達の業である、許されたものでは無い。一生背負う事に決めたその業を深く胸に刻み、無陀野は手に持つ無線へと言葉を放つ。
「聞いていただろう。四季は死んだ」
『本当に、呆気なかったね』
『あの少年の事ですから、死ぬ前に泣き言でも言うかと思いましたがね…』
『思っても無い事言ってんじゃねぇよ。まぁ彼奴にしちゃ悪くねぇ最後だったんだろうな』
『キヒヒ…彼の最初の男に慣れなかったのは残念だけど…彼の死に際この目で見たかったなぁ…良い研究材料になりそうなのに』
「お前達にはもう関係無い事だ。無駄な時間を過ごす暇等無い切るぞ」
無陀野が無線を切ろうとする瞬間に、右京から声が掛かる。
『待てよ。お前ら四季を見つけんだろ。それ手伝ってやっても良いぜ』
「条件は何だ」
『俺らも四季に会える所にする。四季を閉じ込める所は本島だ』
「……致し方ないな。分かったその条件を呑もう」
無陀野の言葉に、嬉色を乗せた声で唾切が言葉を鋏む。彼の声が静かな部屋に響いた。
『決まりだねェ。じゃ僕は研究があるから、四季君が生まれる迄連絡はしないよ』
続々桃達から無線が切られ、緊張に包まれている部屋では、溜息を付く声が至る所から響き、無陀野は場を閉める様に言葉を掛ける。
「この様な事になったが異論は無いな。受け付けないがな」
「無陀野先輩ィ一つ質問なんですけど、桃が約束を破る事はないんすかね」
「恐らく無いだろう。彼奴らと俺達の執着は比べる事すら憤慨物だが同等だ。だから信用は出来る」
「なら良いっすけどね。俺は黙りますわ」
紫苑の茶化す様な言葉に、辺りからは言葉が広がり軈て騒めく室内に、誰かが呟いた。
「四季は次生まれたら俺らから逃げねぇよな」
「まぁ…あの馬鹿だから逃げんだろうな」
「俺らの思いを最後迄理解出来なかったクソガキはそう思ってんだろうな」
「逃げる事なんて許されないんですけどね」
「彼奴本気でにげれっと思ってんの?最後まで生意気なクソガキだわ」
「……これで良いのですか…」
様々に話す彼等に、印南が呟いた言葉に最後を引き取りを医者として見送った京夜が、四季を唯一人話す事無く無言で見詰めていた彼が漸く言葉を発する様に呟く。
「良いわけ無いでしょ。四季君が逃げるなら僕達も本気になるよ」
京夜が四季の体温の冷えた頬に手を当て決心する様に言葉を放った。
「逃げるなら捕まる覚悟はあるんだよね四季くん………覚悟してね」
─────君が捕まるのは既に決まってる事なんだからさ
そう呟いた京夜の瞳は笑う事なく冷笑し、彼等も全員真剣な表情で決意を決める。
お前が逃げる気なら捕まえよう。均しく次は平和な世で、お前を囲い誰にも見えない場所で過ごすのだ。それは確定事項であり、決定している事だ。
逃がさない、逃がすものか四季。お前の人生を次は俺達に差し出す番だ。
そう内心呟いた男達は、幸せそうに笑みを浮かべ眠る少年の前に佇み、各々に死を受け入れる時間を胸に作るのだった。
四季は転生し七歳へとなった。転生した先は鬼の夫婦の元であり、終結から七年経った今は鬼の存在を世間は段々と受け入れ、鬼が暴走しない薬も、過去の鬼への暴虐の研究から桃太郎機関から作られ鬼の暴走を防ぐ事が出来ている。
四季は炎鬼としてまた生まれ、然し親ですら知らないその事情に東京でも都心から外れの方に住んでおり、彼等にも未だ見付からず元気に成長していた。
今日は四季を連れて東京都心に用事があり、四季を一人にする事も出来ない為に大人しく親に手を繋がれ着いて行く。何処かの交差点の信号を渡り、後一歩で渡り終わるとの時に後ろから驚愕する様な声が聞こえた。
「……四季」
「……四季君」
「紫苑さん…馨さん……」
