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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    アルハイゼンの婚約者だけど、マハマトラになりたいので婚約破棄します!
    タイトル通り。捏造しかない。最新任務バレない(やってない)です。今しか書けないものがそこにはある。プラスタグを使いたくて書き始めたけど15000字くらいある。
    何でも楽しめる人だけ。

    「今、なんと……?」
    私は今言われたことが信じられず、呆然と尋ね返した。
    「すまないが、君を正式なマハマトラにすることは出来ない、とそう言ったんだ」
    管理官は申し訳なさそうな顔をする。
    だが、その声音は硬く、教令院の決定は覆せないと言外に言わんばかりだ。それでも私は諦めきれずに、管理官に問いかける。
    「どうして……、何か問題があったでしょうか?解答ミスがあったとか、これまでの仕事で不備があったとか……」
    「いや、そう言うわけじゃないんだが……」
    じゃあ、どういう訳だと私は管理官を睨みつけそうになるのを必死で我慢した。すぐに熱が入るのは私の悪い癖だと先輩にも言われている。ここで噛み付くのは浅慮だと誰にでもわかる。
    「君はその……アルハイゼン書記官の婚約者だろう」
    「はい?」
    思いがけない名前が出てきて私は目を瞬いた。
    確かに、彼とは婚約をしているが、名ばかりのそれを意識したことがほとんどなかった。あまり口にもしないため、どうして管理官知られているのかも不思議だ。だがすぐに、正式なマハマトラになる際に、私の調査をしたのだろうと思い至った。
    「それに何か問題が?」
    「ああ、マハマトラと学者が親しい間柄になるのは問題なんだ。例えば、アルハイゼン書記官に何らかの疑いがかかった時に、君の調査結果が信用できなくなる」
    「私が情に惑わされてアルハイゼンを庇うと仰るんですか?」
    つい声が高くなってしまう。
    これまでの私の仕事ぶりを見てそんなことを言えるなんて……!
    「いや、私は君の仕事をぶりを良く知っているし、信用できると思うのだが、教令院自体はそう見做さないだろう。すまない、私一人で君の責任を持てないんだ」
    管理官のそういう正直で率直な言葉が私は割と好きだったんだけど、今回ばかりは最悪だった。
    そりゃあそうだろうとは思いながらも、今までの私の献身を知っていてそんなことを言うのだろうか。良いように酷使していた癖に……!
    何より腹が立ったのが、私にとって何の意味もない婚約が私の夢の邪魔することだ。
    「じゃあ、私がアルハイゼンの婚約者じゃなかったら、正式に採用していただけるんですね?」
    「え?」
    私の言葉が思いがけなかったのか、管理官は驚いた声を上げる。なんでそんなに驚くんだろう?
    「採用していただけるんですね?」
    圧力をかけるように繰り返した私に、管理官は少し沈黙をした後にため息をつく。
    「そうだな。教令院が君を不可にした理由は一学者の婚約者であるという理由からだ。婚約者じゃなければ、許可をするという解釈ができる。通るかは分からないがな」
    「分かりました。では、そのように手続きをしてきます」
    私の言葉に管理官は妙に困惑しているようだ。
    私とアルハイゼンが親密だとでも思っていたんだろうか。教令院でも一回も一緒に歩いたこともないのに。
    「プライベートなことに立ち入ってしまうが、君は……望んでアルハイゼン書記官と婚約したのではないのか?」
    「はい。お互いの両親が決めたことで、私の意思は一切関係ないものですから」
    「そうか」
    管理官は頷いた。
    「分かった。進展があったらまた訪ねてきなさい。その間は君は見習いのままとなる」
    「……分かりました。では、失礼します」
    礼をとって部屋を出る。
    ドアを乱暴に閉めそうになった自分を何とか堪える。腹立たしいのもそうだが、同時に落ち込んで肩が下がっているのを自覚する。
    「ようやくここまで来たのに……、まさかアルハイゼンに邪魔をされるなんて……」
    まあ、でも良い機会なのだろう。
    彼は私にまるで興味がないのだから、いずれこういう時は来たはずなのだ。

    私とアルハイゼンが婚約をしたのは、お互いの父親が共同研究をした際に、意気投合して決めたからだ。
    生まれる前からそれぞれの家に年の近い男女が生まれたら婚約すると誓約をしたと聞いた。
    そのため、私はアルハイゼンの婚約者としてずっと生きてきた。彼とは誓約により、月に一回会うものの、義務のようなものだ。
    アルハイゼンは誰が見ても整った顔立ちをしているし、話自体は面白いし、意識していた時期もあった。というか、婚約者とか関係なく、私は彼が好きだったのだ。
    だが、アルハイゼンは自分の優秀さの自覚や自己肯定が強く、情に動かされない人間だと分かって、諦めることにしたのは成人する前の話だった。
    一体どう育ったらあんなふうになるんだろう。あの自信はちょっと羨ましいが、そこまでの勇気と変人になる決意は私には出来ない。幼いころから一緒にいたけど、アルハイゼンのことは私にはさっぱり分からなかった。
    というか、婚約者なのに彼が私に好感を持っているそぶりが一つもないのもどう言うことなんだろう。他の人間に対する態度と全く同じようにみえる。
    彼が今まで私と婚約をし続けていたことも不思議なくらいだ。
    彼のことだから取り立てて破棄する理由もなかった、程度の話なんだろうけど。っていうか虫除けみたいに思っているのかもしれない。前に君がいると人間関係において無駄な対応をせずに済む、と言っていたし、あの時は意味が分からなかったけど、あれ、自分の顔と地位によってくる人間を追い払えるって意味なんじゃ……!?
