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    20210612 ワンドロお題「わがまま」付き合う付き合わないでもだもだ

    ##明るい
    ##全年齢

    我が意の儘に延長戦「だめ」
     再三告げた言葉を今一度はっきりと突きつけてやれば、ランガは不満を隠すこともなく整った顔面にめちゃくちゃなしわを寄せた。 
     気持ちは分からないでもない。自分が彼の立場でも同じ表情を作り納得がいかないと訴えるはずだ。今まで自分と彼が紡いできた記憶を省みるなら、この返しはあまりにも不可解すぎるのだから。 
     何も言わないランガに背を向けた途端腕に違和感を覚えた。袖をきゅっとつまむ白い指先。手首ごと掴めばいいだろうに。変な奥ゆかしさは、嫌いではない。
    「ん?どうしたのかな」 
     何か言いたげな顔を大げさに覗きこむ。長い睫毛をやたら瞬かせたのち、隠しきれない自信の覗く表情が「愛抱夢」こちらを呼んだ。何か思い付いたらしい。折角だ、聞かせてもらおう。 
    「お腹空いた」「こんな物で良ければ」携帯食料を放り込み「つかれたかも」「いつでもどうぞ」膝を叩き招いて「……ビーフしたい」「僕もそう思ってた!」笑顔で返せば、少年は手応えを感じたらしく拳を握りしめ、畳み掛けるべく素早く口を動かす。
    「付き合って」
    「それはだめ」
    「……何で」 
     作戦は不発に終わった。だらりと落ちた腕に下がりきった眉。矢継ぎ早に言えばすんなり頷くと、そう芯から思ったのだろうか。愚かな子供は可愛い。 
    「俺のこと好きなんだろ」 
     加えてこの台詞。数百回聞かせたとはいえ、随分とまあ自信をつけたことだ。 
    「好きだよ」 
     数百と一度目の告白に肩を跳ねさせたランガはごにょごにょと感謝を述べ、それからハッと目を見開き。
    「じゃあ付き合う?」
    「付き合わない♡」
    「……」 
     不意打ちなどという小狡い真似も当然通用するはずはなく。世間知らずの純粋な少年、そのはずだった子供は膝を抱えうずくまる。
    「あなたは俺が好きで俺もあなたが好き。なのにダメって……ちょっとわかんない」 
    「理由が知りたいなら、やり方があるだろう?僕達らしいのが一つ」
     丁度準備も終わったようだしとヒントを露骨にちらつかせればその背がすっと伸びた。
    「俺が勝ったら理由、教えてもらう!」
     気合いに満ちた声を飛ばし、スタート地点に向け走り出す。時間。ルート。天候。様々な状況で幾度となく彼と滑ったこの身は知っている。やる気充分、雑念も充分。こういった場合ランガは 
    「残念でした」 
     遅い。
     実力の半分も発揮できなかったであろう四つん這いの背中は哀れみの手を拒みぜいぜい吐く息の隙間から「だいしょう」と問いかけた。だいしょう、代償か。 
    「ああ、そういえば決めてなかった。君に合わせて一切質問禁止とか?」 
     無慈悲な提案に身体はあえなく地面に潰れた。伏せられた顔から小さな声が漏れる。
    「そんなにいや?」 
    「まさか」 
     両の手でランガの顔を起こす。寂しげな揺れる瞳に微かに混じる不安と恐怖。首筋をくすぐる優越感を押さえ込み、粉塵まみれの耳にそっと囁いた。 
    「本当のことを言うとね。君から「付き合って♡」って言われる度、抱きしめてキスしたくなる」 
    「……してもいいよ」 
    「ふふ。しない」 
     たいそう魅力的な誘いを表面上だけでもすんなり断れたのは、それを待ち続けた時間があまりに長かったせいだ。焦らされた心は熟れ落ち内から欲を溢れさせていた。自分が感じただけの気持ちをいつか彼にも、そんな風に濁った欲を。
    「まあしばらくは耐えることだ」 
     すり寄る頬からわざと離れる。頷きこそしたものの、歪んだ唇はあからさまな不平を示した。無表情が常のランガをこうまで乱している事実に心が踊る。 
     なってみなければ分からないもので、追われる立場、その快感は底無しだった。贈られる愛を避け、物欲しそうな顔を見る悦びは幸福を先送り出来る程。 
    「どうしても我慢出来ないようであれば今度こそ全力で勝ちにおいで。手は抜いてあげられないけど」 
     恐ろしいことに今ふらふらと立ちつつある少年はこの自分でさえ抗えない快感を簡単に捨てたのだという。真っ直ぐ見据える両目は相も変わらず清く、それでいて不純な動機をやはり隠しもしない。 
     付き合わなかろうと自分達は確かに好きあっているのだからそれでいい、そんな殊勝な思いを抱ける二人ならもっと話は早かった。ここに居るのは頑固者二人、強固な自我が二つ。 
    「どちらが通るかな」 
    「?……っ」 
    「ああほら、擦らない」 
     無意識だろう、汚れた腕で顔を擦ったランガが涙を溢す。おろおろと動く手をことさら優しく握った。 
    「連れていってあげる」 
    「……いい」
     先程の元気は何処へいったのか。これくらいの接触で照れるようなら付き合うなんて絵空事だと思うのだが。それともアレだろうか。不意打ちを選ぶ人間は自身も不意打ちに弱い、というような。 
    「デートだよ」 
     言えばランガの口元は緩み 
    「付き合ってないけどね」 
     すかさず釘を刺すとぽかんと開いた。面白い。 
    「意地悪」 
    「はは」 
     子供らしい悪態を笑い飛ばす。いつまでも聞ける物ではないだろうし、我慢だってすぐできなくなるだろう。彼も、自分も。けれどもう少しだけこの微妙な距離感を味わいたかった。
     自分達の関係に特別な名が付いたならもう戻れない。繋がれた熱さ以上の物を知ってしまえば二度と離れる気にはならないだろうから。
    「大丈夫。すぐたどり着く」
     それまでの辛抱だ。振り回した分振り回されて求められた分だけ求めてくれ。いつかの日には必ず全てまとめて返すと約束しよう。 
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