瞬間紫苑が血蝕解放する前に炎に乗り、その場から消えた四季は母親の制しの声も聞かずに遠くに逃げた。逃げなくては捕まってしまう。四季の自由が消え、人生を楽しむ所か永遠に監禁されるのが目に見えていた。だから今は逃げる。四季にも自由が欲しい。齢七年で外とはおさらば等四季にも嫌で合る。必死に逃げた先、突然大量の大剣が降り注ぎ急ぎ避けた。
「ソードの7」
「……月詠さん」
「やぁ…四季君!随分な挨拶じゃないか。まさか僕達から逃げるなんてね」
「悪いけどまだ自由が欲しいんで、俺は逃げるぞ!!」
炎に乗り月詠から降り注ぐ、大剣や大砲を避けて行く。攻撃が降り注が無くなり安堵を着こうとしたのも束の間。
「今日の怒りは何を産む。怒気怒気ヒステリー」
目の前に大砲を掲げ攻撃を向ける好戦的な笑顔の矢颪に、四季は幼い表情が引き攣りビルに着地した足で矢颪を困惑した様に睨み付けた。
「よぉ、四季やっぱ俺らから逃げたな。良い度胸じゃねぇか」
「後十年後に会いに来るから!またな矢颪!!」
「そんなに待てる訳ねぇだろ!!バカが!!」
矢颪のバズーカに炎に乗り続々逃げて行くがこの分では体力が持たない。休憩をと思い何処かの路地裏へと隠れる。
狭い通路から辺りを見回し安堵の息を吐くと、途端何も無い所から声が聞こえた。
「何処に行く気だクソガキ」
「!!真澄隊長……」
「チッ外したか」
真澄の攻撃を必死に避け、隙を見て壁を蹴りビルの上に炎で登る。然しその先に居たのは猫咲で合った。
「見つけましたよ。こんな所に隠れていたんですね…まぁ知ってたんだけどなぁ?お前の行動ぐらい手に取る様に分かんだよ」
「前髪パイセン……」
「覚悟は出来てんだろうな?」
猫咲の攻撃を避け、ビルの上を走り次のビルに飛び移る。瞬間空砲が放たれビルが半壊する所で、四季は後一歩踏んでいたら落ちていただろう事に安堵し下へと悪態を着く。
「危ねぇだろう印南さん!!」
「四季君が逃げるのが悪い…それより余所見していて良いのか…?」
瞬間猫咲のナイフが迫るのに必死に避け、微かに切れた皮膚に恐ろしくなるも炎に乗りその場から離れる。
ビルを三つ跨ぎ、息を切らし立ち竦み荒い息を整えると、瞬間背後から気配を感じ振り向いた。
「おー流石鬼神のガキだな。戦場の勘は衰えてねぇってか」
「……右京さん」
「まっここで終わりだけどな。洗脳度80パーセント」
瞬間四季の前に鋭い蹴りが降りて来る事に必死に飛び下がると、砕け散るビルに慌て広い場所に着地する。右京相手にはタチ悪く、彼一人の相手でも今の四季には骨が折れる中、気配を感じ振り向くと血の教科書を開く彼が立っていた。
「血蝕解放、聖人廃業。よぉしーき君。紫苑さんから逃げてくれちゃって…良い度胸じゃない?」
「紫苑さん……」
「覚悟は出来てんだろうな……」
スーホの赤い馬。
紫苑から放たれる血の馬を避け右京の攻撃も避ける。隙を見て、炎に再び乗り走り行く四季は後炎は三度程しか使えない事を理解していた。
地面に降り立ち人に紛れる事にした四季だが、歩いていると肩に誰かの足に顔を打ち、前を向き声を掛ける。
「いったいなー……誰だよ打つかって来たの…」
「ごめんねー大丈夫かな〜?四季君」
「おやおや当たってしまいすみませんね。御礼にお兄さん達が喫茶店に連れて差し上げましょう」
「こんな所迄馬鹿だったか」
「唾切さん…黒馬さん…皇后崎」
唾切に身体を持たれ捕獲される四季は暴れるが、ビクとも動かない腕に希望が閉ざされる事を思い浮かべ何か希望は無いかと思い足掻いていた。
「離せっ!離せよ!!」
「ハハハッ元気だねぇ。まぁ僕から逃げようとしたんだ此の儘連行だけどね」
黒馬は唾切が四季を両腕で持ち上げ楽しむ様子を警戒を解かず注意深く観察している中で、四季の身体に揺らめく炎を確かに見た。
「唾切!手を離しなさい!」
「えっ」
黒馬が叫ぶ瞬間唾切の目にも見えた揺らめく炎に、思わず手を離し後ろに下がる瞬間大きな炎柱が上がる。