    冗談じゃない。あの知論馬鹿に良いように使われて堪るか!
    タイミングがいいことに、明日の夜は食事会の日だ。その時に切り出すのがいいだろう。
    成人したら本人達の同意で破棄出来ることになっているし、アルハイゼンも私の提案を断る理由はないはずだ。ただ、婚約破棄をスムーズに承諾させるために、必要な理由をきちんと言えるように考えておかないといけないことは分かっていた。感情的な話し方をしたら何かしら指摘されるかもしれない。
    長い付き合いのせいで、アルハイゼンのことがよく分かっている自分にためいきが出そうだったが仕方ない。
    もう大人なんだし、これからあのアルハイゼンにだって恋人が出来るかもしれない。その時に私の存在は邪魔な筈だ。
    ……何だか、少し苦しいような感情が湧いてきた気がしたけど、これは私が彼と長い付き合いだからだろう。

    夜の食事でレストランで会ったアルハイゼンは、いつも通り整った容貌に冷静な声音、淡々とした表情をしていた。
    いつもはここ1ヶ月の出来事を話したりするが、今日はどうにも話題が見つからなかった。
    「今日はいつもより口数が少ないが、何かあったのか?」
    いつ切り出そうか迷っていた私に、アルハイゼンはそんなことを言う。今日に限って気遣うようなことを言うんだ、と思いながら、私はゆっくりと口を開いた。
    「アルハイゼン」
    「ん?」
    「お願いがあるんだけど……」
    「君が頼み事をしてくるとは、ここ最近なかったな。俺に出来ることなら力になろう」
    頼み事をしなかったのは、アルハイゼンが承諾してくれなかったのもあるけど、私が自立したかったからだ。理由は黙ったまま、私は要件を切り出すことにした。
    「婚約を破棄して欲しいの」
    アルハイゼンの手が止まる。特徴的な瞳が私の心情をはかるようにじっと見つめてくるのを私は見返した。
    「私がマハマトラになるために研修を受けてるのは知ってるよね。でも、正式に認められるにはあなたとの婚約を破棄しないとならないって言われたの」
    「君は管理官に信用されていないのか?」
    破棄しないとならない理由を察してそこまで辿り着いた上で、そう聞いてくるのにイラっとするが、私は冷静さを保って頷く。アルハイゼンが気遣いよりも真実を優先する人間なのはよく分かっている。
    「そうみたいね。実力不足だと指摘されても反論はしないわ。でも良い機会じゃない?アルハイゼンも私と婚約を続けるメリットなんてないでしょ?」
    「同意できないな」
    やけにはっきりと、即答されて私は驚いてしまった。
    「ど、どうして」
    「君の状況の不本意さは理解するが、俺が婚約破棄に同意するまでの理由にはならない」
    「でも、アルハイゼン、私と婚約を続けるメリットなんて女避けくらいでしょ……?!これから恋人を作ることもあるかもしれないし、破棄した方が良いんじゃ……」
    「君は誰かと恋仲になる予定があるのか?」
    「ないけど!」
    思わず声が大きくなり、周囲の客が私たちを振り向いたのに、私は慌てて声のボリュームを下げる。
    「私がずっとマハマトラになりたくて頑張ってきたのを知ってるでしょ?この2年は認められたくて仕事に明け暮れた。なのに婚約が理由で不可にされるなんて、あんまりだよ。あなたが情を重視しないのは分かってるけど、これまで付き合ってきて少しでも私の未来を考えてくれるなら、同意して」
    「君が何と言おうと答えは同じだ。同意できない」
    「どうして!?」
    机に手をつき立ち上がる。
    アルハイゼンは私の剣幕にも眉ひとつ動かさなかった。本当、小さいころからいつでも冷静だよね。と思いつつ、馴染みだから何を言っても無駄だということが分かってしまった。
    「……分かった。もう良い。あなたに期待するのが間違ってた」
    「その言い方は心外だ。これまで俺は君の望みを聞いてきたと思うが」
    「そんな覚えないけど」
    反射的に返してしまったが、アルハイゼンが本気でそう思っていることをきちんと察して、目を見張る。
    「なんで同意できないの?まさか私との婚約に執着があるわけ?」
    「執着という言い方は不本意だが、君との婚約は必要なものだ」
    どういう意味か全く分からない。
    アルハイゼンは、私が好意を伝えたときに、それを受け取らなかったのだ。
    「私の未来より自分の希望が優先なの?まあそうだよね。アルハイゼンは私のことなんて興味もなかったし」
