えちちマッサージするさねぎゆ(未遂) 世の学生たちが夏休みを享受するなか、教師たちは当たり前だか仕事に追われる。普段は手が回らない書類仕事、担当教科毎にある研修会や講習会、成績が振るわなかった生徒に対して行う補習、忘れてはいけない二学期の準備。
部活動の顧問を任されていればその指導もある。夏休みといえば運動部はインターハイ、文化部だって何かしらの全国大会が目白押しだ。テレビをつけたらクラメイトが画面の中で活躍していた……、なんて事が結構な確率である。開催地が近場ならいいが、日本は四十七都道府県ある。よほど運が良くない限り、全国大会とは日帰りが出来ない遠征なのだ。
今年のキメツ学園高等部からは不死川の実弟である玄弥が所属する射撃部と、冨岡が顧問を務める剣道部がインターハイ地区予選で優勝している。その上、剣道部はインターハイより名誉あるなんたら旗という大会にエントリーしている。以前冨岡が話していたが、不死川は大会名を忘れてしまった、大変申し訳ない。
今年の春に想いが通じ合い付き合い始めた不死川と冨岡に取って初めての夏の前半戦は、仕事一辺倒で終わってしまった。生徒を教え導く教職に就いているのだから仕方がないといえば仕方がないが、もう少し、いつもより時間をかけてイチャイチャしたいと健全な成人男性でもある不死川は思ってしまう。有り体に言えばやりたい。何を? そりゃナニを、である。
春に付き合い始めてから初めてのセックスはゴールデンウィーク、遅くもなければ早くもない。新学期が始まり日々バタバタと過ごしていたと思えば早いくらいだろう。場所は不死川が暮らす部屋だった。
初めてだから……お手柔らかに頼む。
普段ひとりで寝ているセミダブルのベッドにふたりで座ってから、恥ずかしそうに少し俯いて恋人からそう言われて喜ばない男はいないだろう。もちろん不死川は興奮したし、初めて解く問題を前にした緊張感もありつつ、でも見落としすることなく全てに目を光らせて冨岡の身体をグズグズに解いていった。五月の週末はどちらかの家に雪崩れ込み、朝まで繋がって過ごした。
蜜月とはまさにこのことだと不死川も御機嫌だった。
そこまでは良かったのだが、六月に入ってから状況が変わった。インターハイの地区予選が始まったのだ。
冨岡の担当教科は体育で物心つく前から竹刀を握り、日々鍛錬に打ち込んできた剣道少女だった。小中高のみならず大学時代も全国大会出場経験のある彼女が赴任先で剣道部を指導しないはずがない。
大会前になると指導は忙しくなる。そうなれば書類仕事は土曜にまとめて、土曜に終わらなければ日曜も休日出勤、といった具合に事務作業は後回しになってしまう。
さすがの不死川も授業と部活指導と書類作業でヘトヘトになっている恋人に対して、冨岡〜! セックスしよ♡ とは言えない。鬼の数学教師と恐れられてはいるが、恋人に対して鬼畜な真似なんて出来ない。
正直にいって社会人には長期の夏休みなんてものはない。欧米のいうところのサマーバケーションなんで勝ち組だけが掴める嘘っぱちだと不死川は身を持って知っている。世間でいう夏休み期間なんて授業がない分、自分自身の作業に打ち込めるだけだ。
そんななか、不死川の恋人でもある体育教師の冨岡は夏休みを待ち望んでいた。夏休みになれば朝から晩まで指導に打ち込めると部活指導ハイになっている冨岡を、不死川と同僚のカナエが六月から止めに入っていたくらいだ。昭和ならともかく ── 正直にいって、昭和でも本当は良くなかったと思う ── 令和の時代になってまで質より量なんて良くない。
何事も効率良く、この暑い酷暑のなか全国大会で良い成績を残す為には脳筋ではいけない。不死川と生物教師のカナエはデータを元に懇々と冨岡に言い聞かせ、どうにか剣道部の部活を月曜から金曜の午前中のみにさせる事を理事長と校長が同席のもとで決めさせた。比較的涼しい早朝七時半から正午まで剣道部は鍛錬し ── 一時間毎に休憩を取らせる約束もきちんと取り付けた ── 、昼を告げるサイレント共に道場を清掃し帰宅していく。そんな生徒たちを見送り軽く昼食を摂り休憩をしてから、冨岡は上記の仕事をこなしていった。
どの教師よりも早くに出勤し、どの教師よりも遅くまで仕事をこなし帰宅する。それが生徒が夏休みに入ってからの冨岡の生活スタイルだった。有難いことにどちらの大会も盆前に開催され、男女共に良い成績を残せた。生徒以上に冨岡の喜びようはすごかった。
