庵53『俳優になるのを諦めた僕が、なぜか人気俳優の付き人をやることになった話』⑥ 例の社長が逮捕された、と後輩から連絡がきたのは、自宅アパートの片付けをしている最中のことだった。
『事務所にも強制捜査が入って書類関係ごっそり持っていかれて、所属タレントのほとんどは仕事全部キャンセルになっちゃって、もぉー、大変ですよ!』
ふたつ年下の後輩は今年大学生になったばかりだ。高校生の頃からモデル活動をしており、将来有望株なのだが、どういうわけだかシンジに懐いてよく声をかけてくれる。
「そうなんだ……すごいことになってるね」
あの日のことを他人に話すわけにはいかない。
初耳です、というふうに返事をするしかなかった。
『多分、あの事務所もうダメですよ。僕、移籍しようかと思ってます』
「いいところが見つかるといいね」
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