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    20210610 前日の書き直し もっとぐだぐだギャグ 匂わせ
    二パターン書いたのをひとつにまとめました

    ##明るい
    ##全年齢

    これで完璧愛之介様講座実践編 口から出た言葉に自分自身驚いたけれど、向かいの彼の方がずっと驚いているらしかった。上がった眉にまん丸の目。常にすらすらと言葉を扱う唇は薄く開かれたまま動かない。
    「ごめん」
     思わず謝れば、愛之介は我に返り即座に首を振って否定した。
    「謝ることでは無いけど……」
     言いつつ戸惑いを隠せないように唇を舐める。
    「急に目覚めたのかと思った」
    「目覚め?」
    「ああ、いや。大丈夫。何でもない」
     そんなに慌てた素振りで、何でもないことはないだろう。悪いことをした。仕切り直しのつもりで口を開き
    「愛之介さま……あ」
     もう一度身体に裏切られた。
    「どうしよう。何か変だ」
     頭の中では愛之介と呼べているのだが声にした途端敬称を付けてしまう。さま呼びなんて今まで一度もしたことはないにも関わらずだ。
    「心当たりは?」
    「無い」
    「失礼します。愛之介様、今……」
    「……コイツじゃない?」
     愛之介が開きかけの扉を親指で指した。そこからするりと入ってきた男に声をかける。
    「おい、彼に何か良からぬ知恵でも吹き込んだか」
    「いえ」
     即座に否定したスネークだったが、愛之介に二,三枚の紙を渡したのち「ああ……」と思い出したように顔をあげた。
    「強いて言うなら先日愛之介様講座を」
    「は?」
    「あー、やったね」
     二人で頷く。横で一人ぽかんと固まっていた愛之介は、意識を取り戻すとものすごい速さで紙に何か書き込んだ。受けとるスネークに困惑の視線を向ける。
    「何だそれは」
    「愛之介様の行動精神その他諸々に詳しくなるための特別講座です。僭越ながら講師は私が、生徒は」
    「俺」
    「非常に有意義な時間でした。ですが……意気込んだ結果かなりの長丁場になってしまった点は反省しています。君、すまなかった」
    「いいよ。途中から記憶無くて気づいたら終わってたし」
    「それなら良かった」
    「良くはないだろ……」
     何故かひどく疲れた風の長いため息が部屋に響いた。
    「つまりアレか。ランガくん」
    「なに、愛之介様」
    「……これはそういう事か?」
    「でしょうね」
     部下の感情の含まれない返答に愛之介の腰を上げる。つかつかと窓際に近づいていく彼の手には、どうしてだか棒のような物が握られていた。
     風にカーテンが揺れた。たった今自分が開いた窓の外へ棒を投げて彼が振り返る。その顔には、にっこりと作られた笑み。
    「取ってこい」
     背後の扉が閉まりスネークが消えた。
    「怒ってる?」
    「君にじゃないから気にしなくて良い」
     そう言いつつ、窓枠に肘を着く彼の背からは「何だ講座って」「僕を置いて何を」次々ぼやきが零れ出す。露骨だ。
    「嫌そうだ」
    「嫌と言うか……アイツはああいう所がある。今度からは断るんだよ」
    「んー……」
     ハッキリとした返答を避けたのは伝わってしまったようだ。愛之介の目が瞬きもせずこちらを見ている。
    「話したいの?」
    「それはそう……かも」
    「取ってきました」
    「ご苦労」
     扉が開き、スネークが帰ってきた。丁寧に捧げられた棒を愛之介は受けとるとまた外へ腕を振る。やり投げの要領で飛ばされた棒は放物線を描き、明らかに先ほどより遠くへ消えた。スネークが走り出す。
     なんでもう一度。当然の疑問は、戻った彼が向かいではなく隣に座ったことでぼんやりと解決した。
    「じっくり話そうか」
     自分は良くない返答をしてしまったらしい。
    「アイツと話がしたい理由を教えて。無くすから」
     首にじっとりと嫌な汗がにじむ。ここで間違えるわけにはいかないけれど、彼は下手な取り繕いが通じる相手でもない。ここは正直に、かつできれば慎重に。
    「講座、楽しかった。また聞きたい」
    「途中から記憶が無いんだろ?」
    「二時間までは覚えてる」
    「そんなに」
     愛之介の表情に少しだけ揺らぎが生じる。かくんと顔が傾き、やや後ろめたそうな上目遣いが向けられた。
    「飼い主として謝るべきかな」