    「それは君の誤解だ。興味のない人間と月に一度顔を合わせるほど暇じゃない」
    「わからないよ」
    拳を握ってアルハイゼンを睨みつけた。
    「あなたは知論派の学者なんでしょ。言葉の専門家だよね。言葉はお互いを理解するためにあるものでしょ?私、あなたのこと、ずっと分からない」
    最後の方で声が震えてしまったのが情けなくて悔しかった。これ以上情けない姿をアルハイゼンにみせてしまう前に身を翻す。
    アルハイゼンが私の名前を冷静に呼んだのが聞こえたが、振り返らなかった。

    「あー……やってしまった……」
    翌朝、朝日が室内を照らし出したのに、重たい気持ちでよく眠れなかったベッドから起き上がる。
    「すっごいやな奴だった。昨夜の私」
    熱くなるのは悪い癖の忠告がまるで意味をなしてなかった。これじゃ冷静に審判を下すマハマトラには程遠い。
    あのアルハイゼンが傷ついたとは思わないけど、でもどう思ったかが少しだけ気になった。
    私にとって、マハマトラになるのはとても重要なことなのだ。恋愛をして結婚して家庭を作って、なんて幸せを考えることもあるけど、きっと一生私は教令院に関わり続けるだろう。
    私にとってそれだけ教令院にいることには価値があるのだ。
    教令院で見習いのマハマトラといえば、私のことを指す。なぜなら、大抵のマハマトラは試験に合格したらそのままマハマトラとして働き始めるからだ。
    見習い、という立場での採用は私が初めてであり、それは地位を重んじる教令院において、逆境を意味することでもあったけれど、私は構わずにその採用を受け入れた。
    そもそも、その採用理由は、私が神の目の保持者だという、貴重性からであることを理解していた。でも、これからの働きで認めてもらえればいいと思ったのだ。
    先輩の仕事についてまわり、地味な文献の参照をこなし、その合間に過去の審判を学んで、時には逃げ回る違反した学者を追い回して、2年。
    2年と言うと短いようだけど、学生として見るならば長い期間だ。
    確かに私もその間にたくさんのことを学べたけど、とため息をついて、教令院へ行く支度をする。
    こうなったら仕方ない。アルハイゼンを説得するのは難しいだろうし、功績をあげて信用してもらうしかないだろう。まだしばらく掛かるとは分かっていたけど、私は諦めの悪い人間なのだ。もしかするとその間にアルハイゼンを説得できるかもしれないし。
    でもアルハイゼン、自分の意思曲げないし、謝らないからな……。
    教令院についても悩みを振り払えずにいると、背後から声をかけられた。
    「顔色が悪いな。大丈夫か?」
    マハマトラの同僚が心配そうな顔で私に近寄ってきたところだった。
    「話を聞いたよ。試験は残念だったな。これまでの仕事ぶりを見れば、君が信用に値する人間だって分かるだろうに」
    「ありがとう。でも仕方ないよ。マハマトラは教令院の知恵の番人だから。不安要素を排除するのは当然だと思う」
    私の冷静な言葉に、同僚は少しほっとしたようだった。
    「こんなタイミングで悪いけど、違反した学生がいるかもしれないんだ。君にはその調査を頼みたい」
    「仕事だよ。プライベートは仕事には持ち込まないから大丈夫。心配してくれてありがとう」
    「いいや。でも今回の調査は君一人で行うことになる」
    「え?」
    思いがけない言葉に私は同僚の顔を見返した。
    「そう。大マハマトラが君に任せるって言ったからね。俺たちは君のことを信用しているよ」
    「先輩が?そっか、ありがとう……」
    気を遣ってくれているらしい。きっと私の功績を立てる手伝いと、信用を示してくれているのだ。マハマトラという職業は決して生優しい仕事じゃないけれど、働いている人はみんな決意と信念を持って行動している。私はそこが好きだった。
    アーカーシャで資料をもらい、調査内容を確認する。
    どうやら、とある論文の盗作についての疑惑の調査らしい。一人の学生が、他の学生たちの研究を盗んでいる疑いがあるようだ。その学生の情報と、論文が送られてくる。
    「送った論文は盗作の疑いがかけられている学生が提出したものだ。他の学生は泣き寝入りをしているという噂だが、具体的な被害の話は出てこない。君も知っての通り、個人が得た知恵は共有されるべきものではあるが、知恵を得た人間が蔑ろにされてはならない。その才能や展望は守られるべきものだ」
    「うん。そうだね」
    知恵は大切なものだ。私は学生ではないけれど、彼らがどんなに人生を費やして研究に没頭しているのかを知っている。
