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    20211031 ハッピーハロウィン🎃 絶対特権主張する男、好き

    ##明るい
    ##全年齢

    甘いのずるいの勝てないの いつもよりだいぶ重い荷物を開ける。原因だろうすべすべなのに柔らかい布包みに手を突っ込んで適当に選んで取り出した飴を手渡せばきょとんと目が丸く。
    「知ってんの?」
     主語の無い問いに自分が迷っているうちに一人暦は納得してしまったらしい。しきりに頷いている。
    「それなら平気か。いや、去年うち結構流行ってたからさあ、今年はランガ絶対狙われるヤバいって他の奴らと話してたんだよ」
     よく分からない話に適当な相槌を打ちつつ包みを絞った。一応リボンもきゅっと。渡された時とそっくり同じに。  
     
     土曜に会うなんて変なの。明日も会えるのに。 
     ただの感想のつもりだったそれは、しかし相手にはそうは受け取られなかったようで、二日連続では不満かと大げさな程嘆かれた。不満とかは特にない。ただこのよく知るわけではないけれど、何だかとても忙しそうな人がスケートも出来ないタイミングで会うのをわざわざ何日も前に約束させたのが変だなあと思っているだけだった。言えと言われなかったので口には出さないけど。 
     説明ではなく抱きしめるよう求められ腕を回した身体は、しっかりと筋肉を感じるが固さはそれほど伝わってこない。気が抜けている。やはり疲れているようだ。
    「君こそ疲れているんじゃない?昼間は大変だっただろう」
     まあそれなりに。フィーリングでどうにもならない古典は一夜漬けでもどうにかなる物ではなく。休憩を睡眠にあてることも訳あって叶わなかったうえその後バイトだったので、やや頭がぼんやりしている。
    「……あ、そうだ。愛抱夢、これ」
     一度身を離して荷物を開いた。取り出したのは今日大活躍だった包み。
     返す。言ってから返したことになるんだろうかと内心で首を捻った。中にたっぷりと詰められていたお菓子入りの小袋はひとつも残っていない。朝一の暦に始まりクラスメイトや他学年、はたまたバイト中お客さんや帰り路の知らない人なんかに声を掛けられる度あげていたので。追試組だけ集合の筈の校内にはやけに人が多く休憩時間全てを費やしても足りないほど。 
     そういうイベント事を知らなかったわけではないけれどここまで振り回されたのは初めてかもしれない。ああもしかして彼の言っていた「疲れている」とはこちらの話か。確かに疲れた。
    「ありがと。助かった」
     数日前日持ちするし温度も問題ないから常に持ち歩くよう言われたときはまた何か始まったのかとそれだけだったけれど、いざ彼の気遣いに気づいてからは感謝する限りだった。お菓子の用意なんてしていなかったし、もし今日問われた分を自分で用意しなければならなかったら。計算だけでぞっとする。
    「どういたしまして。足りた?」
    「足りた」
     よかった、と愛抱夢は心底ほっとしたかのように肩の力を抜く。受け渡しにあたり少し離した距離がまた縮められ、今度は反対にこちらの身体がきゅうと包み込まれた。
    「今日一日気が気でなかったよ。悪戯という名目で君に何かする輩が居るのではと」
    「居ないよ」
    「そうかな」
     この人は意外と心配性だ、それも大体斜め上の方向に。 
     見ている世界が違うのだろう。この人にとっての自分はなんだかとても素敵な、それこそお菓子以上に価値のあるものなのかもしれない。違うのにと思う一方でくすぐったい温かさを大事にしたくもあり。
    「だいじょぶ」
     否定もフォローも全部混ぜこぜに乗せた唇を彼のそれに合わせた。離せば見つめてくる視線は少し上なのに、上目遣いされているような気分になる不思議。甘えられていると考えてもいいだろうか。
    「知ってるだろ。あなたのだって」
    「……ああ。うん。知ってる」
     やわらかく下がる目尻は、なんとなく好きだ。 
     それにしても、そんなに気にしていたならお菓子をあれにしない方がよかったのでは。ちょこちょこ抓ませてもらっていたけど美味しかった。自分の周りに人が集まった理由は間違いなくそれだと思う。口コミ的な。そのせいで最終的に自分用の筈だった分まで取っていかれてしまったのを思い出すと少し気分が下がる。
    「それじゃあ君、今何も持っていないんだ」
     肯定すれば愛抱夢は急に目を輝かせ、ころころ転がるような声色でランガくんと名を呼んできた。
    「はい」
    「トリック・オア・トリート」
    「…………」
     この人聞いていなかったんだろうか。お菓子はもう無い。自分が選べる道はもう一つしか、出来る事なら回避したい方しか残っていないのだけれども。
    「……あの」
    「トリック?」
     一択になった。
    「……他の人は駄目で」
    「僕は良い。僕のなんだから当然だろう」
     悪戯――悪戯かあ。困った。うきうきと軽く揺れる愛抱夢の頭の中はきっと何をするかでいっぱいだ。この人は自分を素敵なものだと思うと同時に好きにしていい何かとして認識しているようだから、少しだけ怖い。
    「愛抱夢」
    「なにかな?」
    「トリックオアトリート」
    「……ふうん?良いけど」
    「どっち」
    「それなら」
     こっち、と取り出されたチョコレートは包装できらきら。それをあっさり剥がした愛抱夢は
    「え?」
     こちらへ渡すことなく何故か自身の口に含む。固まる自分に差し出されるのはもう一粒のチョコレート――では勿論なく顎に添う手。そしてハンカチだった。もしものことがあっても汚れないようにみたいな遣いすぎにも思える気遣いが出来るなら、現物で欲しい気持ちくらい簡単にくみ取れるだろうに。二度目の変なのを心の中で呟いて口を開く。これが悪戯という事にならないだろうか。ならないだろうな。
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