月は晒す明かりを全て消せば良かった。
今更ながら後悔している。少しくらい残した方が見やすいだろうと気遣いゆえの判断だったが今夜は月が明るい。小窓からほそく差し込む月光だけで自らが置かれた状況を、望まずとも充分に“彼”は目視出来ている筈だ。
常夜灯は暗い橙で部屋を染め、室内のあらゆる物がほんの僅かに赤みを帯びる。勿体無く思えた。震える背、手を這わせた肌は冷たい。血の気を失ったそれが青い光に照らされるさまはさぞ美しかっただろうに。
あるいは――本当に?
無理やりにあげさせた顔は白く、瞳には情欲の欠片すら感じられない。虚空を見る凪の海。まさしく“彼”の色彩だった。
心から安堵した。
安堵出来たことに、安堵した。