    「任せて。必ず疑惑を確かめてみせる」
    「ああ。何かあったらフォローするから、何でも相談してくれよ」
    「ありがとう」
    同僚に手を振って私は身を翻した。
    気持ちを切り替えて調査に入ろう。まずは盗作の疑惑をかけられている生徒に話を聞くことから、と調査計画を立てる。
    被害が本当にあったとして、泣き寝入りするのは弱みを握られているか、モラで黙っているかのどちらかの可能性が高い。関係している学生の数は多く、随分と時間がかかりそうだった。
    結局その日は学生の居場所を探して翻弄し、帰るのは夜中になってしまった。学生は不規則な生活を送っている人間も多く、また今回のような事件ではマハマトラと話していることで無実の学生に妙な印象を与えないように気をつけているため、余計に時間がかかってしまうのだ。
    教令院内では私が目立つことは自覚していた。
    「やっぱりモラが絡んでいそうだけど……」
    研究を盗まれた方が声を上げないのは、どうやら多額のモラが支払われているからのようだ。
    つまり、盗作ではなく違法売買ということになる。そうなると罪に問われる学生は増えるだろう。学生たちに処罰があることは憂鬱な気分になるが、それがマハマトラという仕事だ。
    でも不思議なのは、盗作した学生が支払うモラの出どころだった。この学生はたくさんの研究費をもらっている訳ではないし、実家が金持ちな訳でもない。
    一つ手に入れた情報によると、その学生がオルモス港によく出向いているらしい。明日はオルモス港での調査になるだろう。

    商人の集まる港に出入りするとなると、モラの出どころに想像がつく。
    知識の違法な売買は教令院では重罪だ。慎重に行動する必要がある、のだけれど。
    「どうしてあなたがここにいるの?アルハイゼン」
    道端でばったりと出会ってしまったアルハイゼンに私はため息をついた。
    「君と同じように仕事で来ている」
    「書記官がオルモス港に用があるわけ?」
    「ああ。必要ならいくつかの業務についての説明をするが」
    「いらない」
    アルハイゼンに構っている暇はないのだ。そのままアルハイゼンと別れようとすると、アルハイゼンは私を上から下まで眺めるようにした。
    「……何?」
    「君は仕事中はいつもそのような格好をしているのか?」
    そう言われて私は自分の服を見下ろす。
    教令院の制服を好き勝手に作り直した服は、スカートには動きやすいように短くした上で深くスリットを入れ、神の目の保持者であることを見せるために太ももにバンドでつけている。腕も肩も邪魔なので切ってしまい、教令院の制服だとわかる人は少なさそうなデザインになっている。
    「そうだけど」
    「君が教令院を特別に思っていることは知っているが、そんなに露出する必要があるとは思えないな」
    「私のセンスに文句があるの?それとも私の容姿に文句があるの?」
    「どちらも違う。衣服は人の印象に与える影響が大きい。君は自分でその服のデザインがどういう印象を与えるのか分かっているはずだ。君は今、唯一の女性マハマトラだろう」
    「私の格好のせいでマハマトラに悪い印象を与えるって言いたいの?」
    「若干ネガティブに寄っているが、その解釈で間違っていない」
    「残念。もうすでに私は見習いマハマトラとして有名なの。悪い方にね。服装の一つや二つで印象が変わることはないわ。せめて婚約者らしく、俺がその格好はいやだ、とか言ってみたら?」
    「俺は君をたくさんの品のない視線に晒したくない。なるべく露出を控えてほしい」
    さらりとそう言われて驚きのあまり口を開けてしまう。
    「え?」
    「君が邪推しないように付け加えておくが、それは好意的な感情からくるもので、君がそんな格好をしていることを恥だと思っているわけじゃない」
    「えっと……」
    「だが、一つ気になることがある。君は俺と会う時は真逆の上品さを意識した格好で来るな。何故だ?」
    この流れでそんなことを問いかけられると思っていなかった私は、上手く言い訳を考えつくことが出来なかった。
    「な、なぜって……。アルハイゼンはその方が好きかなって…………」
    「俺の好みだと思って同じ分類の格好をしてきたのか?」
    「そうだけど……」
    「俺が以前、君のロングワンピースを似合うと言ったから?」
    「そ、そうだけど………………」
