ディフェンスゲーム 二人で練習してるからお前も来いよ。
一方的な連絡に、急すぎる、そんなに暇じゃない、誘うならもう少し早く誘いなよ。暦に突きつける文句を考えながら待ち合わせ場所まで向かうと、それどころではない問題が発生していた。
「おーい、実也!」
「おはよう」
もう昼だよランガ。
普段だったら挨拶くらいしてあげるところだけど今は目の前の光景のほうが遥かに気になる。
「……何それ」
ベンチに座る二人の上空に機械が浮かんでいた。
「ああこれ?ドローン」
「いや、それくらいはわかるし。そうじゃなくて、何でここにそんな物があるわけ?」
「何でって」
暦がちらりとランガのほうを見る。それだけで全て解ってしまった。
愛抱夢か。
天才で大人げない男はもう長いことランガにご執心だ。
似た才能を持つ人同士は惹かれあうというけど、愛抱夢のランガに対するそれは何かが違う。だって滑ってるところならともかく、食事休憩中まであんなにべったり撮るのは絶対変だろ。
「ここんとこ来るんだ。で、あいつにずーっとくっついてる」
「滑るときにあんなのあったら危ないじゃん」
「いや俺も最初はビビってたんだけど……最新のメカってスゲーのな……」
サッと逃げるんだよと、両手を動かして説明する暦の目は輝いている。すっかり懐柔されている。
ランガはといえば、ぼんやりと機械に手を振っていた。もう片方の手でスマホを操作する感じ、多分男に指示されているんだろう。
二人とも受け入れすぎだ。
練習に参加するドローンって何。なんで普通に馴染んでるの。声とかも全部筒抜けなんでしょ?嫌じゃないの?
困惑していた心がじわじわと怒りで満ちてくる。そもそも三人だけって思ったのに。最近忙しくて中々会えなかったのに。お前らが寂しがってると思って僕はちょっと走って来てやったんだぞ!
「うわっ、何だよ!?」
暦の腕を引っ掴んで、まだ機械の前でポーズを続けるランガに思いっきり抱きついた。自分と暦、二人分の体重を受けた彼の身体が揺れるのも気にせず、雪色の髪にすりすりと頬を擦り付ける。
「ランガ」
出すのはとびきりの猫なで声だ。
「今日はず~っと一緒に滑れる?」
「……?うん」
なるべく全員がフレームに収まりきるように密着させて会話を続ける。
「やったあ!そしたら晩御飯も一緒に食べようよ、うちでお泊まり会してもいいよ。暦も混ぜてあげる」
「人をオマケみたいに言うな……」
「ねえいいでしょ?お願い」
「いいよ」
「わーい!」
なんとなく目的が伝わってきたのか微妙な顔の暦と、さっぱり理解していないランガ。二人をぎゅっと抱きしめてレンズに向けて舌を出す。
「生身じゃない人はダメだけどね」
ふふん。勝った!
ランガのスマホから小さく男の声がする。
「――わかった。またね。……実也」
「何?」
「愛抱夢から伝言。次は全力で戦おうね、だって」
「……了解」
隠す気のない殺気が気になるけどスケートでの戦いは臨むところだ。成長してるってことを教えてあげよう。
とりあえず今日は僕の勝利。報酬がないのが残念だけど。
「それで実也、夕飯何が食べたい?」
「……へ?」
「なんか考えとけよー。あと泊まるんなら俺ん家のほうがよくないか」
「え、ええ……?」
……すっごいやつ、あったかも