食糧くんは吸血鬼がお好き「あ」
薔薇に触れるたび思い出す。そういえば茎には棘があり、棘は刺さると痛く、そして。
「あー……出てる……」
指先を確認したところやっぱりあった。小さいけれど確かな痕。花びらに負けないくらい真っ赤な血が。
どうしよう。このくらいの傷でパニックになるほど子供じゃないけど、おそらく隣室に居るだろう二人にこれがバレたらと思うとたいへん焦る。
見つかる前に何とか絆創膏でも。そんな思いは勢いよく開いたドアに弾き飛ばされた。
「失礼。少々急いてしまった。君が傷を隠すつもりでは無いかとつい」
近付く手に即傷のある側の手指が確保される。そんなに分かりやすいかと尋ねれば彼は傷痕を観察しながら真面目な顔で頷いた。
「実に分かりやすい。香りの強さもあるだろうが僕にとっては所有物だからね。捧げられるべき一滴が流れているとなれば気も逸るさ……ということで」
いただきます。挨拶と共に指が食まれた。じゅう、と耳をくすぐるような音が鳴ったなら抵抗する間も無く身体から血とそれに伴う何かが持っていかれる。傷口から漏れていた量より明らか多い。分かるのは経験と血に代わって身体をめぐるどくどくと脈打つもののせいだ。頭の中身が優しく溶かされて、目の前の大好きな彼のことしか、ああもう始まった。だから隠したかったのに。
生きるために血がいる。分かる。だから自分を攫った。分からないけどまあ分かる。けれどただ血を吸われるのは辛いだろうからその間は彼の虜になるし快感も得られるようにする。ちっとも分からない。
「そんな目で見なくとも、一言欲しいと求めてくれたらちゃんと噛んであげるのに」
見てないし求めない。思うのに口から出た言葉はどうしようもなくてせめてと吐いたため息は熱っぽかった。目を閉じたのは呆れたからだ。首もとへ近付く顔を直視出来なかったとかそういうことでは全然無い。