    何で覚えてるの!?と思った私に、アルハイゼンはふむ、と考えるような仕草をする。
    突然なに?どういうこと?妙にどきどきとしてきてしまって、でもアルハイゼンのペースに巻き込まれるわけには行かないと、呼吸を整える。
    「もういい。アルハイゼンも仕事があるんだよね。私ももう行かないと」
    そう言って足を踏み出そうとした私に、アルハイゼンは口を開いた。
    「確かに昨夜の君の言うことは筋がある」
    足を止めてアルハイゼンを振り返る。
    「俺は君にヒントを与えなさすぎた。その件に関しては謝ろう」
    「へ?」
    謝ろう、なんて言葉がアルハイゼンから出てくるなんて思わず、私は息を呑む。
    「だが、君にも問題がある。君の問題については後で君にも謝ってもらおう。では、また」
    そう言ってさっさと歩き去っていってしまったアルハイゼンに、驚愕と理不尽さで私は拳を握りしめる。
    「君にも謝ってもらおうってなに!?」
    既に去ってしまったアルハイゼンから答えがあるはずもなく、私は頭を抱える。
    相手に答えを出させようとするところ、本当に昔から変わんない。
    昔は答え合わせ好きだったんだけどな。と私はため息をついた。

    ここ最近のオルモス港はいつにも増して賑やかだ。というのは大規模な改修工事が始まろうとしているからだった。
    人の出入りが増え、たくさんのモラが動くと聞いて、飛びつかない商人はいない。
    渡された情報を確認した時にわかったのは、学生が盗んでいる知識は、大部分が土木建築に関する技術に関わるものだということで、となるとオルモス港に繋がっているのは納得できる流れだった。
    「やっぱり、知識の違法売買につながってた……」
    読んだ論文から推察できる技術と、オルモス港改修の規模を照らし合わせるに、知識に支払った金額を十分取り戻せるコスト削減が見込める取引なのだろう。
    普段なら危険な取引に関わらなさそうな性格の学生たちが知識の売買をしたのは、このオルモス港の改修工事があったせいもあるだろう。今の時期だけ、知識の価値が上がったのだ。
    教令院の研究資金の引き締めがいつも学生たちを苦しめているのは私も知っていることだ。
    だからと言って、教令院で学んでいる以上はの規則を破っていい訳ではないし、知識の責任を放棄してもならないと私は先輩たちに教わった。マハマトラになるためには大切な信念だ。
    だからこそこれ以上の事件の拡大を防ぎたかった。
    商人の情報は商人から買うに限る。彼らは自分の利益と損失に忠実だ。何人かの商人に声をかけ、交渉し、いくつかの噂と情報を手に入れた。
    同じようにこの取引に興味を持っている人間がいること。また、商人との仲介と護衛役に傭兵が雇われているという話も聞いた。単独で調査をするのは危険だとも感じる。だが……。
    「その学生が傭兵と一緒にいたんですか?」
    「はい。羽振りの良い学生だったのでよく覚えていますよ。場所までは聞こえませんでしたが、誰かと落ち合うという話を聞きました。やっぱりなんかの違法取引ですかね?」
    カフェの店主に話を聞くと、そんなことを返されて私は調査中です。と返事をする。
    「情報ありがとうございます。また何かありましたらお願いします」
    謝礼のモラを渡すと店主の顔がぱっと笑顔になる。適正な情報量より少し額が多すぎるかと悩んだが、与えられている資金をここで使い切ってしまうことにした。残しても半端な金額だ。見習いゆえに与えられる調査資金は少ないのだが、今後の情報源を考えるのも大切だ。使うタイミングの見極めが上手くなっていると良いんだけど。
    私は教えてもらったとおりに急いでオルモス港から出る。すでに夕暮れをすぎて、夜が訪れようとしていた。
    でも、なんで隠れる場所の多いオルモス港の中で取引をしないんだろう?
    嫌な胸騒ぎがした。

    オルモス港を出て、それらしい足跡を辿る。
    その中の1人はどうやら神の目の保持者らしく、元素視覚を使えば簡単に追いかけられそうだったが、同時に緊張が高まった。
    もし戦闘になったりしたら、神の目保持者と戦うことになる。
    念のために同僚にオルモス港の外へ追いかけることを伝えるよう、うろついていた学生を捕まえて頼んではきたが、間に合わないことは分かっていた。でも保険にはなる。
    足跡が道から逸れたのに、私は周囲を見回して、方向を確かめる。薄暗いから少しの草木の影でも誤魔化せそうだ。少し離れたところに身を潜ませて、先を急いだ。
    居た……!
