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    20210326 二十歳になった二人と大人四人の記念飲み すごくギャグ 大人間の公式程度にこじれた感情

    ##明るい
    ##全年齢

    飲み会阿鼻叫喚 あのうだるように暑かった夏から数年。あっという間に年月は過ぎ、いよいよ俺とランガも二十歳。そのお祝いと記念に仲間内でいわゆる飲み会をすることになった、のだが。
    「なんでお前も居るんだよー!?」
     ジョーの店で一番デカい大人数用テーブル。そのど真ん中に本日の主役みたいな顔で座る男が片眉をあげた。
    「は?僕がいたら何か問題でもあるの?」
    「あるに決まってんだろ!誰が呼んで――」
     隣に立つランガが顔をそらす。おい、まさか。
    「……Sの皆でって言われたから、てっきり来るのかと思って……話した……」
     つまりあれか。自分だけ呼ばれてなかったから飛び入り参加か。
    「あの二人もいいってさ」
     くい、と指を動かした先では大人二人が苦い顔で酒を選んでいる。
    「クソ、いいの持ってきやがって……二,三本くすねてやろうか……!」
    「触るな。それは俺が狙ってる」
    「買収じゃねえか!」
    「駆け引きと言え」
     勝ち誇った顔で男が鼻をならした。どこに閉まってあったのか更に一本ボトルを取り出してランガに渡す。
    「成人おめでとう。これは君に」
    「あ、どうも」
     震える肩にシャドウの厚い手のひらが乗った。
    「諦めろ……万が一アイツが何かしようとしたら俺が身体張って止めてやる……」
    「……マジでたのむわ……」
     人生初の飲み会。正直不安しかない。
     
    「あれ……?」
    「どうしたの、暦」
    「いや、思ったより……何ともないなって……」
    「はーっ、初めて飲んだけど何てことねぇってか?そういうこと言うのが子供の証なんだよなあ!」
    「いや、そうじゃなくて……」
     わしゃわしゃと髪をつぶされるのに抵抗しつつ、愛抱夢のほうを見る。
    「勘違いできるのも今のうちだからね、せいぜい飲みつぶされないようにしなさい」
     言葉には毒が詰まっているが、物腰は穏やかだ。飲み会が開始されてから男はずっとこんな調子で、ごくたまに会話に口を挟むことはあるものの、基本的にひたすら飲んでいる。自分はもちろん、ランガにもほとんど絡んでこない。
     まさか本当に仲間外れにされたのが嫌だっただけなのか?変に勘ぐってしまった自分が少しだけ恥ずかしい。そうだよな、大人だもんな。ジョーとチェリーだって今日は一度もケンカを始めない。何故かソワソワはしているが、暦達の会話に言葉少なに付き合ってくれている。お祝いだからそんなことしないんだ、大人ってやっぱそういうものだよな。
    「早くかっけー大人になろーぜ、ランガ」
    「……?うん。……あ、お代わりください」
     またかよ、とジョーがキッチンに入っていく。
    「ほら。もう自分で取りに来い」
    「わかった」
     カウンターまでランガが行くと同時に愛抱夢が飲むのをやめた。
     両手に皿をもってランガが戻ってくる。再び愛抱夢が飲み始める。
     嫌な汗が頬を伝う。
    「見て……!」
    「うぉっ、ジョーのやつ、加減を知らねえのか!?」
     これでもかと盛られたパスタに青い目が輝いて、愛抱夢の飲むスピードが明らかに上がった。
    「また作るからこれ食べて待て、他の人が欲しがったらちゃんと配れって言われた。暦、欲しい?シャドウは?」
    「そんな顔してるヤツから取れるかよ」
    「お、おれも遠慮しとく……」
    「愛抱夢はどう?全然食べてない」
     よせ、聞くなランガ。
    「僕も要らない。肴ならもう充分堪能しているよ」
     よく見れば男の首はもう真っ赤だ。顔にでていないだけでおそらくめちゃくちゃ酔っている。目も若干据わってないか?アレ。
     まずいまずいまずい。多分気づいてるのは自分だけだ。シャドウはすっかり油断してべろべろ。ジョーもキッチンから出てこない。止める筋肉が今この場には存在しない。
    「……肴?」
     持ち前の好奇心を発揮したランガが話を聞く態勢に入ってしまった。皿を置き男の隣に座る。
    「待てランガッ、こっち来い!」
    「そう……僕にとっては、何よりの……」
     男の手がその頬に触れようとした、瞬間。二人を裂くようにテーブルにものすごい勢いでグラスが叩きつけられた。割れたらどうするんだと思うほどの衝撃を出させたのは、チェリー。多少やり方は乱暴だが、助けに来てくれたのだろうか。
    「……おい、愛抱夢」
     低い、とんでもなく低い声が男を呼ぶ。
    「お前……なんだその髪型は……」
    「髪型?」
     あからさまに不満げな愛抱夢がチェリーを睨む。
    「そうだ、髪型だ……。何故前髪を下ろさないッ!?」
     チェリーが顔をあげる。一分の隙もなく赤く染まって、どう見てもこっちもめちゃくちゃ酔っていた。
    「前髪を下ろせ。後ろ髪もだ、切れ。長すぎる!」
    「意味がわからないんだけど」
    「わからないはずがあるか!!」
     ダァン!と再びグラスが叩きつけられる。
    「いいか、髪型を今すぐ戻せ……!フードを被れ制服を着ろ悪趣味な仮面なんてさっさと外せ!」
    「……いつまでも過去にすがってさあ……本当嫌になるんだよ」
     よくわからない威圧感に最初は気圧されていた愛抱夢もすっかり臨戦態勢だ。
    「過去、過去と言いきるのか……俺達の思い出を……!」
    「思い出は過去だろう……それとも何、今だとでも?」
    「お前が望めば俺達はいつだって今にしてみせる!」
    「僕は望まないし俺達じゃなくて君だけだろうが!」
     もしかしてそもそもチェリーは愛抱夢にケンカを吹っ掛けるつもりで、それを密かにジョーが止めていて、彼が居なくなったから今こうやって暴走して、ああ、だから今日はあんなにそわそわと――。
    「だいたい髪型が変わったくらいで文句を言う愛なんて本物じゃあないんだよ。僕ならランガ君がショートだろうとロングだろうと永遠の愛の誓いを破ることはないッ!」
     愛抱夢の発言がかなり危険な方向に走り出した。慌てて彼の横を見ると座っていたはずのランガがいない。
    「おい、暦」
     いつのまに席を離れていたのか、よろよろとシャドウが近づいてきた。片手にはまだ皿を持つランガを連れている。
    「拾ってきた。もう収拾が着きそうにないからお前ら二人は帰れ。俺はジョーを呼んで……」
    「もう構わん!お前を気絶させて髪を剃る!」
    「やってみろよ!剃られるのはそっちの頭だ!」
    「……こいつらを止める」
    「……!」
     おっさん。明らか酒以外が原因で顔色が悪いシャドウのおっさん。
    「あんたみたいな大人になりてえよ……」
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