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    20210626 ワンドロお題「ジューンブライド」ぼんやりハッピー未来捏造
    愛抱夢なのか愛之介なのかよくわからないときわからないままにしがち 同じ人ですよ

    ##明るい
    ##全年齢

    本日はお日柄も良く まずスマホの画面。次にサイドテーブル。更には壁に掛けられたそれを確認し。
    「起きて」
     隣の男を揺さぶった。
    「起きて。起きて起きて起きて」 
    「……ん、大丈夫。起きているから」 
     うつ伏せのままの顔から漏れる声は、口でなら何とでも言える良い例だ。いつもの休日ならともかく今日は許されない、悪いが強硬手段をとらせてもらう。 
     ずりずりと枕を引くと恨めしそうな顔がこちらを向いた。未だ目は開かないにしても、何故か両腕をうろうろとシーツの海にさ迷わせているところを見れば若干目覚めが近づいているのが分かる。あとはカーテンを開き朝の光を浴びせてしまえば自然と起きるに違いない。 
     早速行動に移るためベッドから出ようとした背中を
    「……ああ、いた…………」
     むんずと何かに掴まれる。瞬間身体は強烈な力に引きずられ、なす術もなく背中は再びベッドへ。勢いに多少むせる身体を今度はこのうえなく優しく、何かの正体が包んだ。
    「……おやすみ」 
     完全に寝ぼけている。必死に手足を動かして叫び続けると「近所迷惑になるからやめようね」と諭された。誰のせいだと思っているんだ。怒りに任せて腕をはがし、サイドテーブルの上から取った重要事項を眼前に置く。
    「見て」 
     見ようとしない。仕方ない、頼んで聞いてくれない時はこうするのが一番早いから。言い訳と共に顔を近づける。もうすっかり慣れた寝起きのややかさついた感触から離れればくすくすと笑い声が返り、ようやく男が薄目を開けた。
    「仕方ないなあ」
     どちらがだ。
    「……おや」
     一度だけ瞬きした目は丸いまま動かなくなった。ようやく気づいたのだろう顔に珍しく僅かな焦りが浮かぶ。彼にそこまでさせる現実が今、自分達の目の前で静かに針を進めていた。
     時刻は──確認したくもない。とにかく寝坊だ。 
    「えっとあとあれ、あれが……無い」 
     前日何度も確認してしっかりと準備したはずなのにどうして。学生時代から永遠の謎だ。 
    「ねえ、あれって」 
    「あれ?あれならそっち」 
     こういう時彼がいたく察しと記憶力の良い男であることに感謝する。走る。見つけた。 
    「あった。ありがとう」
     リビングから「いいよ」と声が返ってきた。彼らしく落ち着きがあり余裕に溢れた響きは、残念ながら今の状況には全く相応しくない。 
    「ランガくんはコーヒー?紅茶?記念すべきこの日に君はどちらを選ぶのかな、興味がある」
    「……急いだりは」
    「もちろん急いでいるさ、今もこうして努力を……」 
     棚の中をごそごそと漁り「よし」呟くとこちらを向き笑顔で。 
    「インスタントが残っていたからコーヒーにしよう。僕もそうする」 
     早い方がいいだろうと着替えもろくにせず朝食の準備を続ける姿に頭がくらくらする。彼が起きてからしたことといえば何処かへ電話を一本。担当者宛てかと尋ねれば違うと言うから思わず口を開けた。何年一緒に居ようとも変わらずこの人は分からない。 
    「朝食はきちんと摂った方が良いらしいよ。君はただでさえ燃費が悪いんだし」 
    「わかって……む」 
     テーブルをトンと鋭く叩かれ大人しく座る。 
     こういう時は食事も喉を通らないなんて話を聞いていたから自分も当然そうなるものだと思っていたが普通に飲めるし食べられる、驚きを男に伝えれば「身体の方は理解しているんだ」と二杯目を注がれた。 
    「焦らないで。そもそも大寝坊じゃないんだ、少し急げば充分間に合う」
    「……だね。ごめん」
    「緊張している?」
    「まあ、初めてだし」
    「そうは言うけど散々打ち合わせもしたし予行練習みたいな事だって何度もやってみただろう。落ち着けば問題ない」
     何度もしたというか連れていかれたというか。今日は練習日和だねと四方八方連れ回されたせいでこの辺りのそういった場所にはかなり詳しくなった。無意味だけど。何せ一度しかしないことなので。
     男が立ち上がり「それにね」と膝を叩く。
    「僕だって初めてだ」 
     それはそうだろう。 
    「だが緊張なんてしない。準備は完璧にこなしたし、何より──信じている」 
     テーブルへ置いた輝きにあてられたようにきらめく瞳がこちらを真っ直ぐ見つめた。
    「今日は僕らにとって人生最良の日になるよ」
     良く知っている。「とびきり楽しいことをする」「最高にワクワクしよう」彼からの提案は、まあ多くはその過程で恐ろしい経験をすることになるものの、最終的には全て言葉の通りになるということを。それに惹かれてこの日まで辿り着いたのだから。
    「……あなたがそう言うなら」
    「だろう?じゃあ行こうか。高くて広いところへ」 
     疑問の答えを示すため指された窓の向こう側。豆粒ほど小さく見えるのは。 
    「ね?焦る必要なんて無い。僕達にはあれがある」 
     どちらかと言えば彼一人の物だが、確かに速そうだ。道も空いているし。 あれもこれもと荷物を持ち一番きれいな靴を履いた。扉を開こうと動かした手に彼のそれが重なる。 
     いつもの、人を困らせたくて仕方ない顔が傾き、こちらの名前を呼んだ。「ここに再び戻ってくるとき君は僕のものになっているわけだけど、どう?」
     申し訳ないが今日は思い通りになってあげられそうにない。何て簡単な問いなのか。
    「そんなの」
     もう、とっくに。
    「俺はあなたので、あなたは俺のだよ」
     反応を待たず扉を開く。 
     軽やかな一歩目を最良が祝福した。 
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