傍から見ているだけで忙しいことがわかるだけに、休める時はしっかり休めと不死川は冨岡に言い聞かせた。その間、不死川は冨岡の体調を気遣って常備菜を作りに精を出し、タッパーに小分けして冷蔵庫に詰めて帰宅後はすぐに食事が出来るように彼女を支えた。本当は掃除や洗濯もしてやりたかったが、恥ずかしいから絶対にやめてくれと本気で懇願されたから我慢した。
洗面所に置いてある洗濯かごにたまった衣類の上に無造作に置かれたブラジャーを見かけた時、つい手が伸びてこんなの着けてるんだな……としみじみ思いながら、サイズを確認したのは許して欲しい。F70、ショーツのサイズはMサイズ。あの時、不死川は俺の誕生日には自分好みの下着を購入して着てもらおうとサイズをスマホのメモ帳に書き留めた。絶賛下着メーカーのサイトで吟味中だ。
それでもこの忙しさも八月前半には終わる……そう自身に言い聞かせながらふたりは今年の夏を乗り切った。
冨岡の先週は怒涛の研修会、講習会の嵐だった。申し訳ないが日曜日はひとりでゆっくりしたいと不死川に連絡をして、昼近くまでしっかり寝て、たまった洗濯物を近所のコインランドリーに持って行きその間に部屋を掃除して、洗濯物を持ち帰り畳んでから荷造りをして夜になって恋人の部屋に遊びに来た。気の利く恋人のことだ、冷えたビールと肴と晩御飯があるに違いない。実際に夏野菜がたくさんトッピングされたカレーはとても美味しかったし、鮭大根は明日作るからとその代わりに出されたスモークサーモンのマリネはビールが進んだ。デザートのきな粉と黒蜜をほんの少し掛けたバニラアイスは甘いものが得意ではない冨岡の舌にも合った。風呂沸いてるぞ片付けている家主より先に湯をいただき、脱衣所に用意されていた不死川母と妹の寿美、貞子セレクトのチャイナ服みたいなトップスとショートパンツの青いパジャマを着て部屋に戻ってイチャイチャして過ごした。
後ろから抱き抱えられている形で座っている尻に、さっきから硬いものが当たっている。確実に二ヶ月近くご無沙汰だった。今夜するのかな……、なんて冨岡が思っていると後ろから風呂入ってくると耳元で囁かれる。こくんと頷いた冨岡の頭を撫でてから洗面所に向かっていく不死川の後ろ姿を眺めながら、歯磨きしておこうと部屋の隅に置いている鞄を漁って冨岡も脱衣所に向かった。
こういった時、ベッドに座って待っているのが良いのか、それとも寝転んでいる方が好まれるのか誰も正解を教えてくれない。2DKの間取り、普段はリビングとして使っている部屋のソファに座っていた。不死川は湯船に浸かっているのだろうか、水音は聞こえてこない。
程なくしてバタンと浴室のドアが開く音がしてから、髪の毛をタオルで拭きながら部屋に戻ってきた不死川は首元にそれを引っ掛けた状態で手本のような御辞儀をしてみせた。腰の角度は90度。
「マッサージさせてくれ!」
切羽詰まった声で頭を下げられた冨岡は何が起きたのだとポカンとしたが、急いでそれをやめさせた。
「どうしたんだ、やめてくれ。話せばわかるから、順を追ってそのマッサージさせてくれ? の真意を教えてほしい」
「そう、あれは数週間前……」
不死川が話してくれた真相はこうだった。
美術教師の宇髄とふたり、他の教師がいない冷房が効いた職員室で昼食を摂っていた時だった。嫁の肩が凝ってたからマッサージしてやったら、お礼に向こうもマッサージしてくれてそのまま雪崩れ込んじゃった♡ という、至極くだらない内容だった。聞いて損したと不死川は甘めに味付けされた卵焼きを咀嚼しながら思った。もちろん、冨岡も話しを聞きながら同じことを思った。あと職場でそんな猥談をするな、せめて居酒屋でやれ。
その時はふーん、バカじゃねぇのと弁当の隙間埋めに詰めていた枝豆を器用に宇髄の口目掛けて投げ込んで遊んでいたが、その晩、なんとなく羨ましくなってきたのだ。宇髄はタイプの異なる美しい恋人が三人もいて円満に付き合いエロマッサージプレイをしている。それにひきかえ、自分は仕事の都合仕方ないとはいえ一月以上ご無沙汰だ。その日の仕事帰りふと立ち寄ったドラッグストアで防水シートとローションを買い物カゴに放り込み、ネットでちょっと布面積が控えめな下着上下セットを購入した。それが今テーブルに鎮座しているビニール袋に入っているものである。
「その袋は一体なんだと思っていたが、この話しを聞いたあとだと恐ろしくて開封なんてしたくない!!」
「俺を救うと思ってこれを着てマッサージされてくれェ!!」
「いやだ、せめて普通に誘え馬鹿者!!」
「普通にもする!!でも今はエロマッサージプレイがしてェ!!」
普通に誘え!! いやだ着てくれ!!
この押し問答は隣の部屋の住人が壁に蹴りを入れるまで続けられたのであった。
※ፗッቻマッサージプレイはまた今度♡