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    ROMUKUSUROMUKUSU

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    ROMUKUSUROMUKUSU

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    お見舞い話の草稿です。ここからもう少し薄めたり広げたり、時間旅行をしていく予定。
    エロはありませんが、ちょっと後ろ暗い要素があります。

    #新しい人へ
    toNewcomers

    新しい人へ1・2―すさんだ時代のかなたへと、浮かんではまた、消えてゆく。





    新しい人へ/1


    ※※※


     年長者に手を引かれて、鏡の前の椅子に据えられる。
    少し、髪を刈り、額や首筋に刃を当てられた。

     死ぬまで僕は、この感じかもしれないな……。ハサミは嫌いなんだ。
     


     さて。
     どうしてよりによって、社長が引率しているのか。
     化粧部屋の隅で、イヤホンを付け、でかいiphoneでなんか動画を見て、時々、画面に文言を打って、険しい顔でスワイプし、コーヒーを飲み、ダラダラして、時間を潰している。


     部屋に入る前まで、秘書の男性も、僕のマネジメントもいたけど、所用で離れてしまった。
     お昼にまた合流しますと。

     うん、みんな、ついていけないという顔をしていた。
     怖がってる。奇妙な光景を。
     わかります。ぼくもだよ。


     前掛けを外され、肩を払い、鏡越しにニッコリ笑顔で会釈をされる。
    朝一番、ここから歩いて十分のサロンから出張したそうだ。
    今日は巡回日で、自動車で老人ホームを二件回るという。
    このご時世、千代田区でも当たり前の働き方だ。
     立ち上がって、深く頭を下げた。

     コップのお水をもらい、社長のおやつのクロワッサンをかじり、部屋を出た。

    「淳治くんが来るからね。ちゃんとしないと。ホレ、屑が付いてるよ。口拭いて。」
    「......。」
     ノリの効いた、象牙色のボタンダウンに、墨の黒の、絽のようなテクスチャのスラックス。
     明るいブルーグレイの上着を羽織って。      隅々まで、体型に合っている。多少お腹が出っ張っていても。

     靴下も、皮靴も、いつものスニーカーとはかけ離れた、銀座三越仕様。
     メガネも腕時計やらも。

     社長のお出かけである。



     さっきまで、某戦艦ゲームキャラのきわどいコスプレ配信見てたけど。ア○レンの長波な。

     あの、今日はお休みをもらっているのですか?

     朝っぱらから、隣に俺しかいないからといって。
     ロックロールですね。しかも社用端末。


     配信者のハンドルネームばかり口にしていたので察したが、ゲームは今殆どやらず、日々投げ銭競争に淫しているらしい。

    ああ、一周回って、社長っぽい。下品で良い。



     そんな話をして、玄関ロビーへたどり着く。


    「もうちょっと、背筋伸ばそ?じゅんじくんくるんだよ?」
    「......。」
    背が高い社長。下から睨みつけ、しぶしぶ頷く。
    淳ちゃんは、別に。つい最近会ったから。
    そんとき彼は寝間着のような格好で、二日酔いで胃液を戻し、目が据わり、悲惨な寝ぐせを放置していた。


    社長の内ポケットから呼び鈴が聞こえた。


    受付を過ぎ、路上へ出て、もう一組と合流する。

    遭ったことのない、初老の男性。
    身なりは整っている。長身痩躯、丸首シャツに三つ揃えで、日本橋三越のオーダールームに相応しい、スイスの高級腕時計。
    帽子を取っている。


    最上階から、泥んこの、モグラの僕の前に降り立った。

    ※※※

    ―理想の最後を誓っても。



    四人揃った。

    付添人が、いない。


    その他の面々は後ほど追いかけると、確かに朝一番に言われたが、どういう事なんだろう。

     
     ロビーのガラス越しに、大型ハイヤーの影を見た気がしたが、結局、二組に別れた。
     僕らは緑のコンフォートに押し込まれる。


    「本当に志の高い音楽家にしか、彼は頭を下げない。」
    割と、気ままにやらせて貰っている、今の僕には縁がないな。

    彼?