    松明が一つだけついている。その灯りの中で、教令院の制服をきて、手に鞄を持っている学生が1人見えた。顔を見ると間違いない、今回の事件の犯人だ。
    それから傭兵が8人に商人が1人。こちらは商人の護衛だろう。学生はなにやら熱のこもった様子で商人に話をしている。耳を澄ませると、かろうじて会話が聞こえてきた。
    「君の研究は素晴らしいよ。オルモス港の工事関係者も今回の技術を喜ぶだろう」
    「ええ、そのはずです。僕の研究が今回の改修に貢献出来て、僕も誇らしいですよ」
    お互い違反だと分かっているくせに、平然とそんなやり取りをしている。
    「では、そろそろ引き渡しましょうか。あまり時間をかけて厄介な連中に見つかってもいけませんから……」
    そう言って学生は持っていた鞄を商人に差し出し、商人もモラが入っていると思われる袋を学生に渡す。
    その瞬間を狙って飛び出そうとした時、傭兵の1人が2人からそれぞれ鞄と袋を取り上げた。
    「え?」
    驚いた商人と学生に、私は一度足を止める。
    「何をする!」
    「この情報とモラは我々がきちんと取引に役立てるから、そう心配するな」
    「な、お前達は私が雇った傭兵だろ!契約違反をするのか!?」
    「そんな契約しらねえな。お前らは誰にも通報できないはずだ。この取引が明るみに出たら、教令院に捕まるに決まってるからな!」
    「どちらにしてもあなたたち全員が捕まるわ」
    私は身を隠していた草むらから出て、全員の前に立ち塞がった。
    「その鞄とモラを置いて全員投降しなさい」
    「な、何だ貴様!」
    「神の目保持者の教令院の女?まさか……」
    「マハマトラか!」
    見習いだけどね、なんて皮肉は内心にしまう。話が早いのは都合がいい。
    背中にこれみよがしに槍を現す。動揺した傭兵たちが、武器を構えるのに私はため息をついた。
    「そこの学生と商人。しゃがんで頭を抱えてなさい。巻き込まれたくなかったらね」
    ひいいっ!と声を上げて言われた通りにする学生と商人の位置を確認する。
    「絡み付け」
    スキルを発動すると、蔦が傭兵達の体を縛り上げて動きを止める。
    その間に下から槍を振り上げ、棒部分で頭を殴りつけて昏倒させる。蔦を振り払って駆け寄ってきた2人の傭兵の攻撃をしゃがんで交わし、そのまま足を蹴り飛ばす。バランスを崩したところを、1人は棒先で腹を殴り、もう1人は踵で蹴り上げて、これで3人。
    相手の戦力的に、私1人で問題なさそう、と思った瞬間、残りの傭兵が私に向かってくる際に松明を倒してしまったのが見えた。
    ぱっと地面の草に火がうつる。
    「うわっ」
    その火に驚いて、鞄を持っていた傭兵が、鞄を放り出し─、鞄はそのまま火の中へ落ちていく。
    「っ!」
    地を蹴って私は空中で鞄を何とか掴み直す。傭兵達の方へ向き直った瞬間、剣が迫ってくるのが見えた。
    「く……っ」
    ガキン!と受け止めた金属音が響いたが、片手で抗うには体勢が悪く、力が入らない。
    「そんなもん庇ってなんになる!」
    嘲笑する傭兵に歯を噛み締める。こいつらには分からない。知識の探究がどれだけ重要で、恵まれたことなのか。
    不利は分かっているのに手放せなかった。
    何度か打ち払われて後ずさる。
    「これで、終わりだ……ッ!」
    振り上げられた刃を見上げ、私は槍を構え直した。躱せなくても、相打ちくらいは……!
    「───!!」
    私の名を呼ぶ、聞いたことのない声がした。
    声はよく知っているものだ。でも彼がそんなふうに叫んだのは初めて聞いた。驚いて受け身の体勢をとってしまう。
    鞄を抱えたまま地面に叩きつけられる。
    そのまま私は気を失ってしまった。


    幼い頃の私の夢は学者になることだった。
    知らないことを面白おかしく話してくれる父に憧れて、お伽噺の代わりに学術書を分かりやすく教えてくれるようにねだったし、また、幼なじみのアルハイゼンと勉強をするのが好きだった。
    私が学者になれないと理解したのは、十歳の頃だ。
    私の母は砂漠の民で、それゆえに教令院には拒絶されてしまうだろう、という話を父達がしているのを聞いてしまった。
    実際に調べて、100年に1人の逸材でもなければ入るのは難しいのだと知った。
    それでも諦めきれなかった。
    私にとって知識とは、星のようなものだ。一つ一つでは小さい明かりだが、たくさん集まれば夜空を照らすこともできる。例えば、暮らしている家で使う道具、街で渡る橋、生えている草花や、天候。その一つ一つが、仕組みや原理を知るだけでまるで違うものに見える。
    知らないことをたくさん知りたかった。そのために教令院で学生として学びたかった。学者になりたかった。
    でも、道は続いていなかった。
    入試を受ける資格を貰えなかったことをアルハイゼンに伝えた時が、人生で一番悲しかったかもしれない。
    「君は学者に向いている。この結果は残念だ」
    アルハイゼンがそう慰めてくれたのはありがたかったけど、彼は学者になれる生まれだ。