「うわぁぁぁぁん!!!!唾切の意地悪!!!」
炎柱が消え泣きじゃくる。四季が瞬間炎に乗りその場から消える。皇后崎が置い四季を捕まえ様と後からビルを登り、刃物を飛ばすが四季は器用に泣き叫びながら避け、皇后崎はこれ以上追えない事に四季を睨み付け叫ぶ。
「チッおい四季!!逃げたら分かってんだろうな馬鹿が!」
「皇后崎なんて知らねぇ!!バーカバーカ!!」
「ガキの癖に……」
四季が炎鬼の最大質力で飛び回ると、辺りは何処かの広い土地に居て、四季は何処だか分からない場所に不安が浮かぶが逃げ様と足に力を入れ走る。
雨過転生、途端辺りに弓の轟音が降り注ぎ、四季の辺りの地面が罅割れて行く。瞬間二体の足音が聞こえ、聞き馴染みのある声が聞こえて来た。
「ほらだから言っただろう?一ノ瀬は此処に来るとね」
「お前の力なのは癪だが。確かに此処に来たのは事実だ」
四季は尻餅を付き見上げると楔と無陀野が見下ろす光景に、既に使える血液も残って居ない事に滝の様な汗をかきながら、目の前で笑顔を浮かべる胡散臭い男と、無表情を貫き通した男を見て思う。詰んでんじゃねぇかと。
「鬼ごっこは終わりだ。もう投降するか」
「今諦めたら更に酷い事にはならないよォ?」
四季は後ろに下がり急ぎ立ち上がり振り向こうとした瞬間何かに頭を打ち、瞬間身体を抱き上げられた。
「はい捕獲。いや〜やっぱダノッチ凄いね〜」
「世辞は良い行くぞ」
「探知しといて良かった。四季君久しぶりだね。僕達との鬼ごっこ楽しかった?」
「遊摺部…京夜先生……」
「そ、君の京夜先生だよ」
「僕は四季君にまた会えて嬉しいよ」
「……っ、俺も嬉しい!!」
四季の周りに足音が集まる。羅刹の仲間も、先程戦い会っていた鬼や桃太郎の他に、神門や冬呉も四季の周りに立ち見詰める。
京夜が問いかける様に優しく語る。その笑みは何処までも優しく、然し逃がさないと瞳が語っていた。
「四季君皆君が嫌いな訳じゃないんだ。君が好きだからこんな事してんだよ。信じて貰えないかも知れないけどね」
「ううん…信じる。皆俺の事大好きだからな。俺と一緒に居たいんだろ」
「そうだよ。皆四季君と共に居たくて、君を捕まえようとしたんだよ」
「俺皆と居るよ……外に出れないのも…今の母さんや父さんに会えないのも嫌だけど…皆と居るなら構わない」
決意の秘めた瞳に、京夜再び確認を繰り返す。その瞳は最後の逃げ道を用意している様に四季に語りかける。
「お母さんにもお父さんにも会えないけど…本当に良いの」
「良いよ。俺は京夜先生や皆と生きるから」
「……外には出れないよ」
「たまには出して欲しいけどな!!デートとか行こうぜ!!」
四季の言葉に辺りで見守る大人達は息を吐き、安堵する様に体の力を抜く彼等に、四季は幸せそうに笑った。
「みんな!!ただいま!!!」
四季が満面の笑みで言った言葉に、各々四季が手元に戻って来た事に漸く正常に息が出来る感覚が身体に戻る。四季が居なくては生きていけぬ程に、この七年間は地獄で合った。
四季の家族には悪いが、この七年で準備はしていた。母親を間男を使い浮気させ、父親に若い女を宛てがい家庭崩壊一歩寸前迄追い込んだ。四季が居ない所で冷えた家庭で合った彼等から、四季を手放す大義名分を作る事に成功した彼等は、正々堂々四季を養子縁組して自身達で育てられるのだ。
「四季行くぞ」
「おう!ムダ先!」
無陀野に抱き上げられ歩き出す彼等は、その場で四季の周りに集い歩き出す彼等に、少年は捕まり一生甘い檻に囲われ過ごすのだ。
鬼ごっこで捕まった少年は、高層マンションの最上階に囲われ籠の鳥へと変えられる。
過去に広い翼を持っていた少年は、今や切り落とされた翼で、足枷を付けられ広いベッドの上で多くの男達に愛でられるのだ。