    「ううん。あなたもスネークも悪くない」
     本当だ。何故かといえば単純なことで。
    「そもそも俺から頼んだんだし」
    「君が?」
     再び丸くなった瞳は信じられない物でも見たようにぱちぱちと瞬きを繰り返す。
    「どうして」
     それもまた単純だった。
    「あなたのことが知りたかった」
     言った瞬間更に目が開かれ、そして徐々に細められた。濃く縁取る睫の下では彼らしい赤が瞬きのたびとろんと溶けていく。嘘偽りの無い返答はお気に召したようだ。
    「ふーん……」
     素っ気ない返しも解りやすく浮わついている。
     扉が音をたてて開く。ややゆっくりと入ってきたスネークは肩を上下させつつも、手にはしっかりと先ほどの棒を掲げていた。
    「……取ってきました」
    「よし」
    「では私はこれで」
    「待て」
     一声で部下を制止させた愛之介が何故か部屋の隅に移動する。念入りに準備体操をしたかと思うと唐突に窓へ駆け出し、またもや手に持った棒を。
    「えっ」
     一度目二度目を大きく上回るだろう力強さで棒は空に旅立った。スネークは既に存在しない。追ったのだろう。
    「悪くないって言ったのに」
    「気にしないで。これは罰ではなく褒美のとってこいなんだ」
     そんな物があるとは思えないが、軽く息を切らす顔は清々しく晴れやかだ。愛之介はそのまま大股数歩でこちらに戻り勢いをつけソファに腰を下ろした。揺れに目を白黒させる自分に向け大きく腕を広げる。
    「抱きしめていい?」
    「どうぞ」
     さっと腕を胸の辺りでまとめれば、怪訝な顔で手が止められた。
    「何かな。それは」
    「抱き枕のイメージ」
    「……」
     スネークから聞いた話だ。遥か昔愛之介が使っていた抱き枕は真っ直ぐだったらしい。
    「君は抱き枕みたいだって、前言ってたから」
     寄せてみた。そう言う自分に彼の手が伸びる。
    「わ」
     背中を引き寄せた愛之介はそのまま身体をこちらへと倒した。耐えきれなかった背中をソファが受け止める。抱き締めるだけではなかったのか。一応逃げ出そうとしてみたが、ソファと彼の胸板の間で腕が固定されてしまっていて無理だった。
     肩口に頭が乗せられる。
    「忘れて」
    「何を」
    「全部。アイツが言ったこと」
     それは嫌だと思ったので沈黙を返事とした。むくりと起き上がった顔は気に食わないことを隠しもしない。
    「僕のことを一番知ってるのは誰?」
    「すね、ん」
     言いきる前に背骨がぎゅうと締めつけられる。
    「もう一回」
    「あなた?」
    「解ってるじゃないか」
    「よかった……」
     不正解だったらどうしようかと思っていた。
     こちらの髪をわしゃわしゃかき混ぜながら愛之介が鼻を鳴らす。
    「僕のことは僕にきけば良いんだよ」
    「わかった。これからはそうする」
     素直に聞き入れると満足したのか手の動きを変えた。乱すそれから整えるそれへ、大きな掌はゆるゆると頭を撫でる。髪越しに伝わる体温が心地いい。
    「良い子だ」
     彼のこの、ふとした時に見せる表情が好きだ。ひりつく夜のギラギラと野性的な顔つきや紙吹雪に包まれた満面の笑みと比べ、滲む感情こそ少ないが何故かとても幸福げに感じる。目にしただけの自分にも伝わるほどのそれは、やはり見せてもらうこと自体特別なのだろう。だからこそほんの少しだけ心苦しかった。心中で謝罪する。今度からはそうするから、先日については忘れたふりで許してほしい。
    「呼んで」
    「愛之介様」
    「もっと」
    「気に入った?」
    「存外悪くない。元を辿ると複雑な気分になるけど」
     肘をついた片手に顎を乗せ、愛之介は目を伏せる。葛藤のようなものがあるらしい。こちらを置いて考え込み始めた彼だったが、腕も手も離してはくれなかった。仕方なく今夜の献立に意識を飛ばす。
    「んん……」
     眉間に皺すら寄せて悩むさまは随分深刻そうだ。とても呼び名ひとつ、その出所ひとつに囚われている風には見えない。
    「何だろうね」
     普段あれほど凛々しく引き締めている顔面を崩し、ふて腐れた子供のように下唇を噛む。
    「僕以外の人間が残した痕に喜ぶなんてやるせなくて」
    「痕って」
     意味深な言葉選びは彼の十八番だがこんな時までしなくとも。つい反応してしまった。
    「大げさだ」
    「いいや」