    「ありがとう。でも仕方ないよ。教令院がそう決めたならね」
    そう言って私は曖昧に微笑む。
    「学者の道は諦めるしかないかな。でも、私にはアルハイゼンがいるから全部失ったわけじゃないし。サポート出来るように、」
    「俺は君のサポートなど必要としていない」
    「え?」
    淡々と言われた言葉が、拒絶したみたいで私は息を飲んだ。
    「そして、今の君との婚約を肯定しているわけじゃない」
    そう言われた時の衝撃は、学者になれないと分かった時と同じくらい大きなものだった。
    「そ、そっか……。ごめん、そうだよね」
    「君には」
    「じゃ、じゃあ私、お父さんに報告しないといけないから。じゃあね、アルハイゼン」
    何かを言いかけたアルハイゼンに、私はこれ以上傷つくのが怖くて、すぐにその場から逃げ出したのだ。

    しっかりとした腕が私を抱きあげている。体格差のせいで周りが何も見えない。でもそれが誰かはすぐに分かった。
    「……アルハイゼン?」
    どうしてここに、と呟いたアルハイゼンの手に鞄があるのが見えて、なんとなく経緯を察した。
    「君は人の話を聞かないから、先に結論を言う。俺は君の情熱が好きだ」
    「え?」
    言われたことが理解出来ずに目を瞬いた私に、歩きながらアルハイゼンは言った。
    「あの入学資格が認められなかったことを君が報告した日、俺は君に君の未来の妥協先を俺にして欲しくなかった。君がどれほど学生になることを望んでいるのか知っていたからだ」
    「ごめんなさい……」
    確かにそうだ。とても失礼なことを言った。
    落ち込んだ私にアルハイゼンは続ける。
    「確かに俺を妥協に選んだことは許容しがたいが、俺自身は君との婚約を不満に思ってはいない。俺も婚約を前提に君に俺が好きな君の在り方を強要した。それが婚約を肯定していない、という発言につながる。君には伝わっていると思っていた。君はそれから道を探してマハマトラになる決意をし、それに向かって努力をしていたからだ。だが君は俺の指摘に鼓舞されたわけではなく、俺との関係を諦めた上での模索をしていたんだな」
    「そ、れは……」
    その通りだ。
    1人で生きていくための、もしアルハイゼンと結婚することになり、アルハイゼンが私に興味がないままでも、懸けるものがあれば生きていけると思った。
    「君がマハマトラになることは、学生になるよりも最適な判断だ。君の目的は知識の探究ではなく、どちらかというと収集だろう。今回の事件の発端となった論文も理解には専門的な知識が必要となる。マハマトラは審議のためにさまざまな知識を身につける必要がある。君はよく勉強している」
    「ちょっとまって、急にどうしたの?アルハイゼン」
    褒められることなんてそんなになかったのに、アルハイゼンの急な態度の変化に困惑していると、前を向いていたアルハイゼンが私を見下ろす。
    「君に俺がどれほど怒っているのかを理解させるための前提情報を伝えている」
    「えっ」
    「君は、」
    感情を飲み込むようにアルハイゼンが言葉を区切ったのを、私は目を丸くして見上げていた。
    「俺があの瞬間どれほど君を失うことを恐れたか分かるか?」
    言われて絶対絶命だった瞬間を思い出した。気にしないようにしていたけど、ずっと痛んでいる体のあちこちの痛みを意識してしまった。アルハイゼンが下ろそうとしないのは私が怪我をしているのが分かっているからだろう。
    「君が諦めない人間だということはよく知っている。俺が君に何も言わないのは君を信用しているからだ。そして距離を取っているのは、俺との関わりが君の立場に不利になると理解しているからだ。君に伝えるべきだった」
    「……なんで言ってくれなかったの?」
    「君は俺が好きだからな。だからまさかマハマトラになるために婚約破棄を申し出てくるとは思わなかった」
    「なんで私がアルハイゼンのことを好きだってことになってるの!?うっ……」
    「大きな声を出すな。背を打ってるだろう。肺にダメージがあるかもしれない」
    確かに痛むけどそれより重要な話でしょ!と睨みつけると、やれやれといわんばかりにアルハイゼンは息をついた。
    「君のことを見ていれば分かる。それに俺よりも君の好みの男がいると思えない」
    「はあ?」
    あまりの言い方に唖然とした私に、アルハイゼンは僅かに眉を顰めた。
    「いるのか?」
    「いないけど!」
    「そうだろうな」
    そうだろうなじゃない。何を言ってやったら良いのか分からずに混乱していると、横抱きにされたままオルモス港へと到着する。
    「このままウィカラ隊商宿に連れていく。後の処理は俺がしよう。君は医者に見てもらうといい」
    「うん……。ありがとう」
    心配してくれてるんだけど、一言一言が余計なんだよなあ、と思った私に、アルハイゼンは続ける。
    「だがその前に君の謝罪と返事を聞いておきたい」
    「へっ……」
    足を止めてアルハイゼンが私をじっと見下ろすのに、私は居た堪れなくなって視線を逸らす。
    「なぜ視線を逸らすんだ?」