    「〇〇〇〇さんを、しっている?」
    「知らない。お笑いの人?歴史上の人物?」

    「えー、どちらかというと、後者。」


    「きょうは、その人のお友達に会いにいくって聞いた。」

    口ぶりからして、相当な年配者と思われる。会社に関係がある? 歴史、か。

    授業中の女子学校を右脇に見て、 新宿通りへ突き当たる。
    信号が赤になる瞬間、メーターが切り替わり、先に右折した社長らの車影は消えた。

    「そういえば、四人一緒じゃあまずかったのかな。」

    七人乗りの大型ハイヤーの件。

    「...。ナカコー君は、興味あるの、常務に。」
    「ジョウムさんは、朝から、ずっと淳ちゃんと一緒だったの?」
    「そんなわけは無い。
    さっき一番上の階に呼ばれたのは、多分、 初対面では無いから。
    それだけ。あなたの子守してた社長と比べたら、普通に他人です。」
    妙齢の中国人通訳と室長にお見送りされて、エレベーターへ乗り込んだと。

    眼鏡の顔を覗き込む。バツの悪そうな顔。
    なぜか、僕の左肩にぐいぐいと迫ってくる。
    僕は着けていた花粉症のマスクを外す。
    意味もなく、笑ってしまった。

     今日は、二人になれて、良かったね。
    すごい顔してたもの。玄関で目が合ったとき。
    酸欠のような顔で、それからずっと、こちらしか見ない。


    常務は優しい人なのだろう。
    淳ちゃん以外、三人の、瞬時の合意と決裁があった。
    イジるなんて忍びない。繊細な心を踏みにじって、そんな。
    バックミラーを凝視する。
    今日、全然知らない人に会うため、一緒にお出かけをしています。
    僕はずっと笑っていた。
    淳ちゃんは、また顔を両手で覆う。かわいい。

    でも、ビジネスルック的なものって、被る確率が高いんでは。
    自意識過剰な気も。
    同じTシャツで被るのとはまた違う。
    冠婚葬祭だってそう。

    僕らだって、靴は被っていないし、淳ちゃんは腕時計してる。
    シャツと、カーディガンと、ズボンは.....。
    おそらく、完全に、同じ店の、同じ棚のやつ!!!サイズまで!
    偶然だと思われます。新婚さんかな〜?
    ユニクロではありません。


    実は、昨日の朝まで僕は登校拒否していたのだけど。
    今日は色々と、面白いなあ。

    はあ、慰めのキスでもしようかね。
    扉から放り出されそうだが。


    ほんとに、した。
    運転手さん、気づいていたら、びっくりさせてすみません。

    ※※※



     経営管理室の面々で、おはようの挨拶があって、彼とは目も合わせないうちに、別れてしまった。
     そして、タクシーが来る時間ギリギリを待った。
     一人が、上まで迎えに来てくれた。
    テレビで時々拝見する彼、会うのはもう三度目だが、どうにも頼りなく、押しが弱い。ナマエを忘れそうになる。


    きょうは、〇〇さんに言付かっただけで、ボク個人は気楽な御使いである。

    しかし、実はあまり良く知らない、噂に名高い曲者の3人を、どうやって引率するか。

    このお見舞の重さがある。



     彼らの言う「社長 」と会って、何を話そうかずっと悩んでいた。
     ロビーではナカコー君にべったりで、縮こまっており、おどろいてしまった。

     猫背でモグラみたいなほうは、堂々としたものだ。
     ためしに、彼も役員室に一度呼んでみたいな。

     聞けば化粧部屋を借りる前、世話人を追い返したそうだ。
     大事な社員を雑に扱わないでほしいが。

     ボクの秘書は先に病院に向かい、介添人の方にお土産を渡している。
    けさの様態次第で、延期の可能性があった。


    朝一番。じつは、通常の面会時間をはみ出して押し掛けるのだ。
    もちろん私達の希望ではない。

    昼ごはんは必要ないと思うが、帰りに四人が休憩できる店を手配するよう言った。 各マネジメントはそこに待機させる。



    ......。もうすぐ曙橋駅を過ぎる。三十年近くご無沙汰の土地だ。わりと近所なのにね。 
    昔は、テレビ局に付いた音楽出版社の居城であった。
    ただ、僕が関わるのはもっぱらラジオ放送で、有楽町のスタジオ周辺で仕事を見ていた。