     伸ばした指先が顎を沿い、唇に触れる。「癪だな」と愛之介が呟いた。
    「これも僕が手に入れるはずだったのに。先を越された」
    「俺もスネークもそんなつもり無かったよ」
    「解っているさ。だからこそ腹が立つ。君とアイツと、僕自身に」
     放置していた唇を押す指の腹。その本数が増えた。
    「う」
     ぐにぐにとぞんざいな動きで遊ばれる。思わず声は出たが痛みはなかった。当然調整されているのだろう。
     不機嫌寄りの無表情から意図を読み取ることは一切できそうにない。ただ愛之介が気まぐれに自分のパーツで遊ぶことは珍しくなく、待てば終わると経験から学んでいるので恐怖もなかった。ひとつ懸念があるとすれば、その時間にかなりの開きがあること。一瞬の時もあれば数週間会う度同じ動作を頼まれた時もある。
     さて今日はどうだろうか。ひたすら睫毛にマッチ棒を乗せられた一日のことを思うと最悪それくらい想定するべきだが、
    「……」
     もしそうなった場合自分は今日死んでしまうかもしれない。
     いつもと違う。
     差し出したパーツを玩具のように弄んできた指に、今突然おかしな動きが加わった。例えば触れるか否かの距離でさするだとか、爪の先でわずかに引っ掻くだとか。極々弱い刺激をとにかく丹念に送ってくる。大抵は何も感じず済むが、時折よく解らないくすぐったさが唇から伝わって来るのがどうにもそわそわして嫌だ。これは良くない。ぼんやりと受け流すにはこの感覚を知らなすぎる。
    「悪いけどもう」
     開いた口に何かが入り込もうとした。反射で避ける。
    「残念」
     入らなかった指を愛之介はふらふらと揺らした。おそらく先程からのおかしな動きもわざとだったのだろう。何かしら言いたいところだったが、口を開いた瞬間あれに狙われるとも限らない。早々と諦めた。
     再び寄った指は尚更解りやすい動きで唇を翻弄する。力を抜いたそれを好き放題するわりに先程の割り込むような真似はしない。どうやらこちらが抵抗しなければ、向こうも強引に進める気は無いようだ。良い悪いのか判断はできなかった。それどころではない。
     ひたすら狼狽えていると、くくっと笑い声が聞こえて指が離れた。
    「そうだ」
     身動きが取れる。さっと起き上がった彼は端末を操作した。
    「棒はもういい。代わりに…………を。……なら両方だ。形違い?いくらでも持って来い」
     未だ旅人を追いかけていた可哀想な部下に何やら指示を出す横顔は、いきいきと明るい。
     端末を置いた彼に今度はこちらから寄った。
    「解決した?」
    「ああ。簡単な話だった。切欠が他人だと思うから腹が立つんだ」
     難解に考えすぎていたのだと、愛之介は苦笑を漏らした。かぎ状にした指の関節で戒めるようにこめかみを叩き「それなら」と続ける。
    「上書きしてしまえばいい。僕の頼みでそうしているとか、そんな風に」
    「それは」
     強引と言うか、乱暴と言うか。確かにそれが出来たら話は簡単だが、人間の記憶はそこまで扱いやすくできていない。
    「できるの?」
    「できるんじゃない」
     おざなりに返した彼の手が扉を迷いなく開き、ガラガラとキャスターが、ラックとかけられた大量の衣服と共に滑り込んだ。愛之介は室外に二,三言葉を投げて扉を閉め入念に鍵周辺を塞ぐ。カーテンまで閉じられてしまえば、室内の様子は完全に二人のみが知るところとなった。
     ラックを物色しつつ、愛之介がひらりと手招きする。
    「安心して、こういう遊びは得意だから。はい」
     渡された衣装には見覚えがあった。来る度ちらほら見かける人影達、あれらと揃いだ。
    「着て」
    「良いけど、どうして?」
    「それは」
     質問には丁寧な返答が寄せられたが残念ながらその全てを自分は理解できなかった。
    「着られたなら後は任せていいよ」
     つまり着れば強制的に『それ』が始まる。急いで逃げ出そうとした身体は呆気なく捕まり、有無を言わせぬ力強さでシャツが剥ぎ取られた。
    「大丈夫。僕を敬いたくてたまらないんだと上手に勘違いさせてあげる」
     折角だからご主人様とも呼んでもらおうかなと不穏な言葉を発して愛之介はくすくす笑った。耳に注がれる声はこれから起こるだろう出来事への期待に包まれている。子供のようだ、無邪気かつ残酷。
     続く言葉に目眩が起こった。
    「本当に目覚めてしまったら、ごめんね?」
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