    「私はアルハイゼンほど鋼のメンタルをしてないの。……はあ、なんでこんな展開になってんだろ」
    アルハイゼンの胸に頭を預けて私は呟くように言う。
    「私もアルハイゼンが好きなままだよ。勘違いしてて……」
    ごめん、と続けようとした私は、それからふと、アルハイゼンが謝ろうとは言ったけれど、謝ってはいないことに気づく。
    「アルハイゼン謝ってなくない?」
    「謝っただろう」
    「『謝ろう』は謝罪じゃないでしょ!なんでそう人に頭を下げるのが嫌なの?」
    「適切だと判断した場合はきちんと謝罪している」
    「私にはしてない。知論派のくせにちゃんと謝罪も出来ないの?」
    「大きな分類で非難しても意味がない。知論派の人間が全て会話術に長けているわけではないからな」
    「この……っ」
    罵ることばに悩んだ私に、アルハイゼンは言った。
    「君が今後婚約破棄を言い出さないと確約するのなら、君のいう通りに謝罪しよう」
    そう言ったアルハイゼンに呆れる前に、私の言葉がアルハイゼンには思っていた以上にショックだったらしい、ことをなんとなく察した。なんとなく。
    「じゃあ別に謝罪してもらわなくて良いです」
    「今回の件は君の強情さが招いたと考えているが、君の見解を聞きたい」
    「正式なマハマトラになったら結婚してもらうから」
    言い切って恐る恐る顔を上げると、アルハイゼンは目を瞬いて私を見ていた。
    「…………」
    「だからなんでいつもやられたと思ったら返事で優位に立とうとするの?」
    「していない。君の誤解だ。それに俺は優位に立とうとしているわけでは……」
    「あのー……」
    声をかけられてはっと振り返ると、応援として読んだ同僚が苦笑いを浮かべながら私たちに近寄ってくるところだった。
    「邪魔してすみません……。その様子を見ると無事なようだね」
    「あっ、えっ、ご、ごめんなさい!」
    少し身を捩ってアルハイゼンの腕から降りると、アルハイゼンは不満そうな顔をした。見なかったことにする。
    「来てくれてよかった。怪我をしてしまったので、現場をそのままにしてきたの。処理を手伝って欲しいんだけど……」
    「分かった。詳しい場所を教えてくれ。それから……その、後で書記官の報告も……」
    「はい…………」
    「それなら現場には俺が案内しよう」
    それからアルハイゼンは私を見やる。
    「ウィカラ隊商宿で大人しく待っていてくれ。また後でじっくりと話そう」
    アルハイゼンは私に鞄を渡すと、同僚と連れ立って現場へと戻って行ってしまった。
    「……せっかくアルハイゼンが確保したのに、私に今回の証拠渡したら駄目じゃん……」
    私の手柄だとは絶対に言わないだろうし、君が守ったものだ、と本気でそう言うだろうとはわかっているけど、私はアルハイゼンが急にすぐ隣に感じられて鞄を握る手に力が入る。
    「責任取ってもらわないとね」
    アルハイゼンを少しの間だけ黙らせようと思って大胆なことを言ったけど、今更じわじわと恥ずかしくなってきた。
    あとから負けず嫌いなアルハイゼンに何を言われるのかもちょっと怖いけど、今は休んだ方が良さそうだ。
    思ったよりしっかり歩ける。やっぱり抱き上げられてたのは過保護な対応だったな、なんて思いながら、私はウィカラ隊商宿に向かった。

    「そういうわけで、私はマハマトラとして信用を得るまで見習いとして働くことにしたよ。見習いになるのにも時間がかかったし、どうせ諦められない性格だから、気長に頑張る」
    後日の食事会で、私はアルハイゼンにそう報告をする。
    「ああ、応援しているよ」
    「ありがとう」
    分かっていたというような反応に、私はアルハイゼンから婚約のことに関して何も言及がないことにびくびくしていた。
    静かに進む食事会にすぐに耐えきれなくなり、私は自分から問いかけてみる。
    「何か……他に聞きたいこととか……ない?」
    「ないな。事件についてはお互いに報告書を提出済みだ」
    「そ、そっか……」
    「この前の君の発言に対してのことを言っているのなら、君に言わせたままにしておくことにした」
    「え?」
    言い返したがるか、会心の一撃をしてくることが多いのに、どう言うことだろうとアルハイゼンの顔を見る。
    「普段素直じゃない君が大胆なことを言う機会は早々ない。貴重な台詞の印象を半減させるつもりはない」
    「あ、アルハイゼン〜〜〜!」
    私の恨めしげな声にアルハイゼンは唇に小さく笑を浮かべる。
    不満の表情をしながらも、私は負けた……と内心で白旗を上げていた。言い方はともかく、そんなに喜んでくれたんじゃ、撤回するわけにもいかなくなってしまった。

    アルハイゼンからの拒否がないことが、遠回しの承諾と言うこともわかっているし、喜んでいるのは私も一緒だ。
    まあ、そう、素直に言ってあげる気なんて、しばらくないけど。
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