    新しい人へ/2


    ※※※

     覚醒剤所持の現行犯で、「社長」傘下のエレポップユニットの一名が逮捕された。音楽の傍ら俳優業で華々しい活躍をしていたため、メディアの扱いが大きい。

     もう一人、かつて僕も面倒を見ていた売れっ子も、同容疑で目星を付けられ、秒読みとのことだ。彼はすでに他社へ移ったが、二度目の摘発だ。

    クスリの是非は、世代間で意識の落差が激しい。

    ...昨今は、モルヒネの影が異様に大きく、濃くなっている為だ。
    ザナックスなどの鎮静剤と並んで、安価で強いものが、大量にばら撒かれている。

    そこへつながることだけは避けなければならない。


    警察から預かった資料に、担当弁護士に、そして経緯を知る事情通の口からも、繰り返し。

    「これは国家間戦争だ」とすらいう。


     身辺調査は広範囲に及んでいる。
     当然のように「社長」も探られた。
     今回の彼の場合、入手ルートが比較的明るかったが、しかし。

     以前から、パーティでのふしだらな使い方をめぐって、若い女性タレントを預かる他事務所より抗議を浴びている。
     映画撮影の合間に、暴力団関係者とつるんで遊んでいたとの告発も。

     知っていた。私達は慣習に基づき、蓋をした。時代に逆らおうとした。

     しかし現行犯では庇い切れない。
     
    せめて裁判の証言くらいは、荷が軽くなるよう都合を付けてやりたいが。

     そして、オリンピック。
     公共放送。
     バッジをつけた者、省庁関係者が、何度か弊社へ顔を出した。


     現在は社内でも殊更厳格な規定を設けている。
     
     英米を中心とするポップ・ミュージックの世界では、どうも馴染みがありすぎる。
     わたしたちの畑にいると、本国で根付く、深い罪の意識が鈍る。

     曳かれ者になったバブルの申し子たち。
     すでに孫がいてもおかしくない年代なのだ。
     歯が溶け、脂が抜け始めた顔で、荒れた潮流に攫われる。
     
     かつて僕も、毎日縮こまって暮らしたことがある。二十五年前、飲み屋で上司に肩を抱かれた。

     かわいそうなことをした。
      なんとか、さいごまで、匿ってやりたかった。
     僕達が欲したのだ。
    ホンモノの息遣いを知るために、小金を渡し、学生のような身分の頃から欧州を行き来させた。地下で踊り明かしていた。


     他社IP関連の損失補償額の大きさはゴシップになった。
     ほぼ事実である。

     社内外のPropsの沈没。
    「社長」の部署に関しては、一定期間、新規リリースや企画の立ち上げに大きな制約が伴うこととなった。
    強硬に、解体を押す声があった。オリンピックがあるのだから。

    手打ちとしても、かなり厳しい。
    保険で賄われる損失でも、けじめは必要とされる

    現在公開準備中の、ティーン/ヤングアダルト向け映画に企画から参加しているが、関連部署のレーベル名を伏せた。



    ナカコー君のフィジカルリリースも(手土産を持たせて)当分他社へお願いすることになっている。

    おそらく彼は、ここの、空になった奥の間の主になる。
    年功序列なんてものはないが、苦境を凌ぐ一時の、ぶれない要石の存在が請われている。

    彼は電気ともそれなりに縁がある。
    レーベルカラーを代表する、一九八〇年前後のパンク、NW作品、エレクトロニック・ミュージックへの愛も深い。とにかくよく食べる。

     打診した他の売れっ子共、年長者は返り血を避け、逃げた。
    自分のファンベースを守るのが第一。
    当然である。

    そういう者には楯突かず、社内他レーベルの移籍を合わせて提案している。

    すでに移籍しているが、縁故がある者たちも慌てて呼び寄せている。
    彼が寂しがらないよう、そして風通しを良くしなければ。



    意思確認は済ませている。

    淀みに触れたことがある者、その中の輝き
    を掬った者。

    現在、ナカコー君は薬物のもたらす幸せとは距離を置く立場だ。
    敬愛するミュージシャンが、自宅で一人、不審死したと知って。
    モルヒネの常用が報じられた。


    若い頃は相当柔らかい感じだったのだけど、、、。

    今の淳治君の立場も、ハーネスになっている。

    ただ、良く訊くと、淳治君だって、昔からふにゃふにゃな態度だったりするのだが?
    シューゲイザーだもんなあ。



    『奥の間』の価値を理解することは、歴史をよく噛み砕くことである。


    そして、人間の愚かさや脆さを、その輝かしい叡智の礎として受け止めることである。

    主を引き受けるには、強い後ろ盾以上に、胆力が要る。


    ※※※

    「spotifyで遊んでいるらしいよ。」
    秘書の送ってくれた、彼の枕元の写真を見せる。
    あの黒い画面が、たしかに。

    調子のいいときは、よく動く左手でスマートフォンを触っている。
    筆談もできるし、満足に歩けず喋れずの身で、ビデオ通話は重宝する。

    「反対派なんじゃないですか?」
    机上のスピーカーに繋げた、ipod classicも映っている。彼の大事な子どもたちによる、珠玉の名曲が詰まっているだろう。
    「俺たちだってそうでしょ、基本的には。」
    「僕はリンゴの方ですが、手放せなくなっています。CDは買いますけどね。」


    渋々、同意する。
    アニメを通じて、海外で火のついた楽曲が、指数関数的に知名度を上げる。
    アルゴリズムが引導する、三年前に発表された一曲が延々とチャートで輝く現象を目の当たりにした。
    DL販売や動画サイトでの再生より、トレンドの囲い込み、連関のスムースさ、欲しい物の網羅感が強い。

    五年前にはあり得なかった事が、日本の音楽家たちの背中を強く押している。
    収入になかなか結びつかないのが歯痒い。


    、、、バンドの故障者をかばうために始めたソロ活動。幸運なタイアップで、転がり込んだ大きな名誉。
    先週スタジオで挨拶をした作者は、やはり戸惑っていた。

    音声通話が来た。モニターする。
    「そろそろ病院に着きます。玄関で後ろの組が降りるのを待ちます。」
    「はい、お待ちかねですよ。」
    「北棟五階のナースステーションへ行けばいいね?」
    「四名来ると伝えています。スーパーカーのお二人がいるんですよね」
    その一言の後、病室の反応が聞こえた。
    、、、。奇縁と言うほかない。

    今日の主賓だ。

    ※※※


    プレイリストに、見覚えのあるアルバムジャケットが並ぶ。
    素朴なギターポップ。きらめくエレクトロポップスの名曲。
    甘く、倒錯したようなシューゲイズノイズ。

    何百万枚と売ったような、ウチのカンバンでは無いのだけど。

    縁あって二つ三つ、楽曲提供を承った、その程度なのに。


    あの写真。
    多分持っているのだろうな。だから呼んだのだ。まったく。
    彼らの曲を聞くと、どうしてもチラつく。
    カメラを預けたものは罪深い。
    まだ残り時間の長い、俺が受け取った時点で、更に気の毒な事態になっている。

    そもそも同性愛者じゃないし。


    けっして、万人が見惚れる一葉ではない。
    熟し自律し、磨き抜かれた艶とも、青く幼い輝きともかけ離れている。
    普通にだらけた、戯れの姿だ。
    照明もドーランもない。


    ただそこにある、深い愛、人生を貫通する因縁は、本物であることが伝わる。

    ここまで上り詰めた彼は、九〇まで生き長らえた。
    黒子に徹しつつ、金も名誉も欲望も、あらかた貪って、そして今、死の淵に居ながらも。

    だからこそ諦め切れず、激しく焦がれている。


    未来を託した、次期社長と目される男にも、生涯の相棒がいる。

    一人では、駄目なのだ。

    彼は心中相手を求めていた。

    ※※※